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世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

ベルギー・フランダース地方とオランダの食とアートを巡る旅にこの夏出かけた&TRAVEL副編集長。減量中にもかかわらず美食ざんまいを繰り返してリバウンドを覚悟したベルギーを後にしてオランダへ。ロッテルダムへ向かう途中、チーズ農場や野菜が名物のホテル、おまけに酒の博物館と、うまいものの誘惑はとめどなく続きます。

(文・写真:&TRAVEL副編集長・星野学、トップ写真は「世界一の高さ」を称する風車群のひとつ、その名もクジラ)

<フグ、ここにいたのか! フレンチフライの源流は ベルギー・オランダ紀行(3) ブリュッセル>
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3000個のチーズがずらり

暑い! ヨーロッパに熱波が到来して、気温はぐんぐん上がっています。取材先とあいさつを交わす際、「heatwave(熱波)」という言葉を交ぜるのがお約束のようになりました。6月24日午後2時すぎ、気温32度のブリュッセルを車で出発して約2時間。畑の中、ところどころに風車が立つ、オランダらしい風景になってきました。

オランダの代表的食材のひとつに、ゴーダチーズがあります。ワインのアテにもばっちりなスグレものです。そんなオランダ名物を300年以上家族経営で作り続ける由緒ある農場「Booij Kaasmakers」(ボーイ・チーズ工房)を、ロッテルダム近郊の町・ストレーフケルクに訪ねました。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

田園風景の中にたたずむ「ボーイ・チーズ工房」

オーナーのマライケ・ボーイさんの案内で、まず工場見学です。汚染防止のため靴に袋をかぶせて出発!

この工場では、牛とヤギの乳を用いてチーズを作っています。400メートル離れた隣の牧場で朝とれた乳を30度に温め、スターターと呼ばれる微生物とレンネット(酵素剤)を入れてかきまぜると発酵が始まり、やがてカードと呼ばれる凝固物ができます。匂いを柔らかくするためにカードを洗い、成型してカビ防止のため塩水につけます。マライケさんが機械でリフトを持ち上げると、塩水の中から車輪のようなチーズがいくつも現れました。

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塩水につけられているチーズ。マライケさんが靴に巻いている青いものは、汚染防止用のシート

熟成庫を見せてもらいました。見渡す限り、チーズ、チーズ! 3000個以上のチーズが置かれています。

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熟成中のチーズがずらり

ここで短いものは6週間、長いものは2年間熟成させます。「持ってみますか?」とマライケさんに促され、直径35センチ、高さ12センチ、重さ12キロの標準サイズを抱えてみます。「お、重い!」。腰にぐっと重みがきて、思わずひざががっくり曲がります。

ひととおり見学した後は、併設の販売店で試食会。牛乳を使って2カ月間熟成させたものをまず……。うまい! もっちりしてます。白ワインが手元にないのが悲しい。ヤギの乳を使いハーブを混ぜた「フェヌグリーク」はスパイシー。これに合わせるワインは……といろいろ想像したくなる味わいです。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

左から「フェネグリーク」(キロあたり12.4ユーロ)、「野生ニンニク味」(同)、「1年熟成」(キロあたり15.65ユーロ)

2012年に家業を継いだというマライケさん。「両親はいいチーズ生産者ですが、市場のことはあまりよくわからなかった。私はチーズ生産者としての経験はこれからですが、大学でマーケティングを学び実践してきました。伝統に新しい強みを加えていきたいと思います」と思いを語っていました。

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城の塔? いえ、給水塔をリノベしたホテルです

チーズ尽くしのあとは、当夜の宿泊先、ロッテルダム近郊のドルドレヒトにあるデザインホテル「Villa Augustus」(ヴィラ・アウグストゥス)へ向かいます。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

「Villa Augustus」のシンボル、旧給水塔。花壇や畑に囲まれている

えっ、お城の塔?と思わせるこの建物は、1882年に完成した旧給水塔で、改装されホテルになっています。給水塔に20室、庭に面した建物に17室、船のように水に浮いた部屋が8室の、計45室です。私は庭に面した部屋でした。

