カメラと静岡さとがえり

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第4回は、袋井市の法多山(はったさん)尊永寺です。高野山真言宗の別格本山という由緒あるお寺の名物おみくじは、凶と大凶で3割を占めるそうです。縁起でもない……と思いきや、そこには深い理由がありました。(トップ写真は尊永寺本堂)
フォトギャラリーはこちら

高野山真言宗の別格本山

かつて東海道の宿場町だった静岡県袋井市にある法多山尊永寺は、高野山真言宗の別格本山とされている由緒正しいお寺だ。常に参拝者は絶えず、年末年始には多くの人が詰めかける。地元の人々には親しみを込めて「はったさん」と呼ばれている。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

仁王門からの景色。ここからが聖域

参拝は、国の重要文化財に指定されている仁王門をくぐることから始まる。邪悪なものを寄せつけないよう仁王像がにらみをきかせていて、なんだか守られている気分になる。一歩入るとすがすがしい空気が流れ、鳥の声や流れる水の音が聞こえてくる。じゃっじゃっと砂利を踏みしめる音も気持ちがいい。丁寧に手入れされた参道に、緑の木漏れ日がふわふわ揺れる。「来てよかったなぁ」。足を踏み入れた時点で、そう思ってしまう。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

もみじが揺らめく境内

本堂は200段以上ある階段の先に

今は尊永寺として統合されているが、かつては法多山の中に12ものお寺があったそうだ。その名残の「黒門」を過ぎ、参拝後の楽しみにと、だんご茶屋の横を強い意志で通り抜け、200段以上ある階段を登り切ると本堂が姿を現す。空が大きく広がり本堂が参拝客を囲むように広がる。参拝客はみんなはぁはぁ言ってはいるものの、顔はとってもうれしそう。手水(ちょうず)舎の冷たい水が心地よい。心を落ち着かせて常香炉(じょうこうろ)で体を清め、御本尊へお参りを。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

本堂では厄除(やくよけ)祈願を予約なしでお願いできる

季節で変わる御朱印の判、思わず迷うお守り袋

さて、お参りを済ませてからのお楽しみがここにはある。まずは御朱印。季節ごとに押される判が違い、リピートする人も多いそうだ。私が訪れた時は愛らしいポチっとした風鈴の判子だった。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

法多山・尊永寺の御朱印。大きな字の左上に風鈴の印が

そしてお守り。というかお守り袋に、ものすごく所有欲をかき立てられる。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

常時20種類以上ある古代裂御守袋(こだいぎれおまもりぶくろ)

平安時代の女性はお守りを片時も離さず身につけていたそうだ。毎日持つならかわいいほうがいい! 個性が欲しい! 今の携帯電話のケースと同じである。そこで自分好みの布で袋を作りお守りを入れていたそうだ。ここ法多山で手に入る「古代裂御守袋」(300円)は、伝統的な意匠や配色を用いている。中身のお守りを入れ替えて使い続けられる。小さいけれど存在感のあるかわいらしさや遊び心に、どれにしようか迷う人を大勢見かけた。

フォトギャラリーはこちら

おみくじの内容は江戸時代と同じ

そして法多山のおみくじ、これも名物なのである。書かれた内容は江戸時代から変わっていない。吉凶の配合も江戸時代からのままで、凶と大凶で3割を占め、これは他の神社仏閣に比べて多いという。初詣の時は大凶や凶を減らすところもあると聞くが、ここでは変わらない。私がおみくじを引こうとしたら、隣の女の子が「え!? 大凶!」と叫んでいた。江戸時代はちょっとした風邪も命取りになる時代だった。「気をつけなさいよ」という警告の意味を込め、内容を厳しくしたのだそうだ。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

私がひいたおみくじ。大吉だった

吉凶の詳細をしたためた漢詩は、現代人には読解が難しい。現代語訳がついていない理由は? 「私たちに気軽に聞いて欲しいんです。これどういう意味ですかって」と住職の大谷純應(じゅんのう)さんは言う。「忙しそうだからお手をわずらわせたら申し訳ないな、って思っちゃうんですけど」と返すと、「私たちの仕事は参拝者の方の不安や心配事を取り除くこと。おみくじ解説だって大事な仕事です。それにお寺って楽しいところだと思って欲しいんです」と話した。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

