葬儀に2万人が参列! ベートーヴェン生誕250年を前にウィーンゆかりの地をめぐる(2)
文: 相原恭子(文・写真)
ツアーの行き先としてはあまりメジャーではないけれど、足を運べばとりこになってしまう。そんなヨーロッパの街を、ヨーロッパを知り尽くした作家・写真家の相原恭子さんが訪ねる連載「魅せられて 必見のヨーロッパ」。作曲家ベートーヴェンが2020年に生誕250年を迎えるのに先立ち、彼が活躍したウィーンで足跡をたどるシリーズの2回目。臨終の家を訪ねたところ、思わぬ事実がわかりました。
<意外に小顔!なベートーヴェン 生誕250年を前に、ウィーンでゆかりの地をめぐる(1)>から続く
ベートーヴェン臨終の家、訪ねてみたら
前回とりあげた、ベートーヴェンが暮らした「パスクヴァラアティハウス」から、臨終の家「シュヴァルツシュパーニアハウス」へ向かいました。歩いて13~15分です。

シュヴァルツシュパーニアハウス。堂々とした建物です
事務所、カフェ、ショップや住居が入っていますが、建物自体が観光地として公開されている場所ではありません。アポイントはありませんが、状況を聞きたくて、1階にある書籍やCDなどを扱う「SÜDWIND」へ飛び込み取材。嫌がられるかと思いきや、レジにいらしたルーディ・リンドルファー氏がとても親切に対応してくれました。こうした時に深い話を聞ける場合があり、それが取材の楽しみでもあります。

1階の外壁

「SÜDWIND」に勤務するルーディ・リンドルファー氏
「当時ベートーヴェンが住んでいた建物は、破損がひどかったようで1903年に取り壊されました。ベートーヴェンの足跡を残そうと取り壊しには多くの反対がありましたが、保存はかなわず、今の建物は1904年に再建されたものです」と、この建物に住んでいたこともあるというリンドルファー氏。取り壊される前の建物の写真を出してきてくれました。

ベートーヴェン時代(取り壊す前)のシュヴァルツシュパーニアハウスの写真

取り壊す前のシュヴァルツシュパーニアハウスのベートーヴェンの仕事部屋
ここにベートーヴェンは1825年10月中旬から1827年3月26日に亡くなるまで暮らしました。
リンドルファー氏は「向い側にもベートーヴェンは仕事部屋を持っていました。彼は生前から大音楽家ですからね」と、道路へ出て説明してくれました。

ベートーヴェンが仕事場にしていたという道路を隔てた向かいの場所
この建物も再建されています。建物前の道路は車の往来が思いのほか激しく、両側にも車が停まっていて落ち着いて写真を撮れないほどです。

再建されたシュヴァルツシュパーニアハウスの外壁に、ベートーヴェンのレリーフ
ここの住所がシュヴァルツシュパーニア通りで、建物がシュヴァルツシュパーニアハウスと呼ばれるのは、元々は黒い衣を着たベネディクト会修道士ゆかりの修道院であったためです。シュヴァルツシュパーニアとは、直訳すると「黒いスペイン人」という意味です。彼らは<巨岩のはざまに黒いマリア像の修道院>で紹介したスペイン・モンセラット出身の修道士たちでした。「予期せぬところで、見聞がつながるとは」、うれしい驚きです。リンドルファー氏によれば、オーストリアを治めたハプスブルク家が16~17世紀にスペインも統治したことが関係しているようです。

ベートーヴェンの葬儀が行われた三位一体教会(アルザー教会)
シュヴァルツシュパーニアハウスから、ベートーヴェンの葬儀が行われた三位一体教会(アルザー教会)へ歩きました。

三位一体教会外壁のベートーヴェンの葬儀についての銘板
1827年3月29日、寒い日にもかかわらずベートーヴェンの棺はシュヴァルツシュパーニアハウスから、多くの芸術家たちや友人たち、8人の宮廷音楽家に取り巻かれて、約2万人の人々が参列して三位一体教会へ運ばれました。500メートルほどの道のりを1時間半かけて移動するという大がかりな葬送でした。

ベートーヴェンのデスマスク(1827年)。ジョーゼフ・フランツ・ダンハウザー作
前回掲載のライフマスク(1812年)の15年後のデスマスクです。シャッターを切ろうとすると、何だかゾクッとするようなオーラを感じました。

フランツ・シュテーバーが描いた葬儀の様子。(複製。ハイリゲンシュタットの「ベートーヴェン・ミュージアム」の展示より)

現在は絵画に描かれている広場はなく、建物がたっています
描かれた葬儀の様子からも、ベートーヴェンが生前から名声を博し、貴族や音楽家だけでなく広い層から注目された大人物であったことがわかります。
次回は、「ベートーヴェン・ミュージアム」(ハイリゲンシュタットの遺書を書いた家)とその周辺を訪ねます。
ウィーン市観光局
https://www.wien.info
オーストリア航空
https://www.austrian.com/
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