台湾一周自転車旅

台湾一周自転車旅「環島」 もっとも過酷な道の先にいくつもの予想外な出来事 (4)車城~関山

「環島」をご存じですか? 台湾をぐるり一周する旅のことです。とりわけ近年人気の自転車による環島に、ライターの中村洋太さんが挑んだ連載「台湾一周自転車旅」。第4回は車城から関山まで。思わぬ誤算でハードな長旅の末に着いた台東では再び台湾の優しさに遭遇、関山までの道のりでは意外な人と再会することに。

【台湾一周自転車旅「環島」 高校から突然招待、温泉のグッとくる人情 (3)台南~車城】からつづく

漢字を読めるから旅の楽しさが増す

午前中しか営業しない朝食専門店を台湾でよく見かけて、面白い文化だなと思った。店の目印は、朝食を意味する「早餐」という文字。11時前後にはもう閉店してしまう。

台湾一周自転車旅「環島」 もっとも過酷な道の先にいくつもの予想外な出来事 (4)車城~関山

車城の早餐店。ひっきりなしにお客さんがやってきた

車城の宿の近くにも見つけたので、地元の人に交ざってフィッシュバーガーを食べた。飲み物付きで70元(約260円)。登校前の学生たちも買いにやってきていた。

ぼくが早餐店を利用したのはここが初めてではなく、台中や高雄でも訪れた。売っているものは店によって異なり、台中では「葱餅(ツォンピン)」というローカルフード、高雄ではサンドイッチをほお張った。

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高雄で訪ねたサンドイッチの早餐店

お店は、午後になると買い出しなどをするのかもしれないが、ずっと営業しているよりは時間を自由に使え、良い働き方ではないかと感じた。個人的には、日本でもこのようなタイプのお店が増えてほしい。

食事に関する漢字で、他にもよく見かけるものがあった。「素食」と書かれていたら、肉や魚を一切使わない、菜食主義者のためのお店。

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街で見かけた「素食」のお店。高雄の高校に呼んでくれた先生も菜食主義者だった

宗教上の理由や、動物保護の観点から肉や魚を食べない人が台湾には多く存在する。「素食」のお店を何度か訪ねたが、よくも野菜だけでこんなに多彩なメニューが生まれるものだと感嘆した。

「自助餐」はビュッフェ形式で好きなように料理を取れるお店で、テイクアウトすることもできる。スーパーや弁当店の総菜コーナーをイメージするといいかもしれない。

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「自助餐」は地元の人にとっての大衆食堂のようなお店。値段も安い

食に限らず、ひんぱんに登場する単語を少し覚えるだけでも、台湾旅行は一段と楽しいものになる。だが、そんな予備知識がなくても、漢字で書かれているために意味をある程度想像できることは、台湾での大きな利点となる。「日本人で良かった」と、この旅で何度思ったことだろう。

過酷な長旅の末に待ち受けていたもの

台湾一周自転車旅「環島」 もっとも過酷な道の先にいくつもの予想外な出来事 (4)車城~関山

台東まで82キロの表示。峠まで緩やかな登りが長く続いた

車城を出て北へ、前日に通ってきた道を15キロほど引き返した。そこから西海岸と東海岸を結ぶ9号線に入り、しばらく東に向かって走ると、上り坂が始まった。ここまでほとんど平坦(へいたん)な道を走ってきたから、なかなかこたえた。とはいえ、日本の箱根ほどではない。ギアを軽くし、焦らずゆっくりと、確実に上っていった。

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峠で記念撮影。この旅の大きな山場を越えた

ようやく峠にたどり着き、ひと休みしていた別のサイクリストに記念写真を撮ってもらった。彼は香港出身のアングスさん。友人と2人で環島にチャレンジ中だが、その友人は上り坂で随分遅れていて、長い間ここで待っているのだという。そういえば1人のサイクリストを途中で抜いた。きっとあの人のことだろう。

雑談していると彼に「バナナ食べるか?」と聞かれた。余っているのかな、と思い素直に「うん」と答えたのだが、余っていたのではなかった。目の前にあったフルーツの屋台でバナナを買ってくれた。

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バナナを買ってくれたアングスさん

台湾という土地は、訪問客までも親切な人間に変えてしまうのだろうか。それともアングスさんがもともと親切な人なのだろうか。しばらく話しながら考えていたが、答えは出ないし待ち人もやってこない。

