クルーズへの招待状

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの上田寿美子さんが案内する連載「クルーズへの招待状」。

今回は客船「ル・ボレアル」で行く北極圏にあるノルウェー領スバールバル諸島を巡る旅。ザトウクジラ、ホッキョクグマ、アゴヒゲアザラシ、スバールバルトナカイ……、野生動物に遭遇しながら「海のサファリ」のような旅は続きます。北極クルーズの後編です。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

迫力十分! ザトウクジラが目の前を回遊

ル・ボレアルの北極クルーズ5日目の朝は、ガルシア船長の「ただいま午前5時ですが、船の周りに複数のザトウクジラを見つけました。素晴らしい光景なので、よろしければぜひご覧ください」という幸先の良い放送から始まりました。

早速、防寒具を着て自室のベランダに飛び出すと、ちょうど3頭のザトウクジラが潮を吹きながら目の前を回遊中。3頭が連続でペタンクルアーチ(海面から出て体を弓なりにする)をしたり、時間差で尾を上げて潜ったり……。早朝からまぢかで見るクジラは迫力十分。

ル・ボレアルは約90%の客室がベランダ付きなので、急な野生動物の出現にも、すぐ対応できるのが魅力です。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

早朝からザトウクジラウォッチング。こちらで潮を吹き、あちらで尾を上げる(撮影 上田寿美子)

ホエールウォッチングが終わり、6デッキに上がってゆくと、今朝はプールに水がはってありました。天気が良く気温も約9度あったので、早速水着になって入ってみると、水ではなく、心地よいお湯でした。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

北極圏でプールはいかが(撮影 上田英夫)

数往復泳いだ後、ゆっくりと船外に広がるプリンス・カール・フォーランド島の絶景を北極のプールから堪能。ほほを爽やかな風がなでてゆく、極上のプールタイムとなりました。

ゾディアックボートで衝撃的な光景に遭遇

午前10時、ゾディアックに乗り、島に上陸。前回よりもさらに大集団を形成する20頭以上のセイウチの群れがいました。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

セイウチの大群。そばで見ると迫力がすごい(撮影 上田寿美子)

午後の上陸ツアーに出かける前に、再びガルシア船長の放送がありました。「午後はプリンス・カール・フォーランド島の裏側に上陸しようと計画していましたが、複数のホッキョクグマが出たとの報告がありましたので、安全のため上陸はしません。島の周りをボートで巡るゾディアッククルージングをお楽しみください」

そこで、ゾディアックボートに乗り、島に近づいていくと、確かにホッキョクグマの母子3頭が陸地にいるのが見えました。さらに少し離れた場所に、より体の大きな雄のホッキョクグマも1頭確認できました。

海上からその様子を見ること約10分。母子熊は座ったままで、あまり動きがなかったため、ボートがその場を離れようとした時、急に母子熊が海に向かって歩き始めました。

海辺にはミンククジラと思われる死体が横たわっていましたが、驚いたことに母子熊はその上にはい上がり、むしゃむしゃと食べ始めたのです。舌なめずりをする母熊。皮を食いちぎる子熊。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

クジラを食べるホッキョクグマ親子。ボートとの距離は約20メートル(撮影 上田寿美子)

約20メートル先で展開する、あまりにも衝撃的な光景に、乗客たちは息をのみ、ゾディアックの中は静まり返りました。

エクスペディションスタッフによれば「あのクジラは多分、ケガか病気で死んだのでしょう。冷たい海に浸っているので腐敗も遅く、ホッキョクグマの親子にとって大事な栄養源なのです」とのこと。一同うなずいて、そっとその場から離れました。

後日、ガルシア船長に聞いたところ「翌日、姉妹船が同じ場所に行ったら、雄のホッキョクグマ2頭がクジラを食べていて、母子熊はそれを遠巻きに見ていたそうです」。その言葉に、極地で生き延びる厳しさを思い知らされました。

パティシエも乗船、目の行き届いたサービスが上質で快適

冒険心に富んだゾディアッククルージングを終え、船に帰ると、興奮と緊張に包まれていた体は、甘味を欲していました。5日目のアフタヌーンティーのお菓子は「ラデュレ」のマカロン。小粋なパリのお菓子の香りが北極圏にも漂いました。

さらに、ル・ボレアルには菓子作り専門のパティシエも乗っていて、リンゴの焼き菓子タルトタタン、メレンゲをアングレーズソースに浮かべたウ・ア・ラ・ネージュ、クレープをオレンジ果汁とグランマルニエ酒で仕上げたクレープシュゼットなどフランスの代表的お菓子がふんだんに登場するのも楽しみの一つ。夕食のデザートは繊細なデコレーションで、食べてしまうのが惜しいほどでした。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

ホームメイドのおしゃれなデザート(撮影 上田寿美子)

