クリックディープ旅

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。12回目で清水断崖まで来た下川さん。最終回となる13回目は、冷泉や温泉を辿(たど)りながら北上し、台北に向かいます。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12」はこちら

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

秘湯、そして冷泉……温泉を辿りながら台北へ

清水断崖を後に、碧候(ビーホウ)温泉をめざした。そこから蘇澳(スーアオ)にあるという冷泉に向かう。この旅の最初に冷泉を経験していたが、冷たい濁った水に、僕は足湯どまり。はたして蘇澳の冷泉はどんな湯なんだろう。

員山温泉、有名な礁渓(ジャオシー)温泉に寄りながら北上していく。台北に近づくにつれ、これまで悪戦苦闘を強いられてきた荒々しい秘湯の趣は消え、ビルが立ち並ぶ温泉街を目にするようになる。高雄からはじまった台湾南部、そして台湾東部の秘湯旅も最終回。

今回の旅のデータ

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

清水断崖から台北へ

台湾は入国時に出国用の航空券を提示する必要がない。そのため、台湾で日本に帰る飛行機のチケットを買うこともできる。台北と日本を結ぶ便も多く、LCCなら片道1万円前後で買うことができることが多い。

預ける荷物がある人は注意が必要。最近の予約サイトは、預ける荷物の入力画面をスキップしていることが多い。そんな場合は、予約後、搭乗する航空会社のサイトに入って入力を。チェックイン時に払うこともできるが割高。航空会社によっても違うが、5000円前後を徴収されることも。

長編動画

清水断崖とその前後を。この断崖は台湾の絶景のひとつ。快晴だったのですが、とにかく暑い。炎天下、汗まみれになって撮影した動画です。

短編動画1

蘇澳の高台から港の眺めを。蘇澳は日本とのかかわりが深い港。かつては琉球町もあった。

短編動画2

台北に入る前に洗車。台湾の洗車代は180元。日本円で約666円。安くて助かる。

清水断崖から台北へ「旅のフォト物語」

Scene01

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

幹線を折れ、碧候温泉に向かう山道を登っていく。するとこの電柱看板。まだオープンしていないらしい。以前は民間の温泉があったが、行政の運営に移行。リノベーションが行われていた。「半年前にきたときは、すぐにオープンって聞いたんですけど」と案内役の廣橋(ひろはし)賢蔵さん。お役所仕事ってこと?

Scene02

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

碧候温泉の施設はほぼ完成。足湯用の浴槽もできあがっていたが、湯は入っていなかった。職員に聞いたが、いつオープンするかは不明。施設内で草刈りの仕事をしていたのは、先住民族のタイヤル族の人々だった。この周辺はタイヤル族の村。「温泉なら少し上流にあるよ」。萬榮(ワンロン)温泉同様、河原を歩かないといけないらしい。

Scene03

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

碧候温泉の裏手の南澳北渓(ナンアオベイシー)という川に向かってみた。すると、タイヤル族のおじさんがこういった。「増水時には水が押し寄せてくる。それにヘビが出るぞ」。河原に向かおうとしていた僕らの足はピタリと止まってしまった。萬榮温泉を制覇した廣橋さんの足も動かない。もう僕らには体力が残っていないということか……。

Scene04

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

冷泉を探して蘇澳の街へ。探しあてたのがここ。一般住宅のような建物の共同浴場、阿里史(アーリーシー)冷泉だった。どこか別府の共同浴場のようなつくり。入り口に「非住民70元」と書かれていたが、入浴料を払う窓口がない。ずいぶん前に撤去されたという。「非住民もタダですよ」と皆にいわれて浴室へ。こういう温泉は大好きだ。

Scene05

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

阿里史冷泉は半地下にあった。男女別なので水着でなく裸で入ることができる。「冷たッ」。入浴中のおじいさんが22度だと教えてくれる。次々に客がやってくるが、温泉というより、ほてった体を冷やしにくる感じ。しかしイオウのにおいが漂う本物。ときどき大型換気扇がまわるのは、冷泉が発するガスを排気させるためだとか。

