あの街の素顔

映画で巡る、ニューヨーク

エンパイア・ステート・ビルをはじめ、「これぞ、ニューヨーク」と思わせる高層ビル群が立ち並ぶマンハッタンやブルックリン、ブロンクスなどを内包するニューヨーク市は、数々の映画の舞台となってきたところ。『ゴーストバスターズ』や『タクシードライバー』、『ワイルド・スタイル』……。ふつふつと名作を思い浮かべるなか、ここでは、最近気になる映画のゆかりの地を巡ります。

(写真・文 = 草深早希、イラスト = ほりゆりこ)

レディ・バードが降り立った、グリニッジ・ビレッジ

映画で巡る、ニューヨーク

2017年に公開されるやいなや世界中の話題を集め、2018年にはアカデミー賞各賞にノミネートされた『レディ・バード』は、カリフォルニアのサクラメント市で育った17歳の女子高生、“レディ・バード”ことクリスティンの青春期をみずみずしく描いた映画。

ストーリーのなかで、州内の大学への進学を強く望んでいた母親に対し、閉塞(へいそく)感あふれる地元の生活から抜け出したかったクリスティンは、夢にまで見たニューヨークの大学への進学を決意。ティーンエイジならではの葛藤(かっとう)を経て、マンハッタンのグリニッジ・ビレッジで新生活を始めるのでした。

映画で巡る、ニューヨーク

アクセスが便利なのは、A、D、E、Fトレインの「West 4th ST–Washington Square」駅。駅前にあるアマチュアバスケットボールの公共運動場は、通称“The Cage”と呼ばれ、通りすがりの見物客でいつもにぎわいます

ここは、1960年代に起きたカウンターカルチャーのムーブメントの発祥地で、このエリアの名所といえる公園「ワシントン・スクエア」を中心に広がる並木道には、1981年に開業した「ブルー・ノート」をはじめ老舗のジャズクラブやバーが密集するほか、オフ・ブロードウェーも。日中はもちろん、気になるアーティストを見に夜出かけるのもおすすめ。

映画で巡る、ニューヨーク

初代大統領ジョージ・ワシントンの名にちなんだ「ワシントン・スクエア」は、1892年に建てられた凱旋門がシンボル

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(左)20年以上続く老舗ブルースクラブ「テラブルース」。(右)ジャズを聴きながら“いいお酒”を楽しめる、評判の「アナログ」

ちなみに、『レディ・バード』を手がけたのは、アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』を世に出したことでも知られる、最も旬なニューヨークの映画プロダクション「A24」。中学2年生という最も多感な年頃の少女を見事に描いた、「A24」による最新作『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は、9月20日(金)よりロードショー。

テラブルース
https://www.terrablues.com
アナログ
https://www.analoguenyc.com

巨匠ウディ・アレンが舞台に選んだ、コニーアイランド

『女と男の観覧車』 Blu-ray&DVD発売中(発売元:バップ)

映画で巡る、ニューヨーク

「ニューヨークの映画監督」といえばウディ・アレンを挙げる人も少なくないが、それもそのはず『アニー・ホール』や『マンハッタン』を筆頭に、これまでの作品の多くでニューヨークの文化や暮らし、人々をテーマにしてきたアレンは、ブロンクスで生まれ、ブルックリンで育った正真正銘のニューヨーカー。2018年に公開された最新作『女と男の観覧車』の舞台に選んだのは、ブルックリン南端の半島、コニーアイランド

『女と男の観覧車』は、1950年代、コニーアイランドの遊園地にあるレストランのウェートレス、ジニーを取り巻く恋愛模様とその女心にリアルに迫った人間ドラマ。ストーリーのなかで幻想的に描かれる遊園地「ルナパーク」やビーチは、アレン自身が幼少期にたびたび訪れていたという思い出の場所。そのほか水族館があることでも知られ、タイムカプセルに閉じ込められていたかのような古き良きアメリカを体験できるニューヨークでも珍しいところ。

