クルーズへの招待状

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの上田寿美子さんが案内する連載「クルーズへの招待状」。

今回は客船「ル・ボレアル」で行く北極圏にあるノルウェー領スバールバル諸島のスピッツベルゲン島を巡る旅前編。北極のクルーズは「『海のサファリ』のような旅」だとか。いったいどんな旅になるのでしょうか? 早速、思いもよらない出来事に遭遇しました。

パリからチャーター機でスピッツベルゲン島へ

フランスのクルーズ会社ポナンの客船ル・ボレアルによる北極クルーズの集合場所は、パリのシャルル・ドゴール空港。そこからチャーター機で、スピッツベルゲン島のロングイェールビーンへ向かう空の旅から始まりました。機内の座席はエコノミークラスでしたが、さすが上質なクルーズが売り物のポナン社らしく、ロゴマークの刺しゅう入りリネンのヘッドカバーと食事用のクロス。陶製の食器に盛られた食事と、バスケットに入ったパンなどビジネスクラス並みのサービスでした。

ロングイェールビーン港にたたずんでいたル・ボレアルは、2017年の南極クルーズでも乗った客船。対極の地で懐かしい再会となりました。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

ネグリブリン氷河のル・ボレアル(撮影上田寿美子)

北極圏とは北緯66度33分以北の地域のことで、今回は、北極圏にあるノルウェー領スバールバル諸島最大の島スピッツベルゲン島の周りを7泊8日で巡るコース。船長以下約140名の乗組員と、探検部門を担当する13人のエクスペディションチームの協力のもと、冒険心にあふれたクルーズの始まりです。

北極クルーズは「海のサファリ」のような旅

早速エクスペディションリーダーから「この中に南極クルーズへ行った人は多いと思いますが、北極と南極は異なる点が多々あります。例えば、南極にはペンギンがいて、営巣地はだいたいわかっています。一方、北極にペンギンはいませんがホッキョクグマがいます。ただしこちらはどこに出没するかわかりません。つまり、北極クルーズは、動物を探し、追いかけて進む『海のサファリ』のような旅なのです。」

私はこの言葉を聞き、「万が一見つからなかった時のために、ロングイェールビーン空港にあったホッキョクグマの剝製(はくせい)の写真を撮っておいてよかった」と胸をなでおろしました。

ところで、ル・ボレアルは硬いゴムでできた自前のゾディアックボートを持っていて、エクスペディションスタッフが操船し、上陸するときなどに利用します。乗客は数グループに色分けされ、自分の色の順番が来たらゾディアックに乗り探検に出かけるという仕組みになっていました。

初の上陸地でセイウチに遭遇

2日目、今回のクルーズで初の上陸地となったのは、ハンブルグブクタでした。ゾディアックからはセイウチが寝そべる姿が見えたので、上陸後、そーっと近づいてみました。セイウチ科セイウチ属に分類され、厚い脂肪に覆われた体は、1トンを超えるものも。そして、雄雌ともにある長い牙が特徴です。7頭いたセイウチの中には人間が近づくと「邪魔者を追い払おう」と言わんばかりに顔を上げ、牙を左右に揺らして見せるセイウチもいました。最初の上陸地から早速、野生動物に出会えたことが感激でした。

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長い牙がセイウチの特徴(撮影上田寿美子)

ところで、ル・ボレアルは「美食の船」の異名をとるほど料理に力を入れており、それは、北極という極地に行っても同様でした。

2デッキのメインダイニングの夕食では、1皿、1皿、絵画のように美しい盛り付けの料理が登場。フランス船らしくシャンパーニュをはじめワインもビールも飲み放題(一部銘柄物ワインは有料)なので、気軽に料理とワインのマリアージュも楽しめます。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

見て美しく食べておいしい料理(撮影上田英夫)

6デッキのビュッフェレストランには、時々、すしやのり巻きが出るのも人気。北極圏の海景色を眺めながら、サーモンの握りをつまみ、ビールで乾杯するのもこのクルーズの楽しみでした。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

すしを北極で! サーモンの握り(撮影上田英夫)

そして、パンを重んじるフランス人乗客にも評価が高いのが、パン職人が毎食焼き上げるパンの数々。なかでも朝のクロワッサンは、香ばしいバターの香りと幾重も層をなすサクサク感がたまりません。

