永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(30)撮ったのは、摩天楼じゃない ニューヨークの永瀬正敏

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。ニューヨークの高層ビル群が写ったこの写真、実はビルを撮りたかったわけではないそうです。だとすると、何を?

(30)撮ったのは、摩天楼じゃない ニューヨークの永瀬正敏

© Masatoshi Nagase

ニューヨークのセントラルパークから、少し外に出たあたりで、密集するビルを見上げるような角度で撮った。とはいっても、撮りたかったのはビル群ではない。光にレンズを向けたら、光の反射がきれいだなと思い、シャッターを切った一枚だ。

できあがった写真には、被写体が白くぼやけるハレーションや、グラデーションをなす光が、美しく写り込んでいた。わりと広角のレンズで撮影したと思う。そのためか、高層ビル群の頂上が、上空の一点を目指して、にょっきりそびえたっているように見える。まるでビルという生き物が、一斉に背伸びしたか、背比べをしているかのように。

ビルは高さがまちまち、外観も個性的で、はちゃめちゃというか、まるで統一性がない。いろいろなものが混在するニューヨークの多様性が、こんなところにも現れているのかもしれない。

カラーで撮った写真だが、モノクロに変換してある。僕は基本的に、カラー写真よりモノクロ写真のほうが好きだ。モノクロはただの白と黒ではなく、とても奥深い。何より、色は見ている方につけてほしい、という思いがある。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(29)永瀬正敏が撮った、魔法のコミュニケーション ニューヨークの街角で

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(31)曲線が抱える直線の街 永瀬正敏が撮ったブルックリン

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