あの街の素顔

台湾一短い老街、路地裏でタイムスリップ 台三線ロマンチック街道

台湾の西側を南北に貫く省道(日本でいう国道)である「台三線」。全長436.8キロのうち、桃園大渓から台中新社までの約150キロを「台三線ロマンチック街道」と呼びます。2019年10月19日から12月15日までの58日間、大規模なアートイベント「ロマンチック台三線芸術祭(浪漫台三線藝術季)」が開かれているこの道。前回はそのイベントについてご紹介しましたが、今回は客家(はっか)文化が色濃く息づく台三線沿いの街を旅してみます。

(文・写真:池田美樹 トップ写真は新竹県・北埔=ベイプー=の風景)

山野に生活を打ち立てた客家人の里をめぐる

これまで台湾に旅をしても台北観光だけで終わってしまっていた私。2019年10月、アートイベント「ロマンチック台三線芸術祭」を訪れる機会があり、「台三線ロマンチック街道」という道の存在を知りました。

台三線は台湾で「内山公路」とも呼ばれている道。「内山」とは山々が連なる奥山という意味で、地図を見ての通り、全線、山深い場所を走っています。かつて台湾茶や、火薬の材料にもなる樟脳(しょうのう)の輸送ラインとしても重要な産業道路でした。

台湾一短い老街、路地裏でタイムスリップ 台三線ロマンチック街道

石虎(タイワンヤマネコ)に注意という標識がある台三線(写真提供:ロマンチック台三線芸術祭)

このうち「台三線ロマンチック街道」と呼ばれる一帯は、台湾の中でも客家人の人口比率が高いことで知られています。

客家人とは漢民族の大きな支流。主に中国の華南一帯に居住していますが、17世紀頃から海を越えて台湾にやってきました。先住民族との争いを避けるために山間部に住み、多大な努力をして生活を切りひらいたといわれています。

台湾一短い老街、路地裏でタイムスリップ 台三線ロマンチック街道

まさに山々が連なる中を進む台三線沿いの風景(撮影・KRIS KANG)

この客家人の昔ながらの素朴な生活や文化が今、注目されていると聞き、俄然、興味が湧いたので出かけてきました。

台湾でもっとも短い老街 桃園市龍潭

「台三線ロマンチック街道」沿いで特に客家人が多く住む桃園、新竹、苗栗、台中は観光地としても整備されつつあります。台湾高速鉄道(THSR)や台湾鉄道(TRA)を乗り継いで巡ることもできるのですが、街道を走ってみたかったので今回は車を利用しました。

台北を出てまず向かったのは桃園市龍潭(ロンタン)地区。ここには長さ100メートルの、台湾でもっとも短いといわれる老街(ラオジエ)、「三坑老街」があります。老街とは、清朝、または日本統治時代に造られた街のことで、台湾の至る所にあり、レンガ造りの古い街並みが残されています。

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三坑老街の入口。台北から車で約1時間半。その長さわずか100メートルで、曲がりくねっている


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三坑老街の店先。客家人の親子がスマートボールに興じている


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地元の人々の信仰を集める永福宮


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老街の裏手に広がる田園風景

平日は実に静かな街並みらしいのですが、出かけたのは土曜日だったので、近隣の農家が通りに店を出すなどとてもにぎわっており、歩きながら食べた「香腸」(台湾ソーセージ)や「菜包」(客家の野菜まんじゅう)、そして仙草のドリンクがとても美味でした。

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香腸。その場で焼いてくれる


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菜包売り場。アツアツで地元の人にも大人気

少し足をのばすと古い客家の集落である「太平集落」があります。ここの川にかかるレンガ造りの太平紅橋はとても美しく、地元のカップルのデートスポットにもなっています。


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太平紅橋。日本統治時代に造られたときの姿そのままで残っている

古い水路が残る農村 苗栗県・大湖

次に向かったのが苗栗県の大湖(ダーフー)。今回、訪ねた中でもっとも山深い農村でした。

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イチゴの産地として有名な大湖。台湾の生産量の8割を占める

ここには、客家人が山深い土地で田畑を切り開くのに必要だったため、日本統治時代に造られたという水路が何本も残っています。水路には、未だ現役で使われているものもあり、見せてもらうことができました。

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長靴を履いてジャブジャブと水路をさかのぼる

前回紹介した「ロマンチック台三線芸術祭」が行われていたこともあり、客家人がこの地に根付いた歴史をテーマにしたアート作品を巡ったあと、地元の人たちが作ってくれた客家料理のお弁当をいただきました。

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カボチャを混ぜたおにぎり、大根もち、腸詰など、客家の伝統料理を詰め込んだお弁当。もちろん名産のイチゴも

遠く中国から海を越えてやってきた客家人は、台湾の各地で先住民と衝突したといいますが、ここ大湖では幸福に共存する道を選んだという話を聞きました。

懐かしい時代を感じる新竹県・北埔

最後に向かったのが新竹県の北埔です。北埔老街は清朝時代からにぎやかな商業の中心だった場所。200メートルほどの古い街並みの裏に迷路のように細い道が張り巡らされ、あてもなく散歩するのにとてもいい雰囲気。

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今は使われていない建物の壁だけが残っている


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人ひとりがやっと通り抜けられるほどの細道は「ディンドン橋」と呼ばれ、人が歩くとディンドンと音がする、外敵から身を守るための仕掛け

この一帯の歴史的建築のほとんどは、裕福な姜一族が開墾したのちに建てられたといいます。その中でも複雑な歴史をもつ「姜阿新洋樓」は2018年にリノベーションされ、中の一部が一般公開されています。

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姜阿新洋樓。茶葉と木材の販売で富を築いた姜一族のひとりが破産し、一時没収されていたが、2012年に買い戻し、元の持ち主が住んでいる。観光地として有料で公開されている

老街には台湾三級古蹟の文化資産である慈天宮があります。まつられている主な神様は観世音菩薩。信仰の中心でもあり、また、会議なども行われていた、まさに北埔の中心地です。

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慈天宮。この日は「ロマンチック台三線芸術祭」の開幕式が行われており、大勢の人が繰り出していた

このあたり一帯には昔ながらの客家料理を出す飲食店も建ち並び、伝統的な食事をいただくこともできます。

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慈天宮の目の前にある北埔食堂。建物は100年以上前に造られた客家の古民家をリノベーションしている

駆け足で巡ってきた客家人の里。今回巡った3カ所のうち、私は北埔がとても気に入ってしまいました。訪れたのが夕方で、細い路地で自転車に乗って家路を急ぐ親子、後を付いてゆく犬、家々から立ちこめる夕餉(ゆうげ)の香り、だんだんとともってゆく明かりなど、人が生活している気配が、普段暮らす東京より濃厚に伝わってきたからです。知らない街なのに、歩いている人も街並みもなぜかとても懐かしい感じがして、幼い頃に母に連れられて家路をたどった、今はもうない風景を思い浮かべました。

客家の古民家を使った民宿も発見したので、ぜひ次回はゆっくりと時間をとって北埔に滞在してみようと思います。

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PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 池田美樹

    旅と写真とワインと猫を愛する編集者。(株)マガジンハウスにて『Olive』『anan』『Hanako』『クロワッサン』等の女性誌の編集者を経験したのち、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程を経て独立。これまで約40か国をひとり旅。2019年4月〜8月にはピースボートで地球を一周した。日本旅のペンクラブ会員。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエとしてシャンパーニュの普及活動にも精を出す。2匹の猫と同居中。

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