Scene06

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

阿里史冷泉の向かいには、子ども用の冷泉プールもあった。外気温は35度を軽く超えているから、子どもたちは温泉というより、プール感覚。この冷泉は冬でも人気とか。温度が上がるわけではないが、つかっているとじんわり温かくなるのだという。やはり温泉なのだ。冷泉プールも入るのに料金はかからない。

Scene07

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

蘇澳の港には漁船がびっしり停泊していた。太平洋戦争後、この港が一躍、有名になったことがあった。空襲の被害が少なかった台湾から、米や砂糖、薬などの密輸が盛んに行われた。物資はここから与那国島、沖縄本島と運ばれ大阪へ。ヤミ市を支えたという。蘇澳にあった琉球町はその基地だったという。

Scene08

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

港を囲むように海鮮料理店や海鮮屋台が並んでいる。蘇澳港は北にある基隆(キールン)港を補完するように発達してきた。海鮮料理店街も基隆に比べれば小さいが、日本人には手頃な規模。観光客もそれほど多くないので、ぷらぷら歩きながら、好みの料理を物色。日本語が達者な中年女性の客引きはやや強引だったが。

Scene09

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

押しの弱そうな青年が切り盛りする屋台で、僕が頼んだのは泡菜海鮮麺。キムチ、エビやハマグリなどがのって70元、約259円。中田浩資カメラマンは白帯魚飯。白帯魚はタチウオのこと。これも70元。やはり蘇澳は安い。味? おとなしい青年がつくる料理は味も控えめでした。

Scene10

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

蘇澳から台北に向かい北上していく。道は台北に近づくにつれ、車線が増え、立派になっていく。これまで対向車と出合うと、どちらかが道幅が広い地点までバックしなくてはならないような道ばかり走ってきた。なんだか別世界に向かっているような気になる。もうこの先に秘湯はない。

Scene11

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

台北に戻る途中、員山温泉に寄ってみた。いま、温泉宿は多くないが、この温泉の近くには旧日本軍の北宜蘭(イーラン)、南宜蘭、西宜蘭という三つの飛行場があった。どれも特攻隊の基地だった。飛び立つ前夜などにすごしたのが員山温泉だったようだ。その頃、街の中央を通る道が、温泉路と名づけられたという。

Scene12

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

「遊郭の跡が残っているかもしれない」。温泉宿の女性主人の案内で、温泉路脇の公園を歩いてみた。小川を挟んでこんもりとした丘があり、そこに遊郭が建っていたという。しかしその丘は、うっそうとした木々に覆われ、とりつく島もない。そこにあった温泉も枯渇してしまっているという。

Scene13

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

これが最後の温泉……というわけでもないが、有名な礁渓温泉に。台北に近いこの温泉は、北投温泉と並ぶ観光温泉。街の中央は昼間だというのに夜市状態。そこにあった湯に足を入れ、今回の旅でいったいいくつの温泉に入っただろうなどと指を折ってみる。もう2度と行きたくない温泉を数えると、すぐに片手が終わった。

Scene14

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

台北に近づいてきた。一気にビルが増え、その向こうに台北101 。都会の空気が懐かしい。もう、谷底にある野渓温泉をめざし、崖につるされたロープを伝わなくてもいい。ヘビにおびえながら河原を歩く必要もない。台湾にはまだまだ温泉があることは知っている。廣橋さんの全温泉制覇の旅……つきあうつもりはない。

Scene15

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

超秘湯旅の終わりは、恒例の洗車。機械洗車だけでなく、ちゃんと手で洗ってくれる。それも日本では考えられない料金で。栗松温泉への道でつけてしまった傷は残るが、かけられた犬のオシッコは消えた。その夜、廣橋さんは奥さんから怒られなかったらしい。超秘湯に免じてといったところだろうか。

【次号予告】次回からタイの周辺国境をめぐる旅。

※取材期間:2019年8月1日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

 

BOOK

清水断崖から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅13

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

紅葉温泉旅社から清水断崖へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅12

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再び「12万円で世界を歩く」タイ編1

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