心に残る旅

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

いつもと違う場所で風に吹かれた経験は、折に触れて思い出すもの。そんな旅の思い出を各界で活躍するみなさんにうかがう連続インタビュー「心に残る旅」。第11回は俳優の松本穂香さんです。
(聞き手・溝上康基、写真・竹田武史)

心に残る旅は、『世界ウルルン滞在記SP』撮影時のホームステイ

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

――4年前、高校生のときに俳優としてデビューし、いま22歳。デビュー以来、人気ドラマや映画への出演などで大活躍ですが、これまでで、心に残っている旅の思い出はありますか。

「今年2月、人生で初めてホームステイの経験をしました。テレビ番組『世界ウルルン滞在記SP』の撮影のために、ロシアのサハ共和国を訪れたんです。5日間の滞在だったのですが、訪れたトムトル村は、ロシアの北東部の端にあり、空港から自動車で丸2日間かけて、ホームステイ先の家へ向かいました。とても思い出深い貴重な体験ができました」

――サハ共和国は、氷点下70度近くまで気温が下がる、北半球の寒極の地ですね。

「私が訪ねたときも、マイナス50度を下回っていました。家の中は暖房で暖かいのですが、外では一瞬でも雪に触れたら肌が痛くなるような、これまで体験したことのない寒さでした。村では凍傷になる人も多く、常に身近に命の危険を感じるような極寒の生活でした。世界には、日本では考えられないような厳しい環境の中で生きている人たちがいることを、改めてこの旅で知ることができました」

――そんな過酷な自然環境の中でのホームステイはいかがでしたか?

「私がお世話になった家は子だくさんの大家族だったんです。毎日、にぎやかで、とても楽しかったですよ。ただ、過酷な自然環境の中では、日常生活を送るだけでも仕事が多く、お父さん、お母さんは、毎日とても忙しく、仕事に追われていました。私は毎日、子供たちと楽しく遊んでいましたが……」

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

――何か仕事のお手伝いはされましたか?

「まず、毎朝起きると、小学生の女の子をソリに乗せて小学校へ送り届けることが、私の仕事でした。家へ戻ると、次は、お父さんと一緒に牛小屋に行ってフンなどの掃除をしました。2人でも大変な作業なのに、お父さんは厳しい寒さの中、たった1人で毎日こなしてきたのだなと、その苦労を想像しました。また、ストーブの火は毎日、絶やすことができないので、お父さんの薪(まき)割りの仕事も手伝いました。最初は戸惑いましたが、だんだん、薪割りの腕が上達しましたよ」

――現地の家庭料理の味は、いかがでしたか?

「現地の料理は、毎日とてもおいしかったです。お母さんと一緒に、ロシアの伝統料理のピロシキなども作りました」

――滞在中、ホームステイ先の家族の人たちへ、日本料理などはふるまいましたか?

「魚釣りに連れて行ってもらったんです。地面の氷に小さな穴を開けて、糸を垂らして魚を釣るんです。このとき、私が釣った小魚を家で調理し、日本料理の煮付けにしてふるまいました。みんな、とてもおいしいと言いながら喜んで食べてくれました」

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

――海外旅行の経験は他にもありますか?

「海外へは仕事で行くことが多いのですが、昨年は撮影のためにカナダへ、今年は映画祭のゲストとしてロシアのモスクワと韓国のチョンジュを訪ねました。現地の人たちの映画を見たときの反応が、その国によって、日本とはまったく違うので、異なる文化を持つ人たちと接することは、とても刺激的で勉強になります」

――いずれも寒い地域ばかりですね。ほかに行ってみたい国、場所はありますか。

「そうですね。次は暖かいところがいいですね。場所ですか? ハワイなんかがいいですね」

TBS日曜劇場『この世界の片隅に』、初主演長編映画『おいしい家族』……。松本穂香にとっての旅と俳優業

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

おいしい家族』9月20日(金)全国公開 ©2019「おいしい家族」製作委員会

――長編映画初主演となる『おいしい家族』は、ほぼ全編、伊豆諸島の新島での撮影。松本さんを主演に抜擢(ばってき)した、ふくだももこ監督は、「彼女は携帯電話も持たず、マネジャーもつけずに1人で島へやって来た」と話していましたが。