このクルーズは乗客約250名に対し、乗組員が約140名。小型船の強みを生かした隅々まで目の行き届いたサービスも、極地クルーズを上質で快適なものにしてくれました。

さらに、今回は阪急交通社のグループツアーに同行するという形式だったので、毎日添乗員さんが日本語のメニューやスケジュール表を私の部屋にも届けてくれたので大助かり。日本から来た70歳以上のシニアのお客様たちも安心して北極クルーズを楽しんでいる様子でした。

北極圏でカクテルドレスとピンヒールでダンス、ダンス

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

パリの夜を思わせるショーを北極で楽しむぜいたく(撮影 上田寿美子)

昼間の活動的な過ごし方と打って変わって、しゃれたパリ気分が楽しめるのが、夜のショータイムです。歌手とダンサーが繰り広げるプロダクションショーは、「カジノ」「キャバレー」などがテーマで、大人の世界へ誘ってくれました。

また、パーティーがある夜はショーのダンサーも出席し、一緒にダンス、ダンス。北極圏なのにカクテルドレスとピンヒールで踊る女性ダンサーたちはさすがプロフェッショナル。小さな船ならではの家庭的な雰囲気で北極の夜は更けていきました。

幻のトナカイが、ついに……。北極クルーズの冒険はフィナーレ

6日目。ル・ボレアルはさらに北上し、今回のクルーズで最北の北緯80度24分まで進みました。この辺りは海水が凍結した海氷が多く、午前中はゾディアックに乗って、氷の間を走り、野生動物を見つける約2時間の小旅行。平らな氷の上にアゴヒゲアザラシが優雅に寝そべり、こちらを見ていました。

ところで、ル・ボレアルは氷に強い耐氷船なので、午後は、海氷の海をクルージングとなり、最上階の7デッキには大勢の乗客が眺望を楽しむため集まってきました。無数の氷が浮かぶ海を走ってゆくと、ここでも遠くの氷の上を歩き回るホッキョクグマを見ることができました。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

無数の海氷が浮かぶ海を北上(撮影 上田英夫)

クルーズも残すところ2日となりました。明日の朝には下船するので、今日が最後の探検日です。午前中に「7月14日氷河」の前に到着。フランスの革命記念日7月14日に敬意を払い名付けたという由来です。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

北極圏にも花が咲く(撮影 上田寿美子)

ゾディアックで上陸すると、ピンクの花モス・キャンピオン、白い花タフティッド・サクシフリッジなど、あちこちに花やコケが生息し、北極圏にも花が咲くことを知りました。

そして断崖を見上げると9頭ほどのスバールバルトナカイの姿。レシェシェ氷河ではその足跡しか見られなかった幻のトナカイが、ついに現れたのです。同じ方向を向き、絶壁にへばりつくように生える草を熱心に食べていました。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

草をはむスバールバルトナカイ(撮影 上田英夫)

船に戻る前にゾディアックに乗り「鳥のマンション」と呼ばれる岩も見物。黒と白のハシブトウミガラスや小型のオウムのようなパフィンなど複数種の鳥が入れ代わり立ち代わり飛び立っては帰ってきます。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

お化粧しているような顔のパフィン(撮影 上田英夫)

船長歴25年のガルシア船長はこのクルーズを振り返り「自身の長い経験の中でも、最高と言えるほど大当たりのクルーズでした。氷河の大崩落、クジラを食べるホッキョクグマなど、珍しいものをお見せできてうれしいです。日本の方にも、ぜひ北極クルーズにお出かけいただきたいですね」と語ってくれました。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(後編)

ガルシア船長は船長歴25年のベテラン(撮影 上田英夫)

そして、ラストナイトは、船長主催のサヨナラパーティー。引き続きのガラディナーは、船長と円卓を囲むキャプテンズテーブルに招待され、フォアグラ、子羊のグリルなどのごちそうで、盛り上がりました。

7日間にわたり、フランス、アメリカ、オーストラリア、日本など世界数カ国の人々が同じ船に乗り合わせ、共に冒険に繰り出し、共に船上生活を楽しんだ日々。小さな世界を楽しむ船旅は、人と人との出会いの場でもありました。

そして、「明日は気を付けておかえりください」「あなたもね」と声を掛け合い、別れを惜しみつつ、「海のサファリ」のように北極圏を巡ったクルーズはフィナーレを迎えたのでした。

■このクルーズに関する問い合わせ先
www.ponant.jp

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PROFILE

上田寿美子

クルーズライター、クルーズジャーナリスト。日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて30年。外国客船の命名式に日本を代表するジャーナリストとして招かれるなど、世界的に活動するクルーズライター。旅行会社等のクルーズ講演も行う。著書に「豪華客船はお気に召すまま」(情報センター出版局)、「世界のロマンチッククルーズ」(弘済出版社)、「ゼロからわかる豪華客船で行くクルーズの旅」(産業編集センター)、「上田寿美子のクルーズ!万才」(クルーズトラベラーカンパニー)など。2013年からクルーズ・オブ・ザ・イヤー選考委員。

「海のサファリ」の旅 ル・ボレアルで行く北極クルーズ(前編)

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