&Discovery

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

ベルギー・フランダース地方とオランダの食とアートを巡る旅に、&TRAVEL副編集長がこの夏、出かけてきました。一念発起して減量している最中にもかかわらず連日のグルメざんまい。リバウンドの恐怖と闘いながら、限定秘蔵のアートに触れ、身も心も癒やされた……のでしょうか? 第1回は、ベルギー・フランダース地方の古都ブルージュです。
(文・写真:&TRAVEL副編集長・星野学)

フォトギャラリーはこちら

だるい体が一挙に目覚め ベルギー料理「Goffin」

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

「Goffin」。外観はこぢんまりとしゃれている

ベルギー・ブルージュにある、ベルギー料理レストラン「Goffin(ゴファン)」。6月21日午後8時すぎ、このミシュラン一つ星レストランに腰掛けた私は、くたびれ果てていました。日本をたって17時間も移動続きだったうえ、日本時間なら午前3時すぎ。熟睡しているはずの時間にコース料理をいただくわけですから、食べる前からごちそうさま気分。ところが、目の前にずらりと並んだアミューズに、体は一瞬で目覚めました。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

登場したアミューズ。(左上)甘辛いトマト(右上)鳥の巣風の揚げミートボール(右下)えびせん風のスナック(左下)手前はクレープ風のアミューズ、奥はワインビネガー風味のピザ

6品のアミューズは、見た目も味も創意工夫に満ちていました。たとえば、鳥の巣を模した揚げミートボールは、表面はかりっと仕上げてあるのに、中のすり下ろした肉はふわふわ。甘辛いトマト、ワインビネガー風味のピザなどほかの料理も、味の予想がいい意味で裏切られる快感続き。

「これはちょっと、困ったことになったな」と内心思いました。私は減量中だったからです。

むくむくと育った内臓脂肪の撲滅を掲げて減量に着手したのが5月半ば。人間ドックの医師面談で「あなたは糖質のとりすぎです。糖質の多い醸造酒もやめましょう」と警告されたものの、日本酒もワインもおいしいご飯も我慢するなんて無理、と聞き流していました。しかし、最も腹回りの大きなズボンのボタンがとめられなくなり、服を山ほど新調するか減量するかの二者択一を迫られ、泣く泣く選んだ減量の道。今回のツアーに出発したのは、「うん? 外見が変わってきたか?」と手応えを感じ始めたころでした。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

コース1品目「タイのタルタル」。キュウリ、ヨーグルト、ディル、エルダーフラワーを素材に

飲み食いしまくってリバウンドしては、元の木阿弥(もくあみ)。それなのに、アミューズにしっかり魅せられ、6品すべて完食してしまいました。しかも、注文した「3品のコース」はこれから出てくるのです。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

2品目。黒豆のクリームをあしらった牛肉料理

コース1品目「タイのタルタル」は、キュウリとヨーグルトの風味が際立つさっぱり味。2品目の、黒豆のクリームがかかった牛肉料理は、しっかりまったり。3品目のチェリー尽くしのデザートのあと、これまたメニューにない小菓子が次々と。ああ、もはや……。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

ワイン。左から、ポルトガルの赤「ルイ・レギンガ」、ベルギーの泡「シャンデオール」、ハンガリーの白「パンノンハルミ・アパーチャーギ・ピンツェーセト」

感心したのはワインです。お店のスタッフにマリアージュを頼んだら、アミューズにはベルギー産のスパークリングワイン、タイにはハンガリー産の白、牛肉にはポルトガル南部の赤を合わせてくれました。誰もが知る著名ワインではありませんが、店の料理との相性は吟味し尽くしたようで抜群。食の地平を広げてもらいました。

■Goffin
http://www.timothygoffin.be/

世界遺産の鐘楼 マルクト広場をぶらぶら

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

ブルージュで宿泊したホテル「マーティンズ・ブルージュ」

旅の疲れで泥のように眠った翌朝は、きれいな青空でした。泊まったホテル「Martin’s Brugge(マーティンズ・ブルージュ)」から、旧市街の中心にあるマルクト広場までは徒歩数分。朝食前に、世界遺産「ブルージュの鐘楼(しょうろう)」や、近くの街並みをぶらぶら眺めて歩きました。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

世界遺産「ブルージュの鐘楼」。13世紀に建てられ、高さは83メートルある

■ブルージュの鐘楼
https://www.museabrugge.be/bezoek-onze-musea/onze-musea-en-monumenten/belfort?