「実は携帯電話は、持って行くのを忘れてしまったんですよ。でも、都会を離れ、10日間、島で過ごすという経験は初めてで、とても貴重な時間でした。島で眺める海や夕日の美しさは、都会ではふだん見ることのできない景色でした」

――長編映画初主演というプレッシャーはありましたか。

「なかったと言ったらうそになりますが、父役の板尾創路さんたちベテランの共演者の方々が現場の空気を和ませてくださったので、気負うことなく、撮影に臨むことができました」

――松本さん演じる会社員の橙花が故郷の離島へ帰省したら、“父が母になっていた”という物語ですね。

「一見するとLGBT(性的少数者)がテーマなのかな、と想像するかもしれませんが、そうではなくて、いろいろな人が性別や国籍などに関係なく、それを乗り越え、人が人を愛することの素晴らしさを丁寧に描いた作品なんです」

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

――国民的人気ドラマとなったNHK連続テレビ小説『ひよっこ』では有村架純さん演じるヒロインの親友役として出演。アニメ映画が大ヒットし、話題を集めた連続ドラマ『この世界の片隅に』では、約3000人の中からオーディションで選ばれ、ヒロインを演じましたね。

「『この世界の片隅に』は第2次世界大戦中の広島県呉市が舞台でしたので、撮影前に2回、広島県を訪ねました。広島市の広島平和記念資料館や原爆ドームを見学したり、呉市の舞台となった場所などを訪ね歩いたりしました」

――幼い頃から俳優への憧れはあったのですか。なぜ、俳優というお仕事を職業として選びましたか。

「実は幼い頃から俳優を目指していたわけではないんです。高校時代に演劇部に入って、お芝居の楽しさを知りました。入部の理由も、最初は演技をしたかったから、というのではなく、実は演劇部の部員がみんな個性的だったので面白そうだなと思って入ったんです」

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

――俳優というお仕事に、これまでの旅の経験は影響していると思いますか?

「とても影響していると思います。知らない場所へ行って、さまざまな人と出会う……。旅先での経験、現地で得た感覚は、きっと演技の中でも生かされていると思います。自分の人生でのすべての経験は、必ず演技に、にじみ出るものだと私は考えているので、日常から離れた旅での経験は、とても重要だと思っています。これからも世界中を旅してみたいです」

――俳優業の魅力とは?

「いろいろな人と出会い、いろいろな経験ができること。これからもいろいろな役柄にチャレンジしていきたいと思っています」

世界で最も寒い土地は、あたたかかった 松本穂香さんのロシア・サハ共和国

映画『おいしい家族9月20日(金)全国公開

東京・銀座で働く会社員の橙花(松本穂香)は夫と別居中。母の三回忌のため、実家の離島へ帰郷すると、母の服を着て台所に立つ父(板尾創路)がいた……。
キャスト:松本穂香 板尾創路 浜野謙太
監督・脚本:ふくだももこ 音楽:本多俊之
公式ホームページ:https://oishii-movie.jp/
©2019「おいしい家族」製作委員会

松本穂香

1997年生まれ。大阪府出身。17年、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演し、人気が広がり、18年、連続ドラマ日曜劇場「この世界の片隅に」(TBS系)でヒロイン、すずを演じ注目される。今後公開の映画『わたしは光をにぎっている』『酔うと化け物になる父がつらい』などで主演も務めている。



PROFILE

旅する著名人

家入レオ、ふかわりょう、HARUNA(SCANDAL)、福士蒼汰、加古隆、池内博之、吉田戦車、清水尋也、しりあがり寿、高畑充希、松本穂香

高畑充希さんのニューヨーク 日本ってちっちゃいなと思えた場所

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