映画で巡る、ニューヨーク

コニーアイランド を象徴する観覧車「ワンダーウィール」は1回10ドル(園内は入場無料)。なんと、1920年から稼働しているんだとか。アクセスは、D、F、N、Qトレインの「Coney Island–Stillwell Avenue」が最寄り駅で、マンハッタンから1時間ほど

「ルナパーク」のアトラクションは、観覧車をはじめ、アメリカ歴史建造物に登録された木製ローラーコースター「サイクロン」と「パラシュート・ジャンプ」、メリーゴーラウンドなど、その数30以上。レトロ感を満喫できるという意味で、なかなかおもしろいスポットです。

映画で巡る、ニューヨーク

「ルナパーク」の至るところにある自動占いマシン「ゾルタースピークス」は、アメリカ版おみくじ(1回1ドル)。実は映画『ビッグ』に登場する移動遊園地で少年ジョッシュの願いをかなえた、あのドリームマシンなのです。コニーアイランドの思い出に

ルナパーク
https://lunaparknyc.com/

ジョナス・メカスが残した映画館「アンソロジー・フィルム・アーカイブス」

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今年1月に逝去した、映像作家で詩人のジョナス・メカス。1960年代の前衛芸術運動「フルクサス」のメンバーであり、アンディー・ウォーホルアレン・ギンズバーグジョン・レノンなど、名だたるアーティストと交流があったことでも知られています。メカスは、1922年にリトアニアで生まれ、青年期に第2次世界大戦を経験。故郷を逃れ、強制収容所や難民キャンプでの生活を経て、1949年にようやく辿(たど)り着いたのが、ニューヨークのウィリアムズバーグでした。

まもなく手にした16ミリカメラを使い、言葉もわからないまま手探りで映像を撮り始めることに。身近な友人との会話や家族、街の植物。メカスにとって、日常のたわいないシーンをつなぎ合わせただけの作品は、はかなくもいとおしい情景を映し出し、人々の心を大きく揺るがすものでした。そんなアバンギャルド映画を自由に上映することを目的として、アメリカでアバンギャルド作品が規制されていた1970年に「アンソロジー・フィルム・アーカイブス」を設立。

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1988年より現在のイースト・ビレッジに拠点を置く映画館「Anthology Film Archives」は、エッセンシャルシネマや新しいフィルムメーカーなどのプログラム別にアバンギャルド作品を上映(1作品、大人12ドル)。最寄り駅はFトレインの「2 Avenue」

「アンソロジー・フィルム・アーカイブス」では、今年いっぱいメカスのトリビュートスクリーニングを開催中。パート1は1950~1990年代の日々を記録した“日記映画”がテーマでしたが、パート2は、メカスに影響を与えた人物にフォーカスする“ポートレート映画”をテーマに9月29日(日)まで上映されます。

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古い座席のほうがかえって愛着がわく館内。上映スケジュールはホームページまで。写真提供 = Anthology Film Archives

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1980年代に撮影されたメカス本人。写真提供 = Anthology Film Archives

また日本では、10月10日(木)より開催される「山形国際ドキュメンタリー映画祭」にて、1994年に制作された作品『富士山への道すがら、わたしが見たものは…』の上映が決定。気になる方は、秋の山形へ!

ニューヨークは街を歩いているだけで、映画やドラマの撮影クルーに遭遇するところ。これからどんな作品が生まれるのか、ゆかりの地を巡る旅はまだまだ続きそうです。

アンソロジー・フィルム・アーカイブス
http://anthologyfilmarchives.org

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 草深早希

    編集者・ライター。1983年東京生まれ。2005年よりキャリアをスタートし、カルチャー誌『TOKION』、ライフスタイル誌『ecocolo』、ファッション誌『菊池亜希子ムック マッシュ』などの編集を経てフリーランス。現在は、広告の編集から音楽や映画などの文化系の執筆まで、ジャンルを問わず活動中。好きなものは、おいしいごはん。

九十九島、バーガー…… 軍港の街佐世保の絶景とグルメ

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