京都ゆるり休日さんぽ

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

今回訪ねたのは、恵文社一乗寺店からもほど近く、すぐそばの小川と叡山電車の踏切がどこかノスタルジックな「マヤルカ古書店」。絵本や料理本から文芸、学術書まで、ジャンルレスにもかかわらず好奇心をくすぐる蔵書は、本好きの京都人たちからいつしか集まってきたものでした。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

多様で味わい深い、本好きたちの蔵書を受け取って

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

学生時代、論文に必要な文献を神保町の古書街で探すうちに、古本の魅力に目覚めたというなかむらさん

「マヤルカ古書店」の店主・なかむらあきこさん。古本好きの3人の店主が合同で運営していた古書店を経て、独立。自身の店を構えて6年になります。隠れ家のような西陣の町家から、一乗寺に移転してきたのは2年ほど前のこと。学生やものづくりに携わる人が多い左京区にするりと溶け込み、本好きの常連客から恵文社とハシゴする観光客まで、さまざまな人に親しまれています。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

背表紙のタイトルを眺めたり、箱の中からガサゴソと見つけたりと本を探す時間も楽しい

足元から天井まで、ぎっしりと並ぶ本は実に多彩。ライフスタイル本や料理本、文庫本など手に取りやすいものから、美しい装丁のアートブック、古びた函(はこ)に納められた文芸書まで、整然と並んでいたり、ざっくりと積み重ねられていたり。古書店独特の雑多なワクワク感が漂いながらも、閉鎖的な雰囲気のない、風通しのよさが魅力です。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

並べ方や見せ方を変えることで、思いがけない本と出合う機会を作る

「仕入れは買い取りがメインなので、私自身が意図的に選書しているわけではないんです。年齢を問わず、本好きの方の蔵書を譲り受けるうちに、自然とうちらしさが出てきたというか……。時には自宅におうかがいして亡くなった方の蔵書を見せていただくこともありますが、一目でわかります。『大切にされてきた本なんだな』って」

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郷土玩具が好きで、店の一角にはこけしや郷土玩具のコーナーが。関連図書も並ぶ

人から人へと受け継がれる本と、新しい時代を生きる本

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

和紙工芸家・後藤清吉郎による染絵の表紙が芸術的な『日本の郷土玩具』(左)。本文の挿画も愛らしい『スープの本』は本棚に飾りたくなるデザイン(右)

古本の場合、特定のジャンルや思想に特化した店も多いですが、「マヤルカ古書店」はあくまで暮らしの延長線上にあるような古本屋。日々に寄り添ってきた本を受け取り、たくさんの“誰か”の生活や趣味や好みが同居することで、自然と多様な知見が混ざり合う書棚になっています。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

寺山修司・著、宇野亜喜良・挿画の『絵本・千一夜物語』はピンナップ付きの希少本(左)。『木綿の旅』など当時の工芸、生活文化をひもとくカラー文庫も豊富(右)

それでいて地に足のついた印象を受けるのは、きっとここに並ぶ本たちが、単なる情報として消費されてきたものではなく、持ち主の生活や価値観に影響を与えてきたことをうかがわせるから。書名から、装丁から、時にはページの書き込みから、誰かの人生の一部だったであろうたたずまいが、その本を再び手に取る私たちの心に響くのです。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

タイトルや装丁にひかれ、思わず手に取ることも。一冊一冊に読み継いでいきたくなるおもむきがある

店の奥の階段を上ると、2階はギャラリーと小さな新刊コーナー。随時展示やワークショップなどを行いながら、新刊本はなかむらさんの視点が生きた選書が並びます。

「“HERS BOOK STAND(=彼女たちの本棚)”と名付けた新刊コーナーでは、古本と違って少し特色を出して、ジェンダーフェミニズムについて考える本をメインに扱います。私自身が今興味のあるテーマですし、現在進行形でどんどん更新され広がっている思想だと思います」

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

2階の一角にある新刊コーナー。親交のある作家の私家版、リトルプレスなども扱う

本屋は誰しもに開かれ、多様な知見や文化にいつでも出合える場所。そして、新しい視点、新しい時代の気風に言葉と力を与えてくれる場所でもある。柔軟でありつつも芯のあるなかむらさんの姿勢からは、そんなしなやかなメッセージが感じられます。誰かの暮らしに寄り添ってきた本と、新しい自分に出合える本。京都の小さな古書店で出合う一冊が、人生を変えることだってあるかもしれません。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

ブルーの窓枠が目印。最寄りは叡山電鉄の一乗寺駅。恵文社一乗寺店からも徒歩5分ほど

マヤルカ古書店
http://mayaruka.com

BOOK

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京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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