ベルリンの壁崩壊30年。東ドイツ博物館で感じる「社会主義ライフ」

1989年11月、東西冷戦の象徴であった「ベルリンの壁」が崩壊した。今年2019年は、ちょうど30年の節目にあたる。ベルリンの「東ドイツ(DDR)博物館」は、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)の市民生活を、さまざまな視点から記録したミュージアムだ。東西ドイツにおける性生活の比較などユニークな切り口で展示される「社会主義ライフ」とは?

(文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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国民車「トラバント」の疑似運転体験、秘密警察の取調室……

東ドイツ博物館は、シュプレー川をはさんでベルリン大聖堂の向かいにある。2006年の開館以来、公的機関の支援を受けず、入場料収入のみによって運営されてきた。

ベルリンの壁崩壊30年。東ドイツ博物館で感じる「社会主義ライフ」

東ドイツ博物館は、シュプレー川をはさんでベルリン大聖堂の向かいにある

館内は三つのコーナーで構成されている。一つ目は「日常生活」、二つ目は「一党独裁体制下での政治、軍事、経済」をテーマに展示。三つ目では旧東ドイツの一般家庭が再現されている。

一部に年代の明記がないのは惜しいが、展示物には可能な限り触れられるようになっている。壁崩壊時に東ベルリン市民が大挙して運転してきたことで話題になった国民車「トラバント」のドライビング・シミュレーターも人気だ。ステアリングを操作しアクセル・ペダルを踏むと、いかにも社会主義スタイルの団地街がフロントウィンドー部分にあるスクリーンに投影され、疑似運転体験ができる。

ベルリンの壁崩壊30年。東ドイツ博物館で感じる「社会主義ライフ」

旧東ドイツの大衆車「トラバントP601(1964-1989)」のドライビング・シミュレーター

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運転席。アクセル・ペダルとブレーキを操作すると、団地が立ち並ぶ街区を走行するシーンがウィンドーに映し出される

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2ストローク594.5cc 26馬力エンジンを搭載。最高速は100km/hだった

解説によると、旧東ドイツでは計画経済のもと、生活必需品の価格は極めて低く設定されていた。しかし全国民を満足させる流通量からはほど遠く、店の前に行列ができるのは当たり前だった。その傍らで店主は友達のため商品の一部を取り置きし、物々交換に供していたという。

シュタージと呼ばれた旧東ドイツの秘密警察である国家保安省の取調室や、盗聴室といったものも再現されている。旧東ドイツでは、西側への逃亡を防ぎ、社会をすみずみまで管理するため、人々を徹底的に監視した。シュタージの正規職員が9万人以上、民間要員の非公式協力者が18万人以上いたとされ、密告が横行した。

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ポツダム大学で養成されたシュタージこと国家保安省の秘密警察要員は、こうした部屋で容疑者の取り調べを行っていた。「心配するな。時間はたくさんある」が決まり文句だったという

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東西ドイツにおける性生活の比較、ナチュリズム

いっぽう民間住宅の寝室を再現した部屋では、東西ドイツにおける性生活の比較についても触れられている。

たとえば性交初体験の平均年齢は東のライプチヒでは17.1歳、西のハンブルクでは17.2歳。1カ月の平均性交回数もライプチヒが6.5回。ハンブルクが6.9回だった。東西でほとんど変わらなかったことがわかる。

ベルリンの壁崩壊30年。東ドイツ博物館で感じる「社会主義ライフ」

一般家庭の寝室を再現。ベッドの上には、旧東ドイツ市民の性生活事情に関するデータが投影される

海岸などにおけるナチュリズム(ヌーディズム)も展示。社会主義統一党は当初好意的ではなかったが、のちに方針を転換・容認している。

ベルリンの壁崩壊30年。東ドイツ博物館で感じる「社会主義ライフ」

ナチュリズム(ヌーディズム)は東ドイツで一般的だった。実に5人に4人が実践していたという

国民の「ガス抜き」という意図も考えられるが、東西ドイツ分割よりはるか昔の1920年代に始まったそのムーブメントに政府も逆らうことはできなかったのであろう。

雑誌や商品パッケージに記された女性のイラストや写真も、意外に明るいムードのものが多い。

一般に抱く社会主義国のイメージとは乖離(かいり)した、それらの解放感は印象的である。

東ドイツ博物館は、すでに「欧州ミュージアム・オブ・ザ・イヤー」に2回選定されている。

約1万人の寄贈者から集められた収蔵品は、バックヤードも含め30万点に及ぶ。現在も旧東ドイツのアイテムの寄贈を広く呼びかけている。このユニークなミュージアムは、今なお成長中だ。

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■DDR Museum 公式ウェブサイト
https://www.ddr-museum.de/

PROFILE

大矢アキオ

イタリア文化コメンテーター。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て独立、イタリア・シエナに渡る。雑誌、webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』レギュラーレポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密』(二玄社)など。

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