あの街の素顔

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

ドイツ人の妻とドイツで長年暮らすジャーナリスト高松平藏さんは、アジアへ旅に出ると、ヨーロッパ目線の「旅行観」や「アジアへのロマン」を感じるとか。慣れ親しんで意識しなくなっていたヨーロッパ的なものの見方を、アジアへ戻ると改めて意識するようです。そんな発見をつづる連載の2回目は、ベトナムのビーチでした社交ダンス。海の家、そしてホテルのロビーで大胆に踊ってみたら……。

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社交ダンス、ドイツでは文字どおりに健在

前回紹介したように、ドイツ人の妻の発案で、ベトナムへ旅行にでかけた。彼の地での目的のひとつはビーチで社交ダンスをすることであった。

社交ダンスというと「定年退職した夫婦の楽しみ」といったイメージを持つ人も多いだろう。そうでなければ、大学などの体育会系競技ダンスといったところか。ところがドイツ社会を見ていると、趣味や健康、教養として行う人が多い。若者でも趣味として楽しんでいる人はけっこういる。それから政党、職業別、地区レベルといったグループ別の舞踏会があり、社交の様式として健在だ。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

ドイツで社交ダンスはまさに社交の様式。こんな舞踏会もよく行われる。趣味、健康、教養であり、日本に比べて身近だ

夫婦で一緒にできるので、筆者も数年前から社交ダンスを始めた。ダンス教師の1人がベトナム出身の女性、ヴィヴィさん。小さいころ、両親とともにドイツにやってきて、ドイツで育った。そんな彼女が妻にふと言ったのだ。「ベトナムのビーチで踊らない?」

いわゆる欧米人である妻が持つ、東洋への憧れに火がついた。ちょうど東洋人のわれわれが、絵のような中世のたたずまいが残るヨーロッパの街並みに憧れるようなものである。

岡の上のキリスト像があるブンタウのビーチ

ドイツからヴィヴィさんに同行してきたペーターさん(仮名)とホーチミンで合流。自動車をチャーターして、早朝出発。約2時間走り、ブンタウのビーチに赴いた。ドイツ語のツーリスト向け情報を見てもホーチミンからのツアーが組まれているなど、人気のビーチがあるところだ。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

私たちが訪ねたビーチは人が少なかったが、リゾート地であることがうかがえた

観光客向けにアピールしているビーチとは少し離れたところへ連れていってくれた。人が少ないのはよかったのだが、自動車を降りた途端、大音量のカラオケが聞こえてきた。「海の家」のようなところで、ベトナムの女性グループがカラオケを楽しんでいた。大音量はキツかったが、「アジアの田舎の楽しみ」として見ると、筆者にとっては懐かしさをおぼえる雰囲気でもある。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

ベトナムの女性たちがカラオケを楽しんでいた「海の家」

カラオケが終わるまで我々はしばし休憩。やがて「海の家」でヴィヴィさんのプライベートレッスンが始まった。新しいフォームを教えてもらう。波打ち際まで行って、踊ることもあった。映画ならさぞかし美しいシーンになるはずだが、筆者の踊りは、ひと様にお見せできるようなエレガントなものではない。それでも一応、当事者にとってはロマンチックな時間であり、通りがかりの人も「おっ、なんだ、なんだ」という目で見ていくのである。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

小高い丘のふもとで踊るヴィヴィさん(右)とアシスタントのペーターさん(左)。ペーターさんは20代だが、なかなかの腕前

さらに、ビーチのそばの小高い丘のふもとでも踊る。この丘の上には旅行ガイドにも紹介される巨大なキリスト像があるのだが、ほとんど見えなかった。ドイツでも日本でもない雰囲気の場所に、ヨーロッパのダンスが溶け込んでいく。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

小高い丘にあるブンタウのキリスト像。私たちのいた場所からは顔だけが見えた

ホテルのロビーで踊ってみたら……

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

ホテルのエントランス。ドアから入って、土間のようになっている。こういう造りの建物が多い

宿泊先はヴィヴィさんが紹介してくれた、ドミトリーとスィートのあるこぢんまりとしたホテルだ。私たち家族は個室になっているスィートに泊まったが、若いペーターさんをはじめ、バックパッカーのお客さんたちは、ドミトリーでの宿泊である。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

ホテルの屋上はバーになっている。たびたび映画上映会が催される。風が気持ちいい

ところで、国連の調査によれば、上の世代と下の世代の人数が同じになる中央年齢(2015年)は、日本が46.4歳、ドイツは45.9歳。それに対して、ベトナムは30.5歳だ。そんな統計データとも重なるかのようにホテルのスタッフも総じて若い。ホテルは民家を改装したようなところで、彼らの創意工夫があちらこちらで見て取れる。それでいて、ベトナムのテイストはもちろんある。妻から見ると、「いかにもベトナム」という雰囲気たっぷりなのだ。

ベトナムのビーチで社交ダンス アジアの空間に溶け込む欧州

宿泊したホテルのロビーでもダンスレッスン

ダンスはホテルのロビーでも試みた。レッスンがはじまると、スタッフたちも「わあ、なんだ、なんだ」とばかりに見にやってきて、拍手をしてくれた。ロビーといっても、それほど広いわけではないが、ベトナムの空間に、社交ダンスという「欧州」が音楽とともにミックスする時間を、ここでも皆で堪能したのだった。

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PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 高松平藏

    ジャーナリスト
    ドイツ・エアランゲン在住。主なテーマは地方都市の発展。ドイツで取材・調査・観察を通して執筆活動を行っている。帰国時には自治体や大学などで講演・講義を行うほか、ドイツでも集中講義とエクスカーションを組み合わせた研修プログラムを主宰している。ドイツ人の妻とは結婚して20年余り。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか 質を高めるメカニズム」(学芸出版社)などがある。

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