台湾一周自転車旅

台湾一周自転車旅「環島」 高校から突然招待、温泉のグッとくる人情 (3)台南~車城

「環島」をご存じですか? 台湾をぐるり一周する旅のことです。とりわけ近年人気の自転車による環島に、ライターの中村洋太さんが挑んだ連載「台湾一周自転車旅」。第3回は台南から車城まで。台南では安上がりの屋台を満喫し、高雄では突然高校に招かれ、車城近郊の温泉では、思わずぐっとくる人情に触れました。

【台湾一周自転車旅「環島」 インスタ映えの彩虹眷村と愛すべきおせっかい (2)台中~台南】からつづく

美食の街・台南でひたすら食べる

日本統治時代の建物も残るノスタルジックな街・台南には2泊した。さすが美食の街と言われるだけあり、何を食べてもおいしかった。特に屋台や食堂でリーズナブルに食べられる一品料理「小吃(シャオチー)」は豊富。通りを歩いているとたくさんの小吃店に出くわした。

「阿江炒鱔魚」もそのひとつで、店の名物はタウナギのあんかけ麺。簡易イスに腰掛け、相席が当たり前という具合だが、人気店らしく行列ができていた。一般的なラーメンの半分くらいの量だからペロっと味わえて、次のお店へハシゴする。それが台南の夜の楽しみ方だ。

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「阿江炒鱔魚」のテーブル。小腹が空いた時にぴったりのサイズでおいしい食を楽しめる

B級グルメの宝庫「花園夜市」も訪れた。ここは木・土・日のみの開催だが、台南には他にも3つの大きな夜市があり、毎日どこかしらで夜市が行われている。日本ではお祭りや花火大会の時くらいしか出ない屋台を、台湾に来てから毎晩見かける。どうしてこれだけ盛んなのかというと、大半の人が食事を外で済ませる習慣があるからだろう。

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所狭しと屋台が並ぶ「花園夜市」。暗くなるにつれて、多くの人がバイクでやってきた

台湾では、食材を買ってきて調理するよりも、外食した方が安上がりになることも多いらしい。屋台なら経済的だし、おいしいし、片付けの手間も省ける。また、ほとんどの夫婦が共働きである事情も無縁ではなさそうだ。

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そういえば走行中、「夜市用品」と書かれた看板を見かけた。屋台道具がそろうのだろうか

それから、マンゴーなどのフルーツをふんだんに使ったかき氷も、台南の名物だ。お店も豊富にあるし、暑いからついつい食べたくなる。

オランダ統治時代の遺構であるゼーランディア城(安平古堡=あんぴんこほう)を訪ねるなど、観光もそこそこしたが、台南ではほとんど食べていた記憶しかない。食通にはたまらない街である。

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ゼーランディア城は現在博物館になっている。オランダ統治当時の台南の様子が描かれていた

日本語を学ぶ高雄の高校生たちと交流

台南を出発し、ワクワクした気持ちで高雄へ向かっていた。それはつい数日前、高雄の高校で日本語教師を務める方から、「うちの学校で、中村さんのこれまでの経験を話していただけませんか?」という連絡をいただいたからだ。Facebookでぼくの旅の投稿を見つけたのだという。

台湾の教育現場には興味があったし、日本語を学ぶ高校生たちと交流できるなんて、願ってもない機会だった。

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黒板には「中村さん ようこそ鳳山商工へ」という言葉が

教室に入ると、大きな拍手で歓迎を受けた。不思議な運命だと思った。ぼくはなぜここにいるのか。「中村さんのことについて話してください」と言われたので、心に浮かんだことを素直に話した。

「ぼくが今ここで皆さんと出会えたのは、大学生の頃に、自分の持っていた素朴な疑問と向き合ったからなのです」

ぼくは小さい頃から、日本地図が本当に正しいのかどうか、漠然と疑問を抱いていた。大学3年生の夏、自分の目で地図の正しさを確かめたいと思い、自転車で横須賀を飛び出した。鹿児島までたどりついて地図の正しさがわかるまでの間、毎日、様々な景色や人と出会った。ささいな疑問を解消するための行動によって、旅の素晴らしさを知った。そして旅行記を書き残すためにブログを始めたことが、ライターという職業に導いてくれた。その延長で、今ここにいる、と。

