永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(32)夕日をつかまえたビル 永瀬正敏が撮ったニューヨーク

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。ニューヨーク・ブルックリンで撮った、決定的瞬間をとらえたこの1枚。そのココロとは。

(32)夕日をつかまえたビル 永瀬正敏が撮ったニューヨーク

©Masatoshi Nagase

だいぶ日が暮れてきたな、と思って、ふっと見たら、そこに太陽があった。建設中のビルの四角い空間に、輝く光がすっぽりと。もう少し待てばいい写真が撮れそうだとか、そのうちここに太陽が入ってくるんじゃないかとか、そんな狙いはまったくない、偶然撮れた1枚だった。

<曲線が抱える直線の街 永瀬正敏が撮ったブルックリン>と同じ、ニューヨークはブルックリンのおしゃれなホテルの屋上にある、バーのテラスから撮った。現地の知り合いと2人で撮影のためぶらぶらしていて、一段落して休憩していた時のこと。僕はソーダを飲んでのどを潤していた。

この写真とは別の方角には、マンハッタンの摩天楼がきれいに見えた。バーに居合わせた人たちが何人もそちらへ行って記念撮影をしているのを眺めながら、ふと別の方向をみたら、太陽がおもしろいところから見えた。ビルが建設中で窓ガラスが入っていないからこそ撮れた写真でもある。

こんな偶然があるんだな。この写真を見ていると、ほんとうにそう思う。太陽が沈む寸前で、闇がすぐ迫ってきている。そのせいだろうか、地球は球体なんだと、改めて感じさせる写真でもある。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(31)曲線が抱える直線の街 永瀬正敏が撮ったブルックリン

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(33)バーでぼんやり浮かび上がるふたり 永瀬正敏が撮ったニューヨーカー

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