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&編集長、週末ぶらり佐世保旅・後編 老舗は思いの交差点

週末にぶらり、足を延ばしてみた長崎県佐世保市への旅。代々受け継がれ、地元で愛され続ける味は、とんねる横町の「本田蒲鉾店」、百貨店「玉屋」、北佐世保の「甘酒まん頭 毎日屋」に続いて、中華料理店と珈琲店でも出会うことができた。
(文・写真:&編集長・辻川舞子、トップ写真は藤野拓人氏撮影)

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じゅわっとジューシー! 65年間変わらぬ「じゃんぼ餃子」

戦後まもない1954年の創業からずっと変わらない「じゃんぼ餃子」が人気の店があるという。佐世保駅から歩くこと約10分、大通りの交差点にその店、3階建ての「中国名菜 天津包子舘(てんしんぽうずかん)」はある。

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「中国名菜 天津包子舘」


さっそく注文してみた。
ぱりっと焼けた、ボリュームたっぷりのぎょうざが運ばれてきた。たしかに大きめ! ひとつあたり、45グラムあるそうだ(と言っても、普通どれくらいの重さなのか、わからないが……)。

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じゃんぼ餃子(撮影:藤野拓人)

しっかりとした皮にかぶりつくと、中から肉汁がじゅわっとあふれ、口いっぱいに広がった。

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お肉たっぷりのぎょうざを、手作りラー油につけて(撮影:藤野拓人)

ニンニクやニラは使わず、豚肉とたまねぎだけ。肉の存在感たっぷりの餡(あん)は、まるでハンバーグのようだと評されるそうだが、まさにそのとおり。
ああ、それにしても、ビールが進む……。

スープの味の奥深さがあとを引く「ちゃんぽん」

もう一つの定番である「ちゃんぽん」は、運ばれてくるなり、スープからふわっと魚介の香りが立ち上る。

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ちゃんぽん(撮影:藤野拓人)

お店の会長、八木英保さん(72)が説明してくれる。「スープは鶏だしがメインで、あとは豚だしなのですが、具材からうまみが染みだしてそう感じるのでしょう」

具材のイカひとつとっても、かみしめると甘みがあり、素材へのこだわりを感じる。たっぷりの具材と、もちもちの麺と、滋味深いスープ。それらが響き合っておいしさが完成する。

スープや調味料など、味のベースとなるものも、じっくり時間をかけて作るという。地元の人たちが通う理由は、そこにあるのだと感じた。

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気軽に利用できるテーブル席

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個室(小宴会用)

「本格的な中華料理を」の使命感で帰郷

天津包子舘は、戦後まもなく中国の旧満州から引き上げてきた八木秀義さんと妻のヒサ子さんが始めた店だ。息子で2代目の英保さんが振り返る。

「母は長崎市の中華街の近くに住み、皿うどん、からすみ、カステラなどがある豊かな食文化の中で生まれ育ちました。戦後結婚し、なんとか生計を立てなければならなかった。それで、食べたことのあるものの中から、肉まんを作ったんです。はじめは試行錯誤で、『ちゃんと膨れますように』とせいろの前で拝んだそうです。肉まんが評判を呼び、『次は餃子を作ってみよう』と。そして、ちゃんぽんも、皿うどんも……と広がっていったのです」

昭和30~40年代、街にまだ本格的な中華料理店はなかったという。英保さんはその頃、東京・丸の内にあった名門広東料理店「山水楼」で修業した。ある日、皇族が来店されることになり、支配人に「仕込みを見に調理場へ行ってみろ」と言われた。そこで目にしたのは、熊の手、フカヒレ、ツバメの巣などの貴重な食材や、今では珍しくない春巻や杏仁豆腐。「これまで自分が食べてきた中華料理はいったい何だったんだろう、佐世保に本格的な中華料理を伝えなければ、という気持ちが強くなりました」

そして1973(昭和48)年、母が作ってきた料理に加え、自らの料理も出す現在の店をオープンした。戦後の空腹を満たした初代からの味と、そこに加えていった本格中華料理の味。時代とともにメニューも変化した。「天津包子舘」の歩みには、戦後の食の変遷も投影されている。

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メニューは約60種類。そのほとんどをテイクアウトすることもできる

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厨房では、人気の餃子を作っていた

ワインと合わせる四川料理

2014年には「天津包子舘」の横に、スタイルのまったく違う中華料理店を開いた。英保さんの長男で、社長をつとめる八木順平さん(47)が立ち上げた四川料理店「香辣(シャンラー)」だ。こちらは、赤と黒が基調のモダンな内観。ワインに合う料理を小皿で提供しており、バルのような雰囲気だ。棚に並べられたワインは、1本1800~2500円。お客は自ら棚まで行って、好きなものを選ぶことができる。

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四川料理「香辣(シャンラー)」

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八木順平さん

看板料理は、麻婆豆腐。花椒(かしょう)と自家製ラー油がきいて手加減のない辛さだが、クセになりそうだ。そのほか、「鶏せせりの赤唐辛子炒め」や「エビとイカの塩炒め」など、ワインと合う料理がそろう。メニューには、「じゃんぼ餃子」も並んでいる。

船底のよう 老舗喫茶店「くにまつ」

おなかいっぱいになり、コーヒーで一服したくなった。こちらも老舗である「珈琲(コーヒー)専門店くにまつ」を目指す。

大通りから1本入った、古くからのスナックなどが連なる通りに、船乗りを描いた看板が。木の扉をぐいっと開けると、カウンターに若いお客さんが3人。マスターが、「こんにちは」と迎え入れてくれた。店内には、1960年代のアメリカの音楽が静かに流れている。

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珈琲専門店くにまつ

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若いお客さんが、マスターと語り合う

カウンター席に腰掛け、湾曲した天井を見上げると、ランプがつり下がっている。棚の扉には円窓がほどこされている。なんだか船底にいるようで落ち着く。

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あめ色に変色した木、船の円窓……どれも美しくて、心地よい

「父が1971年にオープンした店です。船が好きだった父が、本物の部品を取り寄せて作ったんです」と、二代目マスターの國松弘樹さん(47)。「最初は白木でしたが、年月とともに、あめ色に変化してきました」。壁や天井の深みのある色には、この店を行き交った人々の人生が刻まれているように思えた。

さきほどの餃子とちゃんぽんでおなかいっぱいなのに、つい、アイスクリームを注文! サイフォンで8時間かけて冷水を垂らしながら抽出するダッチコーヒーをかけたアイスクリームが、別腹へと吸い込まれていく。

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創業時から変わらない、人気のアイスクリーム

マスターの温かなまなざし

マスターが、若いお客さん3人に言った。「この方は、東京から取材できているそうだよ。せっかくの機会だから、いろいろと聞いてみれば?」

3人とも九州出身で、佐世保の大学に通っていて、たびたびこの店にやってくるという。「僕たちは、いま雑誌を作ろうとしているんです。取材のコツって、どんなことですか?」

はにかみながらもまっすぐな視線を向けてきて、私はドキドキした。

3人を見守るマスターのまなざしが、温かい。だからこそ、古くからの常連から若者まで、さまざまな人が通うのだろう。店が愛され続ける理由は、こういうところにあるのだと思った。

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