フォトギャラリーはこちら

いにしえの暮らしを知る「グルートフーズ博物館」

昨夜のディナーを完食してしまった反省から、朝食はハム、卵、野菜に絞り、パンは食べずに我慢しました。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

グルートフーズ博物館

この日最初に訪問したのは、ひと月前にリニューアルオープンしたばかりのグルートフーズ博物館。ビールに使うハーブで財をなした貴族グルートフーズ家の館だった建物で、ブルージュがブルゴーニュ公国に属していた15世紀を軸に、約500年間にわたる家具や調度品や衣類など約600点を展示。いにしえのブルージュの暮らしがわかる民俗博物館です。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

博物館の建物自体も、みどころの一つ

「ここは19世紀の終わりに、この街出身の建築家ルイ・デラサンセリが改装し、ネオゴシック様式の博物館となりました」と、ガイドのロニー・デ・コスターさんが教えてくれます。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

螺鈿(らでん)細工を施した日本製の漆器の櫃(ひつ)。16世紀の品で、こちらでも「ナンバン(南蛮)」の名で珍重された

博物館の一角には、15世紀に造られたグルートフーズ家の私的礼拝所が保存されています。隣にある聖母教会の聖堂をガラス越しに見下ろせ、専用扉から教会内に直接入ることもできました。「グルートフーズ家は、ビールの香り付けに使うハーブ『グルート』の取引を独占していました。人目につかず教会に入れるほどの特権階級だったのです」と、デ・コスターさん。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

15世紀に造られたグルートフーズ家の私的礼拝所。右の扉から隣接する聖母教会へ入れた

■グルートフーズ博物館
https://www.museabrugge.be/bezoek-onze-musea/onze-musea-en-monumenten/gruuthusemuseum

ヤン・ファン・エイクの「神の手」実感 グルーニング美術館

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

グルーニング美術館

続いてすぐ近くのグルーニング美術館へ。15世紀から16世紀の初期フランドル絵画の充実したコレクションで知られています。まずは、これ。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

ヤン・ファン・エイク「ファン・デル・パーレの聖母子」(1436年)

ヤン・ファン・エイクの傑作の一つに数えられる、「ファン・デル・パーレの聖母子」です。ファン・エイクは現代に連なる油絵技法の創始者といわれ、精密な筆遣いは「神の手」とたたえられました。卓越した技量は、この絵にも刻まれています。

中央の聖母マリアが身につけた衣装が波打つ様子や細かな装飾、足元のカーペットは模様はもちろんのこと、段々に折り曲げた時にできたひび割れまで、ていねいに描かれています。

「白い服のひざまずいた男性は、この絵を発注したブルージュの聖職者ファン・デル・パーレ。彼の守護聖人である甲冑(かっちゅう)姿の聖ゲオルギウスが、彼を聖母子に紹介しようとしています。聖ゲオルギウスの楯(たて)に映った人物は、作者のヤン・ファン・エイクとも言われます」。デ・コスターさんの説明が熱を帯びます。楯の人物は、よほど目を凝らさないとわかりません。なんとも芸の細かいこと。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

ヒエロニムス・ボス「最後の審判」

一方、こちらはヒエロニムス・ボスの三連祭壇画「最後の審判」です。怪物、悪魔、天使といったものがあちこちに描き込まれ、なんとも寓意(ぐうい)とファンタジーに満ちた世界です。そのすべてが解読されたわけではないようですが、たとえば、中央のパネル左側に見える、ハープにはりつけにされた男。「ハープは女性器を意味し、欲望に負けた男を描いた、とされます」とデ・コスターさん。「左下に描かれたのは、酒に溺れた者たちです」

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

「最後の審判」の一部分。左はハープにはりつけにされた男、右は酒に溺れた者たち

■グルーニング美術館
https://www.visitbruges.be/nl/groeningemuseum

フォトギャラリーはこちら

クラウドファンディングでビールパイプライン!

