京都ゆるり休日さんぽ

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

民芸、骨董(こっとう)、京町家、おばんざい。どれも、京都を訪れたら出合いたいモノ・コトの一つです。今回訪ねた「民藝(みんげい)と古い器のカフェ FUDAN(ふだん)」は、それらすべてを楽しめる町家カフェ。二条城近くにオープンしたばかりのこの店は、早くも地元の人々の憩いの場となりつつあります。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

きっかけは一皿の小鹿田焼。暮らしに寄り添ううつわに惹かれて

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

「好日膳」(1200円・税別)選べる主菜におばんざい3種、野菜サラダ、みそ汁、果物が付く。手軽なプレートランチ(950円・税別)も

染め付けの蕎麦(そば)ちょこ、麦の穂のような縦縞模様の“麦藁手(むぎわらで)”の酒器、ふた付きの塗りのお椀(わん)……。さまざまな意匠の民芸や古いうつわが一膳に集う定食「好日膳」が、この店の看板メニュー。うつわの用途やTPOに縛られず、気取らないおばんざいを自由に、楽しく盛り付けるのが「FUDAN」のスタイルです。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

店主の井本さん。介護とWEBデザイナーの仕事を掛け持ちし忙しい日々を送る中、民芸のうつわに出合ったことでカフェの道に

「子どものころから台所に立つことが多くて。料理って毎日のことでしょう? どうせやらなければならないことなら、楽しまな!と思ったんです」

そう話すのは、店主の井本潮(しほ)さん。ルーティン化して時にモチベーションの上がらない炊事を少しでも楽しく、心豊かにと工夫するなかで、小さな豆皿一つにも食卓に彩りを添える力があると実感したといいます。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

コーヒーに使うカップ&ソーサーは島根の湯町窯のもの。好みのデザインを選んで淹(い)れてもらうこともできる

中でも、井本さんがその魅力にとりつかれたのは民芸の世界。FUDANをオープンする前、介護とWEBデザイナーという二つの仕事を掛け持ちしていた忙しさで生活がおざなりになっていたころ、資料探しの合間に目にとまった大分・小鹿田焼(おんたやき)の美しさが井本さんの心に響きました。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

窓際の席は自然光が心地よい。コーヒーは西陣の「自家焙煎(ばいせん)珈琲(コーヒー)ガロ」に作ってもらった「FUDANオリジナルブレンド」(500円・税別)

「素朴で主張がないのに美しくて、追い立てられていた日々から、地に足を付けて歩む私自身の暮らしに戻してくれたような感覚がありました。それから好きな窯元さんを訪ねたり、骨董(こっとう)屋を営む夫から民芸について学んだりするようになって……。料理を通してうつわに出合う、こうしたカフェを開くことになったのは自然な流れのように思います」

控えめに実直に。民芸のようなおおらかさを料理や空間にも

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

ユリの蒔絵(まきえ)が美しい漆器は古いもの。「普段のおみそ汁でも、ふた付きのお椀によそうだけでごちそうになります」と井本さん

サーモンのハーブ焼、もち豚の生姜(しょうが)焼きの2種から選べる主菜に、添えられるおばんざい3種は3日おきに変わります。「ふつうのものばかりなんです」と井本さんは照れ笑いしますが、口にした瞬間の野菜のみずみずしさ、食材の食感や香りが生きた味わいや、箸を運ぶのが楽しくなる献立の多彩さには心満たされるばかり。うつわの表情や盛り付けのアイデアとともに、じっくりと食事の時間を楽しみたくなります。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

レトロな家具や照明が心落ち着く空間。自由に閲覧できる小さな本棚も

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

京町家特有の細長い間取りで奥に坪庭がある。2階の和室ではヨガや瞑想(めいそう)の教室も開催

FUDANの空間は、井本さんが偶然通りかかって気になったという築90年ほどの京町家。うなぎの寝床と称される奥に細長い間取りや躯体(くたい)は残しつつ、風通しよくすっきりとした空間にリノベーションしました。手仕事の花器や椅子敷、陶芸家・河井寛次郎の版画など、空間のあちこちで民芸にふれることができ、各所に生けられた素朴な草花が季節を伝えます。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

素朴でなつかしい味わいのプリンは、レトロなデザートグラスで、漆器をソーサーにして

「カフェや喫茶店って、店主さんの世界観やおもてなしが体現されていて、まるでお茶室のようですよね。私自身、お気に入りのカフェでほんの15分ゆっくりするだけで、どれほどリフレッシュすることか。まだ歩みはじめたばかりですが、少しずつそんな場所にしていけたら」

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

店内には古いうつわの販売スペースも。1千円台からとお手頃

作家の名を冠さない民芸や古い雑器が、おおらかに人々の食を支えてきたように、FUDANの空間や料理もまた多くを語らず、訪れた人の時間にそっと寄り添うようなもの。丁寧に作られた実直な料理と食卓に小さな喜びを見いだす知恵は、「今ここ」にある“足元”の幸せに気づかせてくれることでしょう。

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

二条城にほど近い立地。観光のついでに立ち寄りやすく、地元の人も多くほのぼのとした地域

民藝と古い器のカフェ FUDAN
https://fudan.life
不定休のため、訪れる前に営業日カレンダーを確認

BOOK

暮らしを彩るうつわで心温まるおばんざいを 「民藝と古い器のカフェ FUDAN」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

バックナンバー

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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