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筆者が泊まった庭に面した棟

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筆者が泊まった部屋。素朴な調度品とパステル調の色彩が新鮮

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「フローティングルーム」と呼ばれる水に浮いた宿泊施設

夕飯は、敷地内で栽培した野菜や果物を素材にした料理がウリのレストランへ。野菜メニューをいただくべきなのでしょうが、なぜかこの日は気が向かず、ブイヤベースを注文しました。オランダに来て南仏料理もないだろう……と悩みつつ、ベルギーで美食ざんまいだった反省から、魚介料理なら糖質は少ないだろうと考えたのですが、運ばれてきたらイモがたっぷりという見通しの甘さ。もちろん、おいしかったですが。

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デザインセンスを生かした造りのレストラン

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レストランで夕飯にいただいたブイヤベース

自慢の野菜は、翌6月25日の朝食でたっぷりいただきました。炒めたもの、ピクルス風と、バラエティある野菜メニューだけでおなかいっぱいに。

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朝食は野菜がたっぷり

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ハンディ抱えた人が働くケアファーム

チーズ工場、野菜が名物の宿と回って、次なる訪問地は農園です。ドルドレヒトのホテルから車で約30分、ロッテルダム近郊のローンにある「De Buytenhof」(デ・バイテンホフ)を訪ねました。知的や精神的にハンディを抱える人たちが、安心して土と触れ合い社会参加できるケアファームとしても知られています。農業と福祉の連携で先進国と言われるオランダらしい施設です。

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農園「De Buytenhof」の入り口近くにある産品の販売店

オーナーのウィアルド・フィッサーさんは、まだ33歳の若手。2008年からここで仕事をしています。曽祖父の代からここで農園を続け、現在は両親と共同経営をしています。以前は通常の農園でしたが、2000年に祖父が引退する際、「同じスタイルで続けても先は見えている」と経営環境の厳しさを指摘されたことが転機になったそうです。農園を手放すか、新しいことを始めるか――。思案のすえ、選んだのが多機能化の道。ケアファームの役割を持たせ、農産物はスーパーなどに卸すより実入りのいい直販を軸に、農園でとれた作物を使ったカフェを園内に開設、など、今はさまざまなスタイルを組み合わせています。

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農園のオーナー、ウィアルド・フィッサーさん

「ここでは専属の農業者が9人、ハンディキャップを持った方25人が働くほか、約100人のボランティアがこの農園を支えてくれています」とフィッサーさん。彼の案内で、2.5ヘクタールのリンゴ園、4ヘクタールの洋梨園などを見て回ります。「リンゴはオランダ国内向け、洋梨は輸出用です」

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(左)色づき始めたリンゴ(右)露地栽培のイチゴ

夏の太陽の下、広い農園を歩き回りながら、ふと、フィッサーさんにたずねてみました。「多機能化に生き残りをかけたことはわかりました。でも、いろいろ選択肢がある中、ケアファームを選んだのはなぜですか」
一呼吸置いて、フィッサーさんが笑顔で返してきました。「私の妹がダウン症なんです。一緒に暮らしながらハンディを持った人の可能性を知り、彼らと広くかかわっていきたい、と思うようになったのです」

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カフェで出す食事の準備をする人たち

見学後は、園内のカフェでひとやすみ。ラズベリーとイチゴのケーキは、ふんわり優しい味。リンゴと洋梨のジュースは、しぼりたてならではの新鮮な香りと甘さが絶品。減量中であることも忘れ、ぐびぐび飲んでしまいました。

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ラズベリーとイチゴのケーキ

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オランダの伝統的ジン「ジュネバ」 博物館で試飲

農業と福祉のかかわりを考えたあとは、お楽しみの施設へ。農園から車で30分ほどの町スキーダムにある「国立ジュネバ博物館」です。ジュネバとは伝統的な製法で造られたオランダ産のジンのこと。別名「ジュネバの首都」と呼ばれる町スキーダムにある、お酒の試飲ができる博物館とあって、心は弾みます。蒸留酒だから糖質も心配いらない、などと、昼前から飲む言い訳を必死に考えます。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