思いもよらない出来事が続々と

3日目。まだ、これからすごいことが起こることも知らない、のどかな朝が始まりました。ル・ボレアルは広さ約1180平方キロメートルという世界有数の大氷河ネグリブリンの前に到着。まずは、船上から広大な氷河を撮影しました。その後、ゾディアックに乗り氷河クルージングに出発! 30メートルを超えるような大氷河のそばに近づくと、覆いかぶさってくるような迫力です。乗客から「なぜ氷河は青く見えるのか?」という質問が出ると、私たちのボートを運転してくれたエクスペディションスタッフのマリアさんが「長い年月をかけ圧縮された密度の高い氷河の氷は透明度が高く、太陽の光が入射すると、赤い光を吸収し、青い光が反射するから」と答えてくれました。氷河のそばには、海に浮かぶ天然アートのような氷の数々。まさに、自然美を満喫したクルージングとなりました。

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ネグリブリン氷河をゾディアックボートでクルージング(撮影上田寿美子)

ところで、このクルーズでは、ゾディアックに乗船前、下船後に必ず長靴を消毒します。これは環境自然保護のために行われ、消毒後は脱いだ長靴を手に持ち、靴下で客室まで帰ります。そして長靴は室内に入れず前の廊下に置くという決まりになっていました。

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船に戻り長靴を消毒(撮影上田英夫)

この日もそれに従い、靴下で部屋に入り、靴をはこうとしたとき、大変なことが起こりました。突如氷河が大崩落を始めたのです。最初の崩落が起こると、バランスを崩した氷河がドミノ倒しのように次々と崩れ落ち、高さ30メートル以上もあった氷河群が激しい水しぶきを上げ、跡形もなく壊れ落ちていくではありませんか。さらに、その影響で海が持ち上がり、無数の氷のかけらが海を埋め尽くしていきます。想像を絶する自然の驚異を目の当たりにし、1時間以上靴を履くのも忘れるほど興奮しました。のちの船長の船内放送によれば、幅約2キロメートル奥行き約500メートルにわたり氷河が崩落したそうです。

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氷河大崩落。目の前の氷河が海中に砕け落ち、水しぶきが上がる(撮影上田寿美子)

しかし、この日の驚きは、それだけではありませんでした。午後になると待望の「ホッキョクグマ発見」の船内放送が流れたのです。急いでトップデッキに上がると、遠くの氷の上を1頭のホッキョクグマが悠然と歩いていました。時折こちらを見たり、口を開けたりする様子もわかり、船上はまたまた大興奮。やがて、ホッキョクグマは海に入り、水面から顔を出しながら泳ぎ去りました。

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待望のホッキョクグマ現る(撮影上田英夫)

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泳ぐホッキョクグマ(撮影上田英夫)

日本人スタッフによる講座とキョクアジサシの遭遇

前日は、思いもよらぬ盛りだくさんな体験をしたこともあり、4日目の午前中には、日本人の乗客のために自然講座が行われました。講師は、10年以上にわたる、自然ガイドの経験を持ち、今回唯一の日本人のエクスペディションスタッフとして乗船中の伊知地亮さん。氷河の成り立ち、ホッキョクグマの生態などを日本語で学ぶことができ、とても有意義でした。

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自然ガイド歴10年以上の伊知地亮さん(撮影上田英夫)

午後は、レシェシェ氷河に上陸。昨日は海から氷河を見物し、今日は陸から見る趣向です。氷河へと続く地面には、スバールバルトナカイの足跡、そして空には世界一長い距離を渡る鳥といわれるキョクアジサシの姿。なんと北極圏と南極圏を往復し、その飛行距離は年間約8万キロメートルにも達するという渡り鳥です。

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北極圏から南極圏まで移動するという渡り鳥キョクアジサシ(撮影上田英夫)

今回は「海のサファリ」の言葉通り、乗船してから予期せぬ出来事が連続したエキサイティングクルーズを実体験。さて、後半はどんな驚きが待っているのでしょうか。

このクルーズに関する問い合わせ先
www.ponant.jp

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PROFILE

上田寿美子

クルーズライター、クルーズジャーナリスト。日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて30年。外国客船の命名式に日本を代表するジャーナリストとして招かれるなど、世界的に活動するクルーズライター。旅行会社等のクルーズ講演も行う。著書に「豪華客船はお気に召すまま」(情報センター出版局)、「世界のロマンチッククルーズ」(弘済出版社)、「ゼロからわかる豪華客船で行くクルーズの旅」(産業編集センター)、「上田寿美子のクルーズ!万才」(クルーズトラベラーカンパニー)など。2013年からクルーズ・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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