名物クラムチャウダーを食べ、茶会事件を追体験。ボストンを拠点にぶらり旅#01
文: 山田静

京都で旅館の運営をしながら、旅行ライターとして著書も多数出している山田静さんによる連載「ちょっと冒険ひとり旅」。今回からアメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストンに拠点を置いたぶらり旅が始まります。
ボストンを拠点に東海岸を歩く
2016年秋、所用でニューヨークに行ったあと、数日間の休暇が残っていたのでひとりボストンに向かった。お目当ては前に行ったとき食べ損ねた、ボストン名物クラムチャウダーである。前回といっても10年以上前の話なのだが、その無念がいまだに忘れられないのだから、旅では「おいしそうなものはその場で食べ、欲しいものはその場で買う」が鉄則である。
さて、目的がクラムチャウダーだけだとすると、1時間もあれば用は済んでしまう。これを機会にアメリカ東海岸を巡ってもいいのだが、今回はボストンに5日間滞在し、ここを拠点に周辺の町を歩くことにした。
狭いエリアを旅するときは、こんな風に1カ所に滞在し周辺の町を訪れるスタイルもおすすめだ。拠点の町で暮らしているような気分も味わえるし、荷物は宿に置きっぱなしなので体力的にも楽。宿によっては、連泊割引価格の設定もある。

赤レンガが多いせいかなんとなく東京の丸の内を思い出す、ボストンの街並み

パブリックアートもあちこちで見かける

ボストンにもある、チャイナタウン。中国料理以外にも、アジア系エスニック料理の店が立ち並ぶ
まずはボストンの街歩き。見どころが多い素敵な町だが、なかでも気に入ったスポットを二つ、紹介しよう。
ボストン茶会事件を追体験
「もう我慢ならん! 我々は立ち上がるべきだ!」
「そうよ! 子どものミルク代も払えないのよ!」
18世紀の衣装に身を包んだガイドが、イギリスの圧政がいかに市民を苦しめているかを熱く語り、博物館の来館者たちは入場時に渡された羽根飾りを振り上げ、一斉に怒りの声を上げ(させられ)る。
「君はどう思うんだ? ジョン!」
名指しされた「ジョン」は立ち上がって、重税による生活の苦しさを訴える。ちなみにこの「ジョン」も来館者。「ジョン」というのは、入場時に羽根飾りと一緒に全員に手渡されるカードに書かれた名前だ。実在の人物で、プロフィルも記されている。
私は「ウィリアム・ピアス」、1744年12月25日生まれ、マーシャル通りで床屋を営む男だ。ガイドに名指しされた客は立ち上がって意見を言わないといけないので、英語に自信がない自分はドキドキである。

博物館の隣に、事件の舞台を再現した船が横付けされている。これも見学コースの一部

ガイドツアーに参加すると、まず全員が着席し、イギリスの非道を訴えるスピーチを聞き、自分たちも渡された名刺に従って役を演じることになる。全員楽しそう
世界史の教科書に必ず出てくる「ボストン茶会事件」。1773年、イギリス政府に反発した市民が東インド会社の船に乗り込み茶箱を海に投げ込んだ、という事件だ。
この事件をきっかけにしたアメリカ独立への道のりを紹介するのが「ボストン茶会事件の船と博物館(Boston Tea Party Ships and Museum)」。来館者はガイドツアーに参加し、時にはガイドが臨場感たっぷりに演じる再現ドラマの登場人物として、近代アメリカ史を追体験する。クライマックスは、博物館に横付けされた船から茶箱を海に投げ込むアトラクションだ。
「イギリスをやっつけろー!」
ガイドにあおられながら茶箱を海に放り込むと、特にイギリスに恨みはないがなんだかスッキリ。来館者もみんなノリノリで、さすがディズニーランド発祥の国、などと感心したくなる、愉快な体験型博物館だ。

「イギリスを許すなー! 茶箱を投げ込めー!」

茶箱を威勢よく投げ込む来館者。投げ終わると、茶箱はロープでするすると引き上げられる

「どう? 楽しかった?」。唯一のアジア人(私)を気遣ってくれるガイドのお姉さん

館内には素敵なティールームも併設され、ショップでは「ボストン・ティーパーティー」という紅茶も売られてお土産にもいい
毎日楽しいクインシー・マーケット

クインシー・マーケットは、建物もアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されている
滞在中毎日のように通ったのがクインシー・マーケット。そもそも、ここのクラムチャウダーが食べたくてボストンにやって来たのだ。
1826年開業のこの古いマーケットは、ファッション、雑貨、土産物、レストランなど多様な店が集まり、周辺には野菜市場や露天商なども軒を連ねている。

近くには生鮮食料品のマーケットも。大都会でこんな市場に出会えるとうれしい

こちらがクラムチャウダー。アサリがたっぷり、濃厚な風味がスープ好きにはうれしい

マーケットの中央にある大ホールは、天井が美しい広々した空間
建物周辺ではストリートミュージシャンや大道芸人のパフォーマンス、メインホールではピアノやグリークラブの合唱など、1日じゅう音楽が絶えないのもここが好きな理由のひとつだ。ぶらぶらと歩いているだけであっという間に1時間くらい経ってしまう。
さて次回は、ここボストンから気軽に行ける町に足を伸ばしてみよう。
バックナンバー
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BOOK
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