永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(27)彼女に惹かれて撮った理由は 永瀬正敏が切り取ったニューヨーク

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はニューヨーク・マンハッタンで撮ったこの女性。偶然出会ったこの人に、永瀬さんが惹(ひ)かれたわけは。

(27)彼女に惹かれて撮った理由は 永瀬正敏が切り取ったニューヨーク

© Masatoshi Nagase

ニューヨークに10日間滞在して、写真を撮り続けていた時のこと。一日中あちこちを回り、おなかすいたから夕ご飯を食べて帰ろうと、マンハッタンのレストランに入った。すると、立ち姿がすごく目立っているチャーミングなウェートレスさんがいた。

店の名前は忘れてしまったけれど、デヴィッド・ボウイをはじめ、著名人がよく訪れる歴史あるレストランで、モデルを目指している従業員さんが多いと聞いた。この写真は、彼女が店の隅の席で、いわゆる「まかない飯」を食べている時に撮ったものだ。

写真を撮らせてほしいと頼んだら、最初は「ノー、ノー」とすごく恥ずかしがっていたけれど、結局、いろいろ撮らせてくれた。すました写真や、カメラ目線の写真もあるけれど、彼女が一瞬、ふっと気を抜いた時のこの笑顔が、いちばん、素の彼女が出ている気がした。

僕は偶然会った人に撮らせてほしいとお願いする時、その方の詳しい来歴や背景は聞かない。だから、この方が誰で、いまどうしていらっしゃるのかはわからない。でも、こういう瞬間にシャッターを切ることができると、ちょっと幸せだと思う。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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