京都ゆるり休日さんぽ

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

香ばしい焼き菓子がひときわおいしく感じられる、秋。大徳寺の裏手に昨秋オープンした「歩粉(ほこ)」は、滋味豊かな焼き菓子をたっぷりの紅茶とともに味わうカフェです。ワンプレートに多彩なお菓子を盛り付けた、コースさながらのデザートセットは大人のぜいたく。そこには店主・磯谷仁美さんの、焼き菓子とそれを味わう時間へのひたむきな愛情がありました。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

“人生リセット”の気持ちで決めたアメリカ留学

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

白と無垢(むく)材を基調とした内装に、恵比寿の店の面影が宿る

「歩粉」といえば、焼き菓子好き、カフェ好きの間で伝説的な人気を集めていた恵比寿の名店。焼き菓子のレシピ本も発表しすっかりファンが定着したころ、周辺地域の開発にのまれるような形で2015年、惜しまれつつ閉店しました。

約3年の充電期間を経て、再出発の地に選んだのは京都。それまで、東京を離れるなど考えもしなかった磯谷さんの背中を押したのは、恵比寿の店を閉めてから渡ったアメリカ・ポートランドでの暮らしと、バークレーの名レストラン「シェ・パニース」での経験でした。

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

テイクアウトの焼き菓子も並ぶ。木~日曜の営業のため、木曜日が一番品ぞろえ豊富

「お菓子のことは続けたいけれど、先のことが決まらない。そんな状況で“人生を1度リセットする”ような気持ちで、ポートランドに留学を決めたんです。さらに、ご縁をいただき1年間シェ・パニースでインターンを経験できることに。2年半の海外生活は本当に学びが多く、日本文化の豊かさや京都という土地の魅力に気づくきっかけになりました」

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

店主の磯谷さん(左)。『「歩粉」の焼き菓子レシピノート』(主婦と生活社)などのレシピ本のほか、アメリカでの経験をもとにした著書『歩粉のポートランド&バークレー案内』(誠文堂新光社)も

海外生活中、オーガニックフードや地産地消といった食への取り組みを、現地に暮らす人々が当たり前に実践していることに感銘を受けたという磯谷さん。一人ひとりがあたたかく、当事者として暮らしや社会をサステイナブルな方向へ導く姿を見て、自分の店にもその姿勢を取り入れたいと考えました。

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

吹き抜けの空間が開放的な店内。元は倉庫だったという古い建物を改装した

「前の店では、紅茶やジャムは海外のものを使っていましたが、京都での再オープンをきっかけに、すべて国産や自家製に切り替えました。一番苦労したのは紅茶。ストレートでもミルクを入れても風味豊かな和紅茶を探して、辿り着いたのが静岡の『丸子(まりこ)紅茶』です。歩粉のどっしりした焼き菓子の風味を受け止めてくれて、ポットでゆっくり飲みながらおやつの時間を過ごすのにぴったりなんです」

月に1度でも、ゆったりと自分にぜいたくを許して

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

「デザートフルセット」(2600円・税別)の1皿目。スコーン、豆乳くずもちのほか、甘いもの続きの口直しに、大徳寺納豆を隠し味に使ったエッグクラッカーサンドも

歩粉のメニューは、2皿からなる「デザートフルセット」のほか、1皿に定番と月代わりのお菓子を盛り合わせた「デザートSセット」(1900円・税別)と看板商品のスコーンを味わう「スコーンセット」(1500円・税別)。恵比寿の店のころからのスタイルです。デザートだけにしては背伸びした価格帯のこのセットを、変わらずに続けているのは磯谷さんのある思いから。

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

「デザートフルセット」2皿目は月替わり。ケーキやプリン、フルーツなどそれぞれ風味や食感の異なるスイーツが並ぶ

アフタヌーンティーってありますよね。スコーンやケーキが2~3段重ねのプレートで出てきて、ポットにたっぷりの紅茶が用意されて。自分も大好きで、あのスタイルを歩粉らしく提供したいと思ったのがデザートフルセットのはじまりです。月に1度でもいい。好きなお菓子をめいっぱい、ゆったりと味わう自分の時間を過ごしてもらえたらって」

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

ガラス戸の絵は画家・林青那さんによるもの。デザインは磯谷さんの長年の友人でもあるデザイナーユニット「drop around」が手がけた

だから歩粉は、紅茶やハーブティーはポットで提供し、差し湯もOK。12歳以下のお子様の飲食を見合わせているのも、訪れた人にほんのひと時、育児や仕事を忘れてお菓子を楽しんでほしいから。本を片手にゆっくりとティータイムを過ごす、1人のお客様も多く訪れます。

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

ずっしり濃厚なショウガの風味が1度食べたら忘れられない「ジンジャーケーキ」も、スコーンと並ぶ名物

プレートにちょこんとのったお菓子たちは、どれも素材の風味が香りたち、ひと口食べるごとに感動と口福が胸いっぱいに訪れます。全粒粉のざくざくとした香ばしさと食感が引き立つスコーンには、自家製のジャムや国産のはちみつをつけて。季節の食材を生かしたケーキは、旬の食材と小麦やバターの調和に、感嘆のため息がこぼれます。香りで、食感で、味わいや余韻で、飽きさせずいつまでも食べていたいと夢見てしまうお菓子ばかりが、歩粉のひと皿には散りばめられています。

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

ベンガラ色の建具が風情ある街並みに溶け込む

メニューは月替わり。季節の食材やクリスマス、バレンタインなどのイベントに合わせて、いつ訪れても新しいおいしさに迎えられます。さあ、おなかをすかせて心を満たす、とっておきのおやつの時間を過ごしてみてください。

歩粉
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BOOK

焼き菓子をゆっくり味わう時間の提案。新生「歩粉」、京都の歩み

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

バックナンバー

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」

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