参拝者に道案内する住職の大谷純應さん

運勢のアドバイスなるものが記されているそうなので、解説はしっかり聞いておくべし。興味深かったのは道具。今でいうラッキーアイテムだが、なにせ江戸時代の文章なのでかんざし、脇差し、袈裟(けさ)に尺八と予想外なものが書かれているのが面白い。

庭園を眺めながら「ごりやくカフェランチ」

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

「ごりやくカフェランチ」が開かれる一乗庵と日本庭園

大谷さんは31代目の住職で、お寺に気軽に人が集って欲しいと、様々な試みをしている。そのひとつが一乗庵での「ごりやくカフェランチ」だ。通常は非公開の建物だが、土日月の3日間はそこでランチがいただける(1日20食限定)。心を込めて手入れされた日本庭園を眺めながら、手の込んだおかずが少しずつ何種類ものったぜいたくランチが楽しめる。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

たくさんのおかずで目移りしてしまうデザート付きランチ(1600円)

「訪れた皆さんに、『今度これ作ってみようかな』『家族に食べさせたいな』って思ってもらえる献立を考えています」とシェフの北川克美さん。献立は毎週変わる。デパ地下でも人気の総菜会社に勤めていた北川シェフの料理は、国籍を超えてバラエティ豊かだ。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

市場にいって旬の野菜を見てから献立を決めるというシェフの北川さん

フォトギャラリーはこちら

外せぬ名物「厄除団子」

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

「一息ついていってくださいね」。お団子は1皿200円

そして法多山といえば、絶対に外せないのが厄除団子(やくよけだんご)。食べなかったなんて、あってはならないこと(?)なのだと、さきほど素通りしただんご茶屋へ戻る。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

健康を願ってひと串ずつ食べる

発祥は13代将軍徳川家定の頃までさかのぼる。団子にさした5本の串は頭、首、胴体、手、足を意味しており、1本1本をいただく時、健康であるようにと願い、健康であることに感謝するようにいただくのが良いとされている。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

気持ちの良い風が吹き抜ける縁側でおしゃべりは終わらない

ふくふくと柔らかいお団子には、発祥のころから変わらない自家製あんこがたっぷりと。薄紫色のきめ細かなあんこは、スッと口の中で溶けていく。それが団子茶屋では静岡茶と一緒に味わえる。そして多くの人が御利益のおすそわけとしてお土産に買っていく。

うれしい発見続きの「はったさん参り」

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

丁寧に手入れされた境内は写真を撮るのも楽しい

初めから終わりまで、「はったさん」の中で歩みを進めるたびにうれしい発見があって、「あの人に教えてあげよう」「あの人とまた来たい」と思う出来事がたくさん起こる。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

境内にある二葉神社は、赤い鳥居が美しい

これこそが「はったさん」のご利益だと住職が教えてくれた。生きているからこそ感じられる喜びがここにはあって、常日頃の重圧から少し心が軽くなる。そしてそれを誰かと共有し、「おすそわけ」したくなる。「はったさん」は訪れた人たちの心をほっとさせる優しいお寺なのである。

徳川将軍も食べたB級グルメ「たまごふわふわ」

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

「お食事処 山田」の「たまごふわふわ」

そして余談。仁王門に向かう参道にある 「お食事処 山田」では、江戸時代の復刻料理「たまごふわふわ」が味わえる(350円)。袋井宿の宿場でぜいたくな朝食として、将軍や名のある武士、豪商が食べていたそうだ。『東海道中膝栗毛』や豪商の旅行記に記録が残っていたのを袋井市の観光協会がB級グルメとして復活させた。

おみくじ、凶と大凶で3割!のわけは? 愛されるお寺「はったさん」 袋井市

「江戸時代のごちそうを味わいに来てください」と「お食事処 山田」の店主、山田貢司さん

将軍様の食事なのに「ふわふわ」というかわいらしいネーミングに心が和む。かつて割烹(かっぽう)旅館だった山田では江戸時代のレシピを忠実に再現している。B級グルメといえど立派な郷土料理。衝撃的な見た目と優しい味わいをご体感あれ。

フォトギャラリーはこちら

法多山 尊永寺
http://www.hattasan.or.jp/

法多山名物だんご企業組合
http://www.hattasan-dango.com/

お食事処 山田
http://www.hattasan-yamada.com/

■バックナンバーはこちら

PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

小ぶりでぷっくり、そしてほろほろ…… 思い出の浜松餃子

一覧へ戻る

古き良き 粋な心意気が息づく熱海

RECOMMENDおすすめの記事