カメラは旅する

異国情緒あふれる街、写真家が旅するサンディエゴ

「スペイン語を学んでくればよかった!」

アメリカに来たのにそう思ったのはサンディエゴだからこそ。カリフォルニアの最南端にあるこの街は、メキシコ国境から車でわずか20分。もともとスペイン領、メキシコ領だった歴史があり、地名や通りにもスペイン語由来のものが数多くある。アメリカで8位の人口を誇る大都市にもかかわらず、都会特有のせわしなさがないのはなぜだろう。エキゾチックなサンディエゴを旅する。

(文・写真/葛西亜理沙)

メキシコ系移民のルーツが見えるチカーノ・パーク

ダウンタウンのやや南側、バリオ・ローガンにある「チカーノ・パーク」。昔からメキシコ系移民やメキシコ系アメリカ人が多く住むこの地区を通るコロナド橋の下に位置する。

園内の巨大な柱や壁は彼らのルーツを示すミューラルアート(壁画)で埋め尽くされていた。十字架や写真が飾られた小さな祭壇の前でたたずむ女性に話しかけると「今はニューヨーク在住だけど、私もここ出身なの。ここにくれば自分のルーツを振り返れるし、先祖に会える気がするの」と話してくれた。

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巨大な柱は壁画で埋め尽くされている

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柱の下にあった祭壇。マリア像や十字架もあり、写真や花が飾られていた

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公園に置いてあるベンチや椅子はメキシコの国旗カラー

サンディエゴで人気のメキシコ料理店

巨大な壁画に圧倒され、気がつくと日が傾いていた。「ぐーっ」とおなかがなる。そういえば、機内食からご飯を食べていなかった。そこで、サンディエゴで評判のメキシコ料理店「Puesto」へ行ってみることに。店内はカリフォルニアらしいおしゃれな感じと、メキシコらしいカラフルな壁で装飾されていて、ワクワクする。

フレッシュでオーガニックの食材から作られるタコスは大人気のようで、お目当ての「今月のタコス」はすでに売り切れ。けれど、残念がる私を可哀想に思ったのか「明日の分だけど内緒だよ」と特別に提供してくれることに。出てきたのは金箔(きんぱく)が乗った豪華なタコス! おいしいメキシコ料理に大満足して店を出た。

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お店の入り口にはおしゃれなバー。混んでいても順番が来るまでここで飲みながら待っていられる

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金箔が乗った「今月のタコス」。マンゴーやトストーネ(揚げバナナ)、アボカドが乗っていた

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珍しいメニューを丁寧に説明してくれたエイブラハム

南カリフォルニアらしい植物が彩る町並み

翌日、晴天の街を散策すると、見たことのない木々や草が至るところに生えていることに気づいた。ブーゲンビリア、サボテンくらいはわかるのだが、一言でサボテンと言っても、種類は数え切れないくらいあるだろう。ぽってりした幹や枝を持つ木もある。いかにも南カリフォルニアらしい植物を目にして、日本の国土よりも広いカリフォルニア州の広さを改めて実感した。

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世代を超えてプレーするチカーノのスポーツ

ポンッ、ポンッとリズミカルな音が聞こえてきた。広場でボールゲームをしている人達がいる。何のゲームか聞いてみると、「ハンドボールだよ。ボールを壁に打って競うんだ。本当は素手でやるけど、ヤワな奴はバンダナか手袋をしてる。俺たち“チカーノ”のスポーツだよ」と教えてくれた。使用しているボールは小さく、日本で一般的に知られているハンドボールと雰囲気が全く違う。遊びとは思えないくらいに真剣そのもの。若者からちょっと年配の人たちも一緒にプレーしていた。

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コート内にはハンドボールをしているような骸骨の絵もあった

カリフォルニア発祥の地、オールドタウンで食べた手作りトルティーヤ

その後、ダウンタウンから約3マイルほど北西に行ったところにあるオールドタウンへ。アメリカ西海岸最初のスペイン人入植地で、カリフォルニア発祥の地とも言われている。カラフルな旗が掲げられ、まるでメキシコに来たような気分だ。「Café Coyote」というお店の軒下で女性が手際よくトルティーヤを作っている。早速お店に入り、女性に話しかけてみる。

「えっと……ミ キアモ アリサ! コメ ティ キアミ?(私の名前はアリサです。あなたは?)」。

女性「……?」。

しまった、これイタリア語だ!
結局ジェスチャーで自己紹介。彼女の名前はオフェリア、この道20年のトルティーヤ職人。

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ボールのように丸められていた生地はあっという間に伸ばされていく

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トルティーヤ作り歴20年のオフェリア

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特製トルティーヤで出てきたタコスと豆料理のフリホーレス

サンディエゴはアメリカの中で異国を感じる地

朝、ホテルの部屋は昨晩持ち帰った残りの食べ物の香りで充満していた。思えば、ここにきてからメキシコ料理しか食べていない。が、その匂いで起きるのも悪くない……。けれど、いつまでもこの余韻に浸っているわけにはいかない。もうサンディエゴを離れる時間だ。そそくさと荷物をまとめ車に飛び乗った。

空港と逆方向に南下すればメキシコに着く。全部の予定をキャンセルして南に走ってしまおうか……。そんなことを考えながら、飛行機の時間を気にしている自分がいた。

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この道をまっすぐ南下すればメキシコに20分で着く

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サンディエゴ空港は街からすぐ。街の上は飛行機が頻繁に飛んでいる

旅で出会った人が話してくれた。「メキシコ系アメリカ人として生まれることと、チカーノになることとは違うことなんだ」と。ただアメリカで生まれたということだけでなく、民族の誇りと強い社会的意思をもったメキシコ系アメリカ人をチカーノと呼ぶという。ここに住むメキシコ系アメリカ人や移民の人たちは、それぞれの先祖を持ち、違う思いを抱いて生活しているのかもしれない。アメリカの中で異国を感じる、不思議な旅だった。

■取材協力
カリフォルニア観光局
サンディエゴ観光局

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PROFILE

葛西亜理沙

フォトグラファー。

横浜生まれ。サンフランシスコ州立大学芸術学部写真学科卒業後、写真家・坂田栄一郎氏に師事。その後、独立。東京を拠点に活動。広告や雑誌などで撮影する他、個人の作品を国内外で発表している。第63回朝日広告賞入賞。第16回上野彦馬賞「九州産業大学賞」受賞。

イロトリドリな街、写真家が旅するサンフランシスコ

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