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

老舗ビール醸造所「De Halve Maan」

お昼ごはんは、1856年創業の老舗ビール醸造所「De Halve Maan(デ・ハルフェ・マーン)」のレストランで。いただいたのは、フランダース地方の郷土料理「カルボナード」、牛肉のビール煮込みです。ほのかな苦みと酸味が感じられる、あっさりした味わいでした。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

カルボナード

このビールメーカーは2016年、世界的に話題となりました。旧市街中心部にあるこの醸造所と、3.2キロ離れた郊外にある瓶詰め工場を結ぶビール直送用地下パイプラインを、資金の一部をクラウドファンディングで調達して敷設したのです。

生産力増強のため2010年に瓶詰め工場を郊外に移したものの、旧市街は石畳の狭い道だらけで、工場までタンクローリーでビールをピストン輸送するのは難しい状況でした。それならパイプを埋めてしまえ、と考えついたとか。約400万ユーロ(約4億8千万円)の費用のうちクラウドファンディングで集めた30万ユーロ(3600万円)は、この方法で集めた資金としては当時、ベルギーでは類をみない高額だったそうです。ビールが市民に愛されている証しでしょう。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

レストランで飲み物や料理を運んできてくれた従業員の女性

食後は、ブルージュの街を一望できる醸造所の屋上へ。眺望自体が観光コースになっているようで、案内スタッフに率いられた観光客が、はしごや階段をぞろぞろ上っていきます。

水の都をぐるり見渡せるのは確かですが、私は高所恐怖症でした……。屋上のへりに巡らせてある落下防止柵にぐっと近寄ればより迫力ある写真が撮れるのですが、恐ろしくて近づけません。気絶寸前の中、やっとの思いで数枚パチリ。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

「De Halve Maan」の屋上から見渡すブルージュの街

■De Halve Maan
https://www.halvemaan.be/

ボートからしか見えない景色 運河クルーズ

地上へ降りてほっと一息つくと、この街での締めくくり、運河クルーズです。ブルージュの運河沿いは道のない場所も多く、ボートからしか見えない景色が楽しめるとあって観光客にも大人気です。5カ所ある乗り場のうち、私たちは聖母教会近くの場所へ。

チケットを買って列に並び、気長に待っていたら、30分ほどで順番が回ってきました。船長以下29人、屋根のないボートに乗り込み、いざ出発!

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

運河クルーズへいざ出発! 正面の塔は聖母教会

オランダ語、フランス語、ドイツ語、英語で代わる代わる観光案内アナウンスが流れますが、私が乗った船尾はエンジン音がすさまじく、聞き取ってメモすることは早々に断念。代わりに、橋の上からこちらを眺めている人と手を振り合ったり、景色を目に焼き付けることに集中したりと、かえって船旅が満喫でき、けがの功名といった気分です。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

風情のある石橋が随所にかかる

聖母教会の塔を正面に見ながら出発し、さきほど訪れたビール醸造所「De Halve Maan」のそばを通り、船は進みます。運河にかかる橋は大きなものもありますが、水面からそう高くない場所にかかる小さな橋が大部分です。橋をくぐる時に立ち上がろうものなら、橋に頭をぶつけてけがをしそうです。同乗したお客さんも、橋をくぐる時は一斉に首をすくめていました。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

橋の下はすれすれの高さ。立ち上がってはいけません

約30分の運河クルーズ。これで10ユーロ(約1200円)はお得でした。

減量中なのにディナー完食 「神の手」に驚嘆 ベルギー・オランダ紀行(1)ブルージュ

運河が行き止まった先には、ヤン・ファン・エイクの像。後ろ姿ですが

そして次なる目的地、ゲントへ車で向かいます。
(つづく)
フォトギャラリーはこちら

【取材協力】
オランダ政府観光局/ベルギー・フランダース政府観光局
https://www.hollandflanders.jp/

PROFILE

&編集部員

国内で、海外で。&編集部員が話題の旅先の新たな魅力を「発見」し最新情報をリポートします。

星野リゾートでこの値段?? 「BEB5 軽井沢」の35歳以下エコひいきプラン

一覧へ戻る

「神秘の子羊」と劇的対面 この顔、食べていいのか? ベルギー・オランダ紀行(2)ゲント 

RECOMMENDおすすめの記事