楽園ビーチ探訪

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

クアラルンプールから車で約2時間。マレー半島の南西部に位置する世界文化遺産の港町マラッカ。マレーシア発祥の地とされる古都で、あちこちに歩んできた歴史を見ることができます。天然の良港マラッカは東西貿易の拠点として、15世紀の建国後、ポルトガルやオランダ、イギリスなどの支配下に置かれてきました。そのため西欧文化の影響が見えますが、なんといってもこの街を特徴づけているのは、「プラナカン」文化でしょう。

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

プラナカン文化とは?

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

みごとな化粧しっくいに目を奪われる旧市街。東洋と西洋が美しく混ざり合っています

プラナカンとは、マレー語で「ここで生まれた子」という意味。15世紀ごろから新天地を求めて中国のおもに南部の福建省から移民してきた中国人男性と、現地のマレー人やパタック人の女性が結ばれて、生まれた子供たちを指します。

中国人男性たちは、商売の才覚を表して瞬く間に財を築きました。そして、その子女たちは中国とマレーをミックスしつつ時代を先取りするセンスを取り入れた、華麗なるセレブリティー文化を育んでいったのです。そんないわゆる二世以降の男性を「ババ」、女性を「ニョニャ」と呼び、プラナカン文化は「ババ・ニョニャ文化」とも称されます。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

ヒストリカルホテル「マジェスティック・マラッカ」のスパではプラナカンの女性が嫁入り前に行う儀式をモチーフにしたトリートメントも

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

これは労働者層のために作られたという名物のチキンライス。仕事中に食べやすいよう、この形に

華やかな文化の陰に

建築から装飾、食にいたるまで、手間ひまをたっぷりかけ、緻密(ちみつ)に美しく、重厚感を漂わせつつも愛らしさが香ります。

旧市街の目抜き通り、ジョンカーストリート(ハン・ジェバット通り)を歩けば、色とりどりの化粧しっくいの壁に両開きのフレンチウインドー、アクセントに漢字の看板が入ったりする2階建ての家並みが続きます。これはショップハウスと呼ばれる家屋で、1階を店舗、2階を住居として使い、細長くのびた建物の中ほどに中庭が設けられています。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

中庭に面したショップハウスの1階。中国風の家具にシャンデリアなど、こちらでも東洋と西洋のミックスが

ババ・ニョニャ・ヘリテージ博物館へ行くと、当時の豪華絢爛(けんらん)な暮らしぶりがうかがえます。螺鈿(らでん)細工のどっしりとした家具にピンクやペパーミントグリーンのカラフルな磁器、床のタイルもかわいらしい。再現された女性の部屋のクローゼットを開くと、「クバヤ」という刺繡(ししゅう)をふんだんに施したブラウスが何枚も収納されていました。当時の女性はクバヤもイブニングドレスも、すべて自分の身体に合わせたカスタムメイドだったそうです。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

ババ・ニョニャ・ヘリテージ博物館に展示されていた装飾品

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

ビーズ刺繡の靴は、ビーズが小さいほど高い技術を必要とし、お値段も高額に

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

「ワー・アイク・シューメーカー」ではビーズ刺繡の靴の制作風景を見学することができます

女子は、しつけが厳しかったようです。年頃になると外出が許されず、ショップハウスの奥でひたすら料理や刺繡など花嫁修業に励むのだとか。

プラナカンの雑貨のうち、憧れを集めるのが、ビーズ刺繡の靴。1ミリ足らずの小さなビーズを縫い付け、微妙な色のグラデーションを表現するなど、まるで絵画のよう。ビーズの小ささでより高度な技術が求められ、1足作るのに2~3カ月かかることもあるとか。

あるプラナカンの女性の話では、「15歳になった時、最初の花嫁修業としてビーズ刺繡を習いました、根気のいる作業を続けることで、忍耐と正しい行いを学ぶのだと教えられました」。

食に関しても、労を惜しみません

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

「マジェスティック・マラッカ」のラウンジ。アフタヌーンティーにニョニャ菓子バージョンも

ニョニャ料理の特徴はスパイスやココナツなどマレーならではの食材や、シイタケやタケノコなどの中華の食材も使い、中華料理の手法を駆使したもの。ニョニャ菓子の「ババ・チャーリー・ニョニャ・ケーキ」の工房を訪れると、天然の素材で色付けした2色の薄い餅を1枚ずつ交互に重ね、見た目も美しいミルフィーユ状に重ねていました。ぱくりと一口で食べてしまえるお菓子にも、実は努力が詰まっているのです。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

カラフルなニョニャ菓子。天然の食材しか使ってないのに、こんなにも色鮮やか

こうしたプラナカン文化が継承されている家系のお店やレストランを訪れると、先祖代々のモノクロームの集合写真が飾られていたりします。背筋をまっすぐにのばした女性たちの凜とした表情には、強さとエレガントさも感じました。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

プラナカンの血を引くレストランやショップには先祖代々の写真が飾られていることが多いようです

プラナカン文化に彩られた旧市街を見下ろす、セントポールの丘の上。周辺には16~17世紀中盤のポルトガル支配時代の朽ちかけた遺構が点在しています。東洋や西洋、マレー、いろんな文化に洗われ、磨かれたマラッカ。丘から遠くに望む海は、きっと当時から変わらず、街を見守っているのでしょう。

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

1753年のオランダ統治時代に建造されたマラッカキリスト教会。聖堂内のいすは当時のもの

プラナカン文化に彩られた、世界遺産の港町マラッカ

セントポールの丘から、街と海を一望に

PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰りかえすこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

世界遺産・スリランカの城塞都市、ゴールの砦と旧市街を歩く

一覧へ戻る

カリフォルニアのサーフカルチャーを育んだハンティントンビーチ

RECOMMENDおすすめの記事