クリックディープ旅

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。11回目で日本の警察官向けの温泉として建てられた紅葉温泉旅社に辿(たど)り着いた下川さん。12回目は、紅葉温泉旅社を後にし、萬榮(ワンロン)温泉、花蓮(ホワリエン)、清水断崖に向かいます。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11」はこちら

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

台湾の東海岸の超秘湯は増水を前に断念?

紅葉温泉旅社を後にし、東海岸に沿って花蓮をめざす。途中には萬榮温泉という渓流温泉があるはずだったが。近くの村に着いたが、温泉がなかなか見つからない。村の人に聞くと、目の前を流れる萬里渓という川を渡った先にあるという。

河原に下りてみたが、萬里渓は水量を増し、腰のあたりまで水につからないと渡れない。水の流れも速い。立っているだけでも大変そうだった。カメラをぬらすことなく渡ることはできそうもない。音を立てて流れくだる萬里渓を前に立ち尽くしてしまった。どこか渡河できる場所はないだろうか……。

今回の旅のデータ

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

花蓮は台湾東部観光の中心地。訪ねる日本人も多い。ここから太魯閣(タロコ)方面に向かうルートは、定番コース。台北からはバスもあるが、列車を使う人が多い。太魯閣、普悠瑪(プユマ)号という特急列車で2時間強。自強号で3時間といったところだろうか。台湾の鉄道は電化が進んでいる。2020年には南回り線の一部の電化工事が終わる予定。2022年には全線が電化される計画で進んでいる。

長編動画

紅葉温泉旅社から萬榮温泉に近い西寶(シイバオ)村までの道を。台東の幹線道路から深い山道に進んでいきます。

短編動画

日中の気温は35度を超える。子供たちは萬里渓にダイブ。川を渡れない僕らは複雑な心境で眺めました。

下馬から紅葉温泉旅社へ「旅のフォト物語」

Scene01

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

台湾の人はサイクリングが大好き。いちばん人気のスポーツかもしれない。台湾全域にサイクリングロードはつくられ、台湾一周組も少なくない。いくら気温が35度を超えるといっても。萬榮温泉に向かう幹線道路にも、サイクリストの列。連日の猛暑であごが出はじめている僕には異星人のように映った。

Scene02

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

萬榮温泉は西寶村の先。村の道を進むと、行き止まりになった。ここからは歩くしかない? しかし道は川のようになっていて、ひどくぬかるむ。秘境温泉を訪ねるときは長靴が必需品だな……などと話しながら、山道を登っていく。温泉は萬里渓にあるはず。しかし道はしだいに川から離れていく。

Scene03

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

道が違うのかもしれない……。噴き出る汗を拭いながら、眼下の萬里渓を眺める。いったん西寶村に戻ることにした。しかし過疎化が進んでいるのか、人の姿がない。やっと作業場の奥にいた男性に聞くと、村から直接、川に降り、河原を進んでいくらしい。これまで山道ばかり歩いてきた。萬榮温泉は河原歩きバージョンか。

Scene04

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

村の集会所があるところに戻ると、川への下り口があった。ここが萬榮温泉の入り口らしい。温泉に行くときの注意事項や簡単な地図も掲示されていた。ここから河原までは2分ほどだった。これまでの谷底にあった野渓温泉とは違う。これは楽勝かも……。しかし河原に出た僕らは言葉を失ってしまった。

Scene05

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

目の前を大量の水が滑るように流れくだっていた。前夜、上流で雨が降ったのだろうか。ぼうぜんと見つめるしかなかった。台湾の全温泉に入ることをめざす案内役の廣橋(ひろはし)賢蔵さんは腰まで水につかり、渡河を試みる。途中で引き返してきた。「かなりの流れです。体がもっていかれる。カメラを持って渡るのは無理かも」。別の渡河地点を探すしかない。

Scene06

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

大きな石がごろごろと折り重なる河原を上流に向けて移動してみることにした。少し進むと、石に赤いペンキの文字。川? そんなことはわかっている。すぐ横を萬里渓が流れているのだ。ここを進めば渡河地点がある? そういう意味だろうか。行ってみるしかなかった。

Scene07

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

河原を10分ほどさかのぼってみた。水流が弱まる地点は見つからなかった。中州まで渡ればなんとかなりそうな気がした。車でくだり、橋を渡り、対岸で道を探してみることにした。案内図に示された萬榮温泉は川の対岸にある。河原を戻ったが、もうシャツは汗でびっしょり。気温はぐんぐんあがっていく。

Scene08

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

対岸は林田山林業文化園區というリゾート施設だった。日本統治時代から続いた木材の伐採基地をリノベーションしていた。その脇の堤防を伝って中州に下りることができた。遮るものがない炎天下の河原を歩き続ける。しかし再び急流にぶつかってしまった。その先には行けなかった。どうしようか……。

Scene09

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

廣橋さんは、最初に渡ろうとした地点でトライするという。中田浩資カメラマンはカメラの水没を危惧。僕は途中、村の老人が口にした日本語が気になっていた。「ヘビが出て危ない。でも、食べるとおいしい」。結局、廣橋さんだけ向かうことに。軟弱な僕らは林田山林業文化園區で休憩。

Scene10

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

萬榮温泉にひとり向かった廣橋さんのコメント。「川を渡った先、さらに激流を3回渡りました。河原を歩くこと30分。岩肌にイオウが付着しているところを発見。このロープを伝って登ると、ほどよい温度の温泉が流れ落ちていました。これが萬榮温泉。脇に浴槽跡がありましたが、崩壊状態でした」(続く)

Scene11

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

「どうやって萬榮温泉に入ろうか。滝つぼにつかるしかない。衣服を脱いで入ったが、尻が半分、湯に入る程度。2~3分ほど、流れ落ちる湯を背中に当てていました。湯の量も多くなく、入浴気分にはなれなかったが、秘湯感は満点。帰りは少し楽な道を見つけて戻ってきました」

Scene12

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

萬榮温泉から花蓮に出た。台東以来の都会。太魯閣渓谷への玄関口でもある。この街には、日本統治時代の建物も数多く残っている。特攻隊が出撃した旧日本軍の施設、松園別館。その近くには軍幹部の宿舎をリノベーションした将軍府。花蓮の街並みも、どこか日本に似ている気がする。

Scene13

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

「花蓮といったらワンタンでしょ」。廣橋さんにいわれ、街の看板を眺めると、「扁食(ピェンスー)」の文字がすぐに見つかる。台湾では普通、餛飩(フントゥン)と書くが、花蓮では扁食。いずれもワンタンの意。早速、ワンタン麺を食べてみました。1杯75元、約288円。ワンタンはツルッとしたひと口サイズ。でも、意外とボリュームあります。

Scene14

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

花蓮に1泊。翌朝は幹線道路沿いのこの店で朝食をゲットした。卵焼きを挟んだ焼餅(シャオビン)が35元、約130円。豆漿(トウジャン)と書く豆乳は10元、約37円。台湾ではすごく一般的な朝食セット。これをテイクアウトし、先にある清水断崖で食べようという腹積もりだったのですが……。

Scene15

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

台湾の中央山脈が太平洋に落ち込んでいる清水断崖。高さは800メートル前後だという。台湾が誇る絶景。快晴に恵まれた。この眺めを見ながら朝食と思ったのだが、日陰がない。わずかな木陰は観光客に占拠されていた。ここで長編動画を撮ろうとした僕らは愚かでした。その動画は次回に。

【次号予告】次回は清水断崖から台北へ。

※取材期間:2019年7月31日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

BOOK

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

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