永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

バーでぼんやり浮かび上がるふたり 永瀬正敏が撮ったニューヨーカー

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はニューヨークのディープなバーで撮った、奥にいるふたり。永瀬さんがカメラを向けたわけは?

バーでぼんやり浮かび上がるふたり 永瀬正敏が撮ったニューヨーカー

©Masatoshi Nagase

ニューヨークに住む友達が行きつけにしている、地元の人が集まる小さなバーで撮った。「おもしろいバーがあるから」と連れていってくれたのだ。照明が全部赤いことには驚いたけれど、淫靡(いんび)な感じはまったくない。仕事が終わって一杯飲みに来る、出版やファッション関係の人が多い店だときいた。

赤ばかりの照明の中で、カウンターの奥に座ったおふたりがぼんやりと浮かび上がっていた。一緒にのぞき込んでいたスマホの光があたっていたため、そこだけ明るく見えたのだ。すごくいい照明があたっているなと感じて、カメラを向けた。

僕が一番仲良くなったのは、ここで何十年もセキュリティー(警備員)をしている人。連れていってくれた友人の友達で、すごくいい人だった。この店は人気があるのか店内は満席で、僕も立ったまま飲んでいた。店外で飲んでいる人も結構いて、通行人とのトラブルを避けるためにも、セキュリティーがいるのだろう。

店で飲んでいる人たちは、知らない人同士かもしれない。でも、常連さんが多いのか、人と人との距離が密に感じられる、すごくポジティブな空間だった。こういう場所に身を置いていると、自分の心も開かれていく気がする。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(32)夕日をつかまえたビル 永瀬正敏が撮ったニューヨーク

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