京都ゆるり休日さんぽ

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

化学物質に頼らないナチュラルワインを京都に広めた立役者である、ワインショップ「エーテルヴァイン」。今回訪ねたのは、そのエーテルヴァインが昨年夏にオープンしたレストラン「DUPREE(デュプリー)」です。そこで出会ったのは、自然の営みを感じ、心を異国へ旅立たせる物語のようなひと時でした。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

ワインの味が土地とつくり手を物語る

「不思議なことに、ワインの印象と生産者の人柄はよく似ています。柔らかく明るい印象のワインのつくり手に会うとイメージ通りのおおらかな人だったり、どっしりとして堅実な印象のワインだったら、職人気質で生真面目な人が造っていたり」

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

日本家屋を改装した店内は、どこの国とも表現できない無国籍な雰囲気

そう話すのは「DUPREE」の店長・佐々木ポールさん。ナチュラルワインが好きで「エーテルヴァイン」に通ううちにオーナーの江上昌伸さんと親交を深め、「DUPREE」のワインのセレクトを担うようになりました。西欧だけでなくチェコやスロベニアまで生産者を訪ねるなか、まずワインの味に出会い、「どんな人が造っているんだろう」と想像しながら生産者に会うと、その印象がぴたりと重なるのだと言います。

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

店長のポールさん。ワインはリストから選んでも、料理や好みに合わせてセレクトしてもらっても

ナチュラルワインの定義はさまざまですが、栽培から醸造工程に至るまで可能な限り農薬や添加物に頼らず、自然の力と野生の微生物の働きでぶどう本来の持ち味を引き出すのが基本です。農薬や添加物を用いないということは、通常の倍以上の労力をかけて畑を手入れし、ぶどう自らの力を引き出せる環境を、ただただ整えるということ。ナチュラルワインの味わいに人柄がにじむのは、見守り続けたその姿勢を映し出しているからなのかもしれません。また、人為的なコントロールをしないことで、生産地の気候や風土を記憶しているような風味に仕上がるというのも興味深いポイント。太陽が降り注ぐような明るさや、独特の湿り気を帯びた余韻など、ワインの印象が異国の風景を思い起こさせてくれるのです。

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

ポールさんが最近好んで選ぶチェコ、イタリア、フランスのワイン。グラス900円~、ボトル4500円~(税別)

「見守ることを選びつづけると、土地の自然やつくり手の人柄そのものが宿った味になる。“共感する”味に出合ってもらえたらと思うんです。豊作の年や有名なワイナリーのものがその人にとって“おいしい”とは限りません。僕は、不作の年やマイナーな生産地のワインの方が好きだったりしますから」と、オーナーの江上さんは語ります。

めぐりゆく自然と命の循環を味わう料理

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

前菜より「自家製猪(いのしし)ロースハムとモッツァレラチーズの味噌漬け」(1200円・税別)

自然に寄り添い造られたワインを伝えるなら、合わせる料理も極力手を加えすぎないものにしたいと考えた江上さん。丹波篠山の猟師から仕入れるジビエや大原の有機野菜など大地に根ざした食材を使い、シンプルに、素材の個性を生かして仕上げます。シェフを務めるのは、江上さんの長年の友人である金子豪さん。料理に食材を合わせるのではなく、「今」の気候や自然の歩みに料理を合わせて作るため、訪れるたびにメニューががらりと変わります。

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

「鹿(しか)肉のカツレツ」(1600円/100g〜・税別)

定番を持たない「DUPREE」の数少ないスペシャリテが「鹿肉のカツレツ」。衣はカリッと中はレアに揚げた鹿肉がかむほどに味わいを増し、リッチな肉汁と野生の香りが記憶に残る一品です。付け合わせにはその時々で旬の野菜を添えて。時期によって肉質が柔らかくなったり、野性味が増したりする変化もそのままに、自然を記憶する味わいの一つとして堪能します。

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

空間デザインは江上さんが手がけた。メニューはおまかせコース(7000円・税別)のほかアラカルトも

「食事は、貴重な命をいただく場。命を受け継ぎ、咀嚼(そしゃく)し、栄養となる……。大げさかもしれませんが、生命の循環に思いを巡らせるような、“おいしい”の向こう側にある物語を少しでも伝えられたら」

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

「生産者が日本を訪ねてきてくれた時、もてなす場所があったら」という江上さんの願いがきっかけでオープン。外観は日本家屋の趣を残しシンプルに

想像することは、人間に託された豊かで尊い能力。1杯のワインに異国の風景を、不作の年に流した涙と汗を、テーブルに運ばれてきた料理に宿る命の終わりと始まりを、想像するだけで食事は壮大な物語を奏で始めます。感覚を開き、ワインと料理に宿る景色に思いをはせれば、のどをうるおし空腹を満たす以上の心満たされる経験に、胸が熱くなることでしょう。

DUPREE
http://www.dupree.jp

BOOK

大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

バックナンバー

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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