カメラと静岡さとがえり

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第2回は、SLが走る大井川鉄道の駅前、川根本町にある農家民宿「いにしえの風」です。鉄道好きが高じて関西から移住してきた夫婦が開いたその宿で、石野さんは意外なものを見つけ、心和む体験をすることに。
(文・写真:石野明子、トップ写真は農家民宿「いにしえの風」と経営者の猪又克弥さん、恭子さん夫妻)

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戦前のSLが今も現役

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

日本の原風景の中を走る蒸気機関車(提供:大井川鉄道)

静岡県島田市の新金谷から、茶畑をぬけ大井川源流に近い川根本町の千頭まで、昭和初期の蒸気機関車、いわゆるSLが今も現役で走っている。その鉄道の名は大井川鉄道。SLを整備し現役で運用する「動態保存」を全国に先駆けて行ってきた鉄道だ。整備に必要な部品がなくなりつつある今、自社で製作したり、今は走っていないSLのものを譲り受けたりしながら、5両のSLを守り続けている。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

内装の木は年季を感じさせる

レトロな客車は昭和10年代から20年代に製作されたもの。使い込まれてさらに丸みを帯びたひじ置きや荷物棚の金具、座席表など、まるで博物館の中にいるような気分になる。ドラマや映画の撮影にもよく使われるそうだ。

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客車のフォルムが美しい

新金谷から千頭までは1時間ちょっと。新金谷の駅では地元の食材を使った駅弁も売っている。SLに揺られながら食べる駅弁は、まるでタイムスリップしたみたいで楽しい。

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「SLのことならなんでも聞いてください。」とSLおじさん

車掌のSLおじさんやSLおばさんが、ハーモニカ演奏や車内販売、SL解説で旅を盛り上げてくれる。手動で開ける窓の外にはお茶畑が広がり、青く輝く大井川が流れている。深呼吸はトンネル以外でどうぞ。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

川根本町は茶の名産地

鉄道好きの移住者が開いた農家民宿

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

地名駅の目の前にある「いにしえの風」

そんなSLが走る線路のすぐ脇、地名(じな)駅前に農家民宿「いにしえの風」はある。地名駅にはSLこそ止まらないものの、昭和30年代に作られた南海鉄道の通称“ズームカー”や、昭和40年生まれの車両など、レトロ感たっぷりの普通電車が止まる。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

素朴な地名駅

「いにしえの風」を開業したのは猪又克弥さん(55)。関西で生まれ育ち、根っからのアウトドア好き、そして鉄道好きだ。学生の頃からずっとこの大井川近辺でキャンプや撮り鉄を楽しんでいたそうだ。毎年この辺りを訪れているうちに芽生えた夢が、移住し、キャンプ場や民宿を開くこと。ずっと温めてきた夢をかなえるために早期退職に手を挙げ、静岡県川根本町に移住した。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

南海電鉄からきたズームカー

移住先に決めたのは、地名駅前にある築約90年の古民家だった。建物を竹やぶが覆い尽くし、地元の人でもそこに家があるとは思っていなかったという。あまりのすさみ具合に移住先として反対する声もあったそうだが、猪又さんは「この場所しかない!」と決心、妻の恭子さん(56)を同志に修繕・改築へ乗りだす。そして2016年、居心地の良い農家民宿が生まれた。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

竹やぶを取り除いて現れた古民家。この建物を改装して農家民宿にした(提供:猪又克弥さん)

宿泊客は1日1組、お宝鉄道グッズも

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

貸し切りでゆっくり過ごせる

宿泊客は1日1組限定で、古民家を貸し切りで満喫できる。大きな窓からは地名駅が見え、SLや、全国からやってきた昭和生まれの車両が行き交う様子が眺められる。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

縁側から見える景色

その大きな窓の下には座席番号札が取り付けてあるのだが、これはわかる人にはわかる初代新幹線車両についていたのだとか! 鉄道好きのお客さんが興奮して猪又さんに教えてくれたそうだ。「国鉄で働いていた父の友人からいただいたもので、まさかそんな価値があるものだったとは知りませんでした」と、猪又さんは話す。

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大きな窓の下に取り付けられた、初代新幹線車両の座席番号札

囲炉裏を囲む食事、客も一緒に準備

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

夕暮れ時、帰宅する人々を乗せて走る普通電車

食事は囲炉裏を囲んで。大井川で採れたアマゴや猪又さんの畑で収穫した野菜を、炭火で焼いていただく。ここ川根本町の名物・イノシシ鍋も出てくる。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

夕食は地元の恵みを囲炉裏で

夕食の準備は宿泊客も一緒にする。私の3歳の娘は、畑でジャガイモを収穫してポテトサラダ作りを手伝いご満悦。私が感動したのは、すりおろした新鮮な自然薯(じねんじょ)、火を通したサバを、だしであえた芋汁(いもじる)。日本酒もご飯も進んでしまう食べ物だ。

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収穫した野菜で夕食の準備を手伝う私の娘


築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

ここの名物料理、芋汁

民宿をオープンする際、地元の農家の方たちがたくさんメニューのアイディアをくれたそうだ。畑で困ったことがあるときにはすぐに駆けつけ手助けを、そのあとおしゃべりをして帰っていくという。「大事な大事なおせっかいおじいたちです」と猪又さんの顔がほころぶ。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

土鍋で炊いたご飯に箸がすすむ

写真好きでもある猪又さんは、撮影スポットに詳しい。知られていない場所もあるのでぜひ猪又さんに尋ねてみてほしい。私たちは夜、ホタルが見られる場所へ連れて行ってもらった。天候が少し悪かったこともあってたくさんは見られなかったが、ふわふわ飛ぶホタルを見ながら夜風に吹かれて心地よかった。

築90年の古民家リノベ SL走る里の農家民宿「いにしえの風」

「この土地が大好き」と語る猪又克弥さんと、妻の恭子さん

民宿の周りを散歩したり列車を眺めたり、古民家の床で寝そべってぐうたらしたり。鉄道好きのお客さんの中には、日がな一日窓から列車を眺めて過ごす人もいるそうだ。大人の最高の休暇だ。気負いがない温かいおもてなしが心にしみる古民家の宿。

■大井川鉄道
http://oigawa-railway.co.jp/

■農家民宿 いにしえの風
静岡県川根本町地名328
080-5199-3804(予約は電話のみ)
1泊8,500円〜
https://inishiemori.com/inishie-kaze-inn/

PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。
http://akikoishino.com/
https://www.instagram.com/studiofortlk/
http://studio-fort.com/

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