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熱心に話を聞いてくれた生徒たち

「日本も台湾も、海に囲まれています。その海の向こう側には、本当に広い世界があり、自分の価値観を変えてくれる体験が待っていました。ぜひ皆さんも旅をして、視野を広げてください。そして、心の中にある素朴な疑問と向き合い、自分の好きなことに挑戦してください」

できるだけ平易な言葉で話し、それを日本語の得意な生徒が通訳してくれた。皆熱心に聞いてくれ、話し終えると「一緒に写真撮らせて」と人懐っこく群がってきた。

お返しに、日本でおもてなし

「生徒たちに質問したいことを書いてもらいました」と大量のカードを渡されたのだが、その字の上手さに驚いた。ぼくの字よりよっぽどきれいだ。

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生徒たちが書いた質問カード。日本語の授業では、「ひろし」「えみ」など日本語名が割り当てられるそうだ

また、通訳してくれた生徒に見せてもらったノートにも驚かされた。ぼくのブログや記事を教材にしてくれていて、わからない単語をひとつひとつノートに書き出して、意味を調べていた。ひたむきな努力が伝わってきて、胸を打たれた。

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真剣に日本語を学ぶ様子に感動。字もきれいだ

後日談がある。このノートを見せてくれたスーナイ・チェンさんが、ぼくが高雄を訪れた翌月、日本に遊びに来るというので、横須賀市の実家に招待した。

彼女は「欅坂46」のファンで、横須賀に来る前日は千葉でのライブを楽しんだ。日本が大好きで、「大学生になったら1年間留学したい」と話していた。時給約400円のアルバイトで懸命にお金をためて、日本に来た。素晴らしい行動力だ。

彼女を回転寿司に連れて行ったときのことが印象深い。割り箸を渡そうとしたら、「大丈夫です」とバッグからマイ箸を取り出した。「これもありますよ」と見せてくれたのは、マイストローだった。金属製のストローを見て、両親も驚いていた。

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マイ箸とマイストローを見せてくれたスーナイ・チェンさん

彼女に限らず、台湾の人々はエコへの意識が高い。今年7月から、台湾ではファストフードチェーンなどでの店内飲食を対象に、使い捨てストローの提供が禁止されている。タピオカ専用の太めのマイストローも販売されているところが、いかにも台湾らしい。

好奇心旺盛なチェンさんの訪問には、両親も良い刺激を受けていた。日本語で会話ができたこともうれしかったようだ。ささやかな日台交流となった。

温泉スタッフの有り難い親切心

高雄から約90キロ南下。海沿いの道を走り、車城に到着した。この旅では最南部の街だ。

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高雄を出て、久しぶりに海と対面。雨の中を走った

ところで台湾は温泉が多いことでも有名で、機会があれば入りたいと思っていた。台湾四大名湯のひとつに数えられる「四重渓温泉」がちょうど車城から数キロ離れたところにあったので、宿の主人に行き方を尋ねると、車で送ってくれるという。

ご厚意に甘えて宿泊客以外も温泉が使えるホテル「四重渓牡丹風情温泉行館」に着いたのだが、送迎車を見送りながら、うっかり部屋に水着を置いてきてしまったことに気付いた。台湾の温泉は、日本と同様に裸で入る男女別の温泉もあるが、ほとんどは男女混合の温泉で、水着着用が原則となっている。こういう日のためにせっかく水着を持ってきたのに、何ということだ……。

宿まで取りに戻る気力もなかったのであきらめて売店で水着を買おうとした。ところがフロントにいたスタッフに事情を話すと、「お気の毒に」という表情を浮かべ、なんと新しい水着をプレゼントしてくれたのだ! ありがたい、実に「有り難い」ことだ。

台湾一周自転車旅「環島」 高校から突然招待、温泉のグッとくる人情 (3)台南~車城

「四重渓牡丹風情温泉行館」の温泉。水着だけでなく、キャップの着用も必要だった

温泉は気持ち良く、疲れた身体を癒やしてくれた。しかしこの地でより印象深い記憶として残っているのは、このスタッフの人情である。そして翌日から始まる旅の後半戦でも、同様の温かさがぼくを待ち受けていた。

(つづく)

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PROFILE

中村洋太

1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年1月よりフリーランスのライターとして活動。これまでに自転車で世界1万キロ以上を旅しており、西日本一周(2009)、西ヨーロッパ12カ国一周(2010)、アメリカ西海岸縦断(2017)、台湾一周(2017)のほか、徒歩で東京から大阪へ「東海道五十三次600kmの旅」(2017)も。

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