京都ゆるり休日さんぽ

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

朝作って、その日のうちに食べる。おはぎやお団子など、日持ちのしない和菓子を「朝生菓子」と呼びます。今回訪ねたのは、そんな朝生菓子を作る若き和菓子職人の店「おやつaoi」。不定期に週末にだけオープンする小さな和菓子店に並ぶのは、昔なつかしい日本のおやつでした。

「おばあちゃんが作ってくれたおはぎ」を残したい

「私の祖母はおはぎを作るのが上手で、お彼岸になると人にふるまっては、親戚から『これ販売したらええわ』と言われるほど。私も、おばあちゃんの作るおはぎが大好きでした。けれど、祖母が亡くなってもうあのおはぎが食べられなくなってしまって……」

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

工房兼店舗の町家。イートインスペースはないが、土間の小さなベンチで食べて帰る人も

「おやつaoi」の店主・土田葵さん。京都・紫竹にある長屋町家の工房を週に1~2度店としてオープンし、作りたての和菓子を販売しています。ショーケースに並ぶのは、おはぎ、3色だんご、どら焼き、もなかといった素朴で家庭的な和菓子ばかり。お茶席の花形である上生菓子ではなく、庶民の暮らしや風習に根付いた“おやつ”としての和菓子です。

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

「季節のお団子」(240円・税込み)は抹茶、プレーン、季節の味と三つの風味。「猫もなか」(250円・税込み)は黒糖あんが定番

「和菓子=買ってくるものという印象があるでしょう。祖母が亡くなって、作れる人が周りに誰もいなくて、家庭で手作りする和菓子の味が忘れられてしまうと気づいたんです。それってなんて儚(はかな)いんやろう、もったいないんやろうって。家庭の素朴な和菓子の味を残したくて、私は朝生菓子を作っているんです」

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工房の壁には、こしあんを作る漉(こ)し器が並ぶ。祖母から受けついた老舗の調理器具店「有次(ありつぐ)」のものも

通常、和菓子店では製餡所(せいあんしょ)からあんこを仕入れることが多いですが、「aoi」のあんこはすべて自家製。家庭であんこを炊くのと同じように鍋でコトコトと豆を煮て、粒あん、こしあん、白あん、果実あんなど数種類を作り分けます。シンプルな材料だけで素材の味を引き出し、添加物を加えず、砂糖も最小限に。それゆえ日持ちはしにくいけれど、誰もが知っている材料で、作ってすぐ食べる家庭のおやつのようなほっとするおいしさがあります。

行事の和菓子、旬の素材が季節のたより

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

色とりどりの「おはぎ」(1個210円~・税込み)。定番の粒あん、きなこ、青のりのほか、鮮やかなオレンジ色は赤レンズ豆

大学卒業後、和菓子店で販売や製造に携わったのち和菓子作家のアシスタントやイベントの出店で経験を積み、今年5月「おやつaoi」をオープンした土田さん。色や造形で季節を表すお茶菓子を作らないぶん、季節感は旬の素材で取り入れています。

「9月はいちじく、10月になったら国産のかんきつのあんを使ったり。旬の時期にしか食べられない素材のお菓子が並ぶことで、言葉で表現せずとも季節を伝えることができると思うんです」

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土田さんが育てる小豆。こちらは昨年収穫されたもの。ふだんは北海道産の小豆を使っているが、収穫時期には自ら育てた小豆を使う

さらに、滋賀の親戚の畑を借りて小豆の栽培にも取り組んでいるそう。11月には、収穫した今年の小豆であんこを炊きます。店に並ぶ和菓子をきっかけに、訪れる人と季節のあいさつを交わし、短い旬を尊び、収穫の喜びを分け合って、街と暮らしに根ざす一軒へと歩みを進めています。

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

予算や内容を伝えれば、季節の詰め合わせにも対応(要予約・箱代別途)

「お彼岸におはぎをお供えしたり、端午の節句にかしわ餅を食べたり、日本では行事や風習ごとに和菓子がありますよね。和菓子をふだんから食べてたお子さんが、大人になって『お彼岸にいつも食べてたなぁ』とか思い出してもらえたらうれしいです。私がおばあちゃんにそうしてもらったように」

素朴でなつかしい和菓子のある日の幸せを。京都「おやつaoi」

店のオープン日には6〜7種類の和菓子が並ぶ。どら焼きやあんみつが登場することも

その日のうちに食べなければ、おいしさが失われてしまう。朝生菓子は、通販のお取り寄せにも日持ちするお土産にも向きません。でもだからこそ、誰かと一緒に食べることがうれしくて、その時間を分け合えることがありがたくて、いとおしい。和のおやつが教えてくれるのは、それを囲む日常の中にある小さな幸せなのかもしれません。(撮影:津久井珠美)

おやつaoi
京都市北区紫竹下園生町38-10
*月ごとの営業スケジュールはインスタグラムを確認
https://www.instagram.com/oyatsu.aoi/?hl=ja

BOOK

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京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

 

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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