クリックディープ旅

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

今回は、タイの国境地帯を巡る、再び「12万円で世界を歩く」タイ編の6回目、最終回です。バンコクからカンボジア国境付近のアランヤプラテートを往復します。

前回『再び「12万円で世界を歩く」タイ編5』はこちら

(文:下川裕治、写真:阿部稔哉)

バンコクからアランヤプラテートへ

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

タイ国境地帯をめぐる旅も最後のコース。カンボジア国境をめざす。約30年前に刊行された『12万円で世界を歩く』。そのなかで紹介しているタイのルートを辿(たど)ってみる旅に出ていた。

約30年前は、バンコクからまず、アランヤプラテートに向かった。カンボジアに侵攻したベトナム軍の撤退を控えた時期だった。そこからイサーンと呼ばれるタイ東北のラオス国境に向かっていった。今回はまずイサーンに向かったため、カンボジア方面が最後になった。バンコクからの距離をみると、いちばん近いカンボジアへの国境がここ。バンコクから乗り合いバンで向かった。

今回の旅のデータ

タイの鉄道は、長距離バス網と比較すると見劣りするが、それなりの路線をもっている。タイの鉄道路線は、5方向に大別できる。チェンマイに向かう路線、タイ東北への路線、南のマレーシア方面への路線、西のミャンマー方面、そして東のカンボジア方面。ミャンマー方面とカンボジア方面は距離も長くなく、各駅停車がとことこと走っている。

今回のカンボジア国境への旅。行きはロットゥーと呼ばれる乗り合いバンを使ったが、帰りは列車でバンコクに戻った。1日2往復のローカル列車が運行している。

長編動画

バンコクへは列車で戻った。新しくできたバーン・クロンルック国境駅を出発してからの1時間の車窓風景を。

短編動画

国境に近い市場にバゲットを使ったカンボジア風サンドイッチの屋台が。味は旅のフォト物語で。

バンコクからアランヤプラテートを往復「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

朝6時にエカマイと呼ばれるバンコクの東ターミナルへ。パタヤやホアヒン、アランヤプラテートなど東方面に向かうバスが発着する。バンコクにはほかに北バスターミナル、南バスターミナルがある。それらは巨大。それに比べると東バスターミナルは小さく、昔ながらの雰囲気。ちょっとほっとします。

Scene02

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

東方面に向かう多くの路線は、移動時間が4、5時間といったところ。そのためか、大型バスではなく、ロットゥーという、この乗り合いバンが多い。効率がいいのだろう。バスターミナルの半分ほどがロットゥーの発着スペースになっていた。アランヤプラテートまで230バーツ、約831円。大型バスより少し高いのが難。

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

アランヤプラテートまで整備された道が続いた。ロットゥーは時速120キロでぐんぐん進む。約30年前、この一帯には、戦乱やベトナムを嫌って逃げてきたカンボジア人を収容する難民キャンプがいくつもあった。難民相手の商売のもめごとも多く、しばしば発砲事件も起きるほどだった。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

ロットゥーは国境の手前まで。そこからこのソンテオという乗り合いトラックに乗り換える。運賃10バーツ、約37円のわずかな距離。なぜ、こんなことをしているのだろう……と首をかしげていると、警官が乗り込んできた。チェックするのはカンボジア人だけ。このチェックのためのソンテオ?

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

カンボジアへの陸路入国は許されている。しかしカンボジア側でビザをとらなくてはならず、その料金が30ドル。カンボジア側で必ず1泊以上しなくてはいけない条件もある。今回は越境をあきらめた。そんな僕らを尻目に、カンボジア人は荷車や小型トラックに荷物をたくさん積んで、タイにやってくる。その理由は次の写真で。

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

国境に隣接するように巨大な中古品マーケットがあった。ジーンズ、靴、Tシャツ。すべて中古だが、そのほとんどがブランド物。偽物も多いようで、見る目があればお宝マーケットなのだが、見る目がない僕にはただの中古品マーケット。その品がカンボジアから運び込まれる。どこからもってくるのか……それは謎。