彼にお礼を言って別れ、山道を一気に駆け下りた。風が爽快。この快感を味わうために、必死に山を上ってきたのだ。目の前に広がった東海岸の海の色は、西海岸よりずっときれいで驚いた。ぼくの好きなカリフォルニアの海岸線を思い出す景色だった。

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曇ってはいたが、海は写真で見るよりもはるかに美しかった

あとは60キロ北上すれば台東に着く。ひたすら海沿いだから余裕だろう、と予想していたのだが、これが誤算だった。大型トラックが行き交うこの道はアップダウンが激しく、おまけに道路工事中でところどころで片側車線となり、何度も勢いを止められた。

なんとか台東まで20キロ地点の街に着いた頃には、日が暮れ始め、疲労もピークにきていた。このタイミングで、突然の豪雨に襲われた。もう踏んだり蹴ったりだ。この日は環島の中で最もハードな一日となった。

しかし、その疲れを吹き飛ばす出来事が、最後の最後で起きた。

台東市の中心部まで残り5キロ。あまりの空腹でなかなか前に進まない。そんな折、小さな屋台を見つけた。

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ここでも「漢字が読めてよかった」と思った

高校生くらいの若い店員に、「ニラまんじゅうひとつください」と言うと、なぜか二つくれた。

「注文したのはひとつだよ?」

「おまけ」

「おお、謝謝~!」

また台湾の優しさに遭遇し、元気が出てきた。だが今回はそれで終わりではなかった。感動しながらペロリと平らげ、「よし出発だ!」とこぎ出そうとすると、またお店の子がやってきて、紙袋を手渡された。

「プレゼント フォー ユー! ファイティン(頑張って)!」

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屋台の子たち。あまりの優しさに感動した

さらに三つのまんじゅうが入っていた。ひとつ36円くらいのものだ。だが、今この瞬間の幸福感は、いくらお金を出しても買えないだろう。なぜこんなにも、台湾の人々は温かいのだろうか。台東の街の明かりが、暗闇ににじんでいた。

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台東の宿で同部屋だった70歳過ぎの日本人男性も「環島」にチャレンジ中だった

離れた地での再会

旅は10日目。台東から玉里を目指した。谷間の道だったが、地図でルートを確認して、ラッキーだと思った。鉄道の路線が常にすぐ近くを通っていたからだ。

それがなぜ幸運なのか。初回の記事でも書いたが、自転車旅にトラブルやハプニングは付き物で、全てが計画通り行くとは限らない。ただしゴールの日は決めてあるから、途中で何かが起きても、つじつまを合わせたい。そのために様々なシミュレーションをする。

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街を離れると緑が多く、気持ちの良いコースだった

実はこの日も雲行きが怪しく、雨が降ってもおかしくない天気だった。「もし強く降ってきたら無理をせず休もう」と考えていた。前日の豪雨があまりにもつらい記憶として残っていて、もうこりごりだった。ただ、雨がやんで走行を再開できればベストだが、夜まで降り続ける可能性もある。その最悪の場合を想定した時に、「近くの駅から電車に乗って玉里まで行ける」という切り札を持てた。「ラッキー」とは、そういう意味である。

台東から玉里までの間には、鹿野、関山、池上、富里といった駅が10〜15キロ間隔で存在するため、天候を見ながら駅から駅へと走って行った。安心感を持てると、こぐ足にも力が入った。

お昼に鹿野ですしを食べた。店主は台湾の方だが、なかなかうまい。

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握り8貫にみそ汁がついて175元(約665円)だった

さらに16キロ先の関山まで走った。駅近くのセブンイレブンを通り過ぎた瞬間、「ヨータ!」という声が聞こえた。見覚えのある顔があり、慌てて引き戻した。

「アングスじゃないか! ひとり?」

「ああ、相方を待っているんだ」

「またか(笑)」

「私は昨日、台東まで着かなかったよ。手前の街で泊まった。あの雨の中、よく走ったな!」

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いつも相方が不在なので、彼もほとんどひとり旅なのではないだろうか……

峠で会った彼と、120キロも離れたこの場所で再会するなんて、旅はなんと面白いのだろう。だが、「2度あることは3度ある」というように、不思議な偶然はまだ続くのである。

(つづく)

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PROFILE

中村洋太

1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年1月よりフリーランスのライターとして活動。これまでに自転車で世界1万キロ以上を旅しており、西日本一周(2009)、西ヨーロッパ12カ国一周(2010)、アメリカ西海岸縦断(2017)、台湾一周(2017)のほか、徒歩で東京から大阪へ「東海道五十三次600kmの旅」(2017)も。

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