キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

イタリアの秋を語るには、郷土の特産品をテーマにしたフェスタやサグラ(感謝祭)が欠かせません。花の都フィレンツェの南にある、インプルネータで開催されるブドウ収穫祭もその一例です。祭りと聞くと、いてもたってもいられないイタリア在住ジャーナリスト夫婦が案内します。

(文:大矢麻里 Mari OYA/写真:大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

あの名建築を支えた街

インプルネータは、フィレンツェ市街から南へ約20キロ。なだらかな丘陵地帯を眺めながらバスで40~50分ほどで辿(たど)り着ける街は、いにしえからテラコッタ(素焼き製品)の里として知られてきました。一帯の良質な土は、古代ローマ以前に地域で暮らしていたエトルリア人にも認知されていたとされます。

中世に入ると、修道院や教会などでワインやオリーブオイルづくりが盛んになります。貯蔵用テラコッタ壺(つぼ)の需要増大を受け、早くも1308年には職人たちによる協同組合が結成されました。

続くルネサンス期、街は同じテラコッタによる瓦や煉瓦(れんが)など建築資材にも力を入れます。フィレンツェの代表的ルネサンス建築で、1436年に完成したサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂クーポラには、インプルネータ製の煉瓦が約400万個用いられたといわれます。建設を指揮したフィリッポ・ブルネレスキが、その耐久性を高く評価したためでした。華やかな文化を陰で支えた職人の子孫たちは、確かな技を伝承すべく今日も土をこね続けています。

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

テラコッタ工房「フォルナチェ・マシーニ」の建物は1842年に建てられたもの。ガーデニング愛好者垂涎(すいぜん)の鉢や壺(つぼ)が並びます

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ティツィアーノさんはこの道42年の熟練職人。縄状にした粘土を巻きつけて鉢を形づくってゆきます

【動画】7秒。テラコッタの鉢作りの様子。インプルネータ

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壁に掛けられたレリーフには聖母マリアと天使が

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こちらの置物はブドウや麦など収穫の喜びを表現した天使たち

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工房を営むマルコ・マシーニさん。「顧客リストには、海外のボタニカル・ガーデンや王侯貴族なども名を連ねます。私たちの作品が異国の地で大切にされている。これこそ職人冥利(みょうり)につきるというものです」

街を散策して目にするのは、やはりさまざまなテラコッタ製品。石垣に埋め込まれたマリア像に始まり、上に目線を上げれば、ベランダの柵や軒下のあしらい、果ては家庭の郵便ポストまでテラコッタが用いられています。

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

道端で人々を見守るテラコッタ製の聖母マリア

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ベランダの柵にもテラコッタが用いられています

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

軒下にあしらわれた茶色のテラコッタと緑色の雨戸の美しいコントラスト

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

郵便受けもテラコッタ製。街はフィレンツェ県内にあるため、同地のシンボルであるユリの紋章がかたどられています

圧巻のダンス・パフォーマンス

そうした素朴なたたずまいのインプルネータが一変し、華やぎを見せるのは毎年9月の「ブドウ収穫祭」。テラコッタの里であると同時に、日本でもなじみ深いキャンティ・ワインの産地でもあるからです。祭りの始まりは1928年にさかのぼり、ベニート・ムソリーニ率いるファシスト政権によって「国家ブドウ祭」と称された時期もありました。

近年では期間中、物産展や郷土料理の腕前を披露する競技会など、さまざまな催しが企画されています。

クライマックスは、住民総出による町内会対抗の山車ダンスコンテストです(以下の写真・動画は2018年9月撮影)。計四つの町内会は、本番の約1カ月前から山車の制作にあたります。テーマが「ブドウ」「収穫」と定められているため、毎年いかに新しく、オリジナリティーを表現するかが鍵。山車の前でパフォーマンスを披露する人々は、夏の間、毎夕食後に地区の広場に集合して練習を重ねます。審査員には、公正を期すべくフィレンツェ県以外の舞台芸術関係者、公証人などがあたります。

広場には、度肝を抜く大きさの山車が次々と現れます。いずれの山車もシナリオに沿って、あっと驚く可動部分を備えた本格派です。圧巻のチームワークにもかかわらず、参加者によると許されるダンスのリハーサルは前日1回きり、山車に至っては「ぶっつけ本番」と聞いて、さらに驚いてしまいます。

「こう見えても、愛らしかった子供時代は、友達と妖精に扮して踊ったものですよ」と笑って話すひげ面の男性。今では、娘や孫の乗る山車を汗だくで押す裏方に徹しています。自然の恵みに感謝しつつ、隣人や家族とのつながりを深める。町民総出の収穫祭は、まるで濃厚なワインのごとく地元愛にあふれているのです。

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

収穫祭のパフォーマンスでも、テラコッタが古くからワインの貯蔵に用いられていたことをアピール

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表情もたたずまいも古代ギリシャ時代の人物になりきった住民たち

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息のあったダンスをみせるカップル。衣装や小物はすべて住民の手作りによるものです

【動画】18秒。「ブドウ収穫祭」のダンス。インプルネータ

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花が咲き、緑が色めく季節をイメージしたパフォーマンス

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山車の仕掛けが動いて現れたのは巨大なワインボトル。中央のわらを巻いた瓶はキャンティ・ワイン用の伝統的な形状です

【動画】10秒。「ブドウ収穫祭」のダンス。インプルネータ

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

収穫したブドウを樽(たる)に入れて足踏みで潰す様子をダンスで表現

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ブドウの木と、たわわに実ったブドウの妖精をイメージしたパフォーマンス

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ダンスの振り付けは専門家に依頼することもあるそうですが、多くの場合は町内会一のダンス上手がリーダーとなって練習に励みます

【動画】9秒。「ブドウ収穫祭」のダンス。インプルネータ

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

とびきりの笑顔を見せる女性。この直後、純白のドレス姿から……

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

ブドウの精へと早変わりを演じました

【動画】20秒。「ブドウ収穫祭」のダンス。インプルネータ

キャンティ・ワイン、テラコッタの里で、イタリア式「ブドウ収穫祭」

エンディングにダンサーたちがポーズを決めた瞬間、ブドウを表現した風船が空高く舞い上がります

イタリアを知るための神髄は、ガイドブックに登場する機会が少ない街や村にあるといっても過言ではありません。収穫祭以外の季節でも、ちょっと田舎まで足を伸ばしてみると、イタリアの素顔の暮らしが見えてきます。そこでの出会いは、あなたの旅の1ページをさらに鮮やかに彩るはずです。

■インフォメーション
・Fornace Masini
www.fornacemasini.it

・La Festa dell’Uva di Impruneta (2020年も9月に開催予定)

http://festadelluvaimpruneta.it

PROFILE

  • 大矢麻里

    イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務を経て1996年からトスカーナ州シエナ在住。現地料理学校での通訳・アシスタント経験をもとに執筆活動を開始。NHKテキスト『まいにちイタリア語』など連載多数。NHK『マイあさラジオ』をはじめラジオでも活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)、『意大利工坊』(馬云雷訳 華中科技大学出版社)、『ガイドブックでは分からない 現地発!イタリア「街グルメ」美味しい話』(世界文化社)がある。

  • 大矢アキオ

    イタリア文化コメンテーター。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て独立、イタリア・シエナに渡る。雑誌、webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』レギュラーレポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密』(二玄社)など。

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