国立ジュネバ博物館

スタッフのマルコ・スプラウト・ブレイカーさんの案内で、まずは展示を見て回ります。匂いをかげる展示では、アルコール30度でグラッパのような香りのものや、ウィスキーに近い香りの40度のものなど、ひとくちにジュネバといっても、かなり風味に違いがあります。

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種類による香りの違いを確かめられる展示

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ボトルなどの意匠も色とりどりで眺めていて飽きない

蒸留施設にあるタルは一つ7000リットルの容量だそうです。「原料の穀物を発酵させて造ったアルコールを蒸発させ、長さ50メートルの銅管をくぐらせる間に冷却していました」と、ブレイカーさんが説明してくれます。アルコールは60度まで濃縮させ、タルに入れて少なくとも4年寝かせること。独特の香りはジュニパーベリー(西洋ネズの実)を浸してつけること……。

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巨大なタルが並ぶ蒸留施設

「あくまでもオランダ側の言い分ですが」と、ブレイカーさんは前置きして、「イギリスとオランダが貿易で争いジュネバを禁輸にしたため、イギリス人は独自の製法で造るようになり、ジンの産地になったとも言われます」と話していました。

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グラスにジュネバをつぐブレイカーさん

さて、お待ちかねの試飲です。ブレイカーさんが、チューリップ型の専用グラスを用意してくれました。グラスの口が狭まっているので、香りがよくわかります。ストレートで、ぐっと飲みほします。

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試飲した酒。左はジュネバ「オールド・スキーダム」、右はドライジン「ボビーズ」

最初はジュネバ「オールド・スキーダム」40度です。この博物館で伝統的な製法で造っています。ツーンとした香りで目が覚める心地に。口に含むと、ジンに比べてほのかに甘い。すっと飲めてしまう、爽やかな味わいでした。

次いでドライジン「ボビーズ」42度。インドネシア出身の製造者が手がけたもので、ジュニパーベリーに加え、レモングラスやフェンネルなど計8種類のハーブを用いています。香りはジンですが、ハーブティーをも思わせる個性的な風味でした。

「高さ世界一クラス」の風車へ突撃

【動画】風車「デ・ワルフィス」のある風景

博物館から5分ほど歩くと、博物館やミュージアムショップを兼ねた「デ・ワルフィス(くじら)風車」があります。スキーダムに五つある「高さ世界一」を称する風車群(再建されたものも含む)の一つです。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

デ・ワルフィス風車の入り口

私は高所恐怖症なので、そんな場所に行くのは普段なら恐怖でしかないのですが、立て続けに強い酒をあおったおかげで結構な気分になっており、「風車、何するものぞ」と、ドン・キホーテさながらの勇ましさです。

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風車の内部をぐんぐん昇っていく

内部の展示や現役の粉挽き機を横目に、普段なら尻込みするような急勾配の階段もぐいぐい昇っていきます。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

こんな展示も

見晴らしのいいデッキに到着。風に当たって、目の前を旋回する風車の羽根を見たとたん、我に返りました。

世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム 

見晴らしはよかったけれど……

【動画】回転する風車の羽根

「ひえーっ、た、高い……」

ほうほうの体で元来た階段を下り、車に乗り込むと、いよいよオランダ第2の都市、ロッテルダムへ向かいます。
(つづく)

【次回】世界初の水上牧場 欧州一の港町ロッテルダム ベルギー・オランダ紀行(5)

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【取材協力】
オランダ政府観光局/ベルギー・フランダース政府観光局
https://www.hollandflanders.jp/

ベルギー・オランダ紀行

PROFILE

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国内で、海外で。&編集部員が話題の旅先の新たな魅力を「発見」し最新情報をリポートします。

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世界初の水上牧場 欧州一の港町ロッテルダム ベルギー・オランダ紀行(5)

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