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

フランスの植民地だったカンボジアには、バゲットのサンドイッチがある。しかし具はカンボジア風でしょうゆ味。その屋台がタイ側に。ひとつ50バーツ、約185円。食べてみた。カンボジアで食べるそれより、さらに“アジアの味”が濃い。しょうゆのほかに入れる調味料がタイ風なのだろうか。まずくはないが。つくる様子は短編動画で。

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

これからこの国境はもっとにぎやかになる……そう読んでいるのか、新しい店も次々にオープン。そんななか、開店初日、僕らがはじめての客というカフェに入った。メニューは多いが、いまできるのは普通のコーヒーとカフェラテだけという準備不足開店。写真も撮られた。いまごろ、店には僕らの写真が掲げられているかも。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

国境ぎりぎりのところに、バーン・クロンルック国境駅ができていた。今年7月の開業。カンボジアとタイを結ぶ国際列車の運行に備えた駅だ。この駅で出入国審査が行われるという。しかし、カンボジア側の線路の整備も終わっているというのに、国際列車は走らない。なぜ? 現地のうわさはシーン10で。

Scene10

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

カンボジアには膨大な中国資本が流れ込んでいる。街には中国語の看板があふれている。しかし鉄道整備は、アメリカ主導の世界銀行の融資。米中対立を想起してか「国際列車の運行を遅らせているのは、中国では?」といううわさが国境ではしきり。いずれにせよ、約30年前、東西冷戦と内戦で閉じられていた国境は、その後、開放された。しかし国際列車はまだ走っていない。この国境駅では、バンコクとの間を結ぶ便だけが運行していた。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

バーン・クロンルック国境駅からバンコクに向かう列車は1日2本。乗客の半分ほどは、タイで働いているカンボジア人だ。工事現場や農場で働く人が多い。月給は200ドル程度だという。この列車はカフェスタイルの車両が接続されていた。タイではかなり鉄道に乗ったが、これははじめて見た。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

タイの各駅停車には、次々に物売りが乗り込んでくる。この女性はココナツ。籠に入れられたココナツは冷えていて、そこにストローを入れて飲み、実の内側を食べる。1個15バーツ、売り切れるとすぐに冷えたココナツを補充。どこからもってくるのかと思うと車掌室でした。無料で車掌室を使うことができる? 車掌にいくらか渡している?

Scene13

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

列車はしだいにバンコクに近づいていく。日が西に傾く頃、不穏な雲が空を覆っていた。バンコク周辺は雨期も終わりに近づいていた。この時期、ときおり激しい雨が降る。しかしタイの雨は局地的。大雨が降る500メートル先の土は乾いてる……そんなことも珍しくない。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

列車はバンコク市内に入った。線路ぎりぎりまで家が迫ってくる。そのほとんどが不法占拠だといわれている。そんな人々向けの雑貨屋も線路脇。住人たちは、脇を走る列車などなにも気にしないといった様子。ときどき見える家のなかでは、子供たちがテレビを見ながら夕食を食べていた。

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

列車がフアランポーンと呼ばれるバンコク中央駅に到着した。午後7時40分。定刻だった。タイの国境をめぐる旅は終わった。かかった費用は6万3847円。約30年前の半額ほど。LCCの安さもあるが、タイの交通網が発達し、かかった日数が大幅に短くなったことが大きい。ホテル代が浮いたわけだ。

【次号予告】次回からカナダの北極圏の旅がはじまります。

前回『再び「12万円で世界を歩く」タイ編5』はこちら

※取材期間:2019年9月1日
※価格等はすべて取材時のものです。

■再び「12万円で世界を歩く」バックナンバーはこちら

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

■「玄奘三蔵の旅」バックナンバーはこちら

BOOK

再び「12万円で世界を歩く」タイ編6

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」タイ編5

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