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世界初の水上牧場 欧州一の港町ロッテルダム ベルギー・オランダ紀行(5)

ベルギー・フランダース地方とオランダの食とアートを巡る旅にこの夏出かけた&TRAVEL副編集長。いよいよ欧州一の港湾都市、オランダのロッテルダムへ。熱波の中、世界で初めての水上牧場見学にはしゃぎ、グルメに舌鼓をうっているうちに……。

(文・写真:&TRAVEL副編集長・星野学、トップ写真は決定的瞬間、ではなく、車のオブジェと現役の路面電車)

<世界有数の高さの風車へ突撃 ベルギー・オランダ紀行(4) ストレーフケルク~スキーダム>から続く

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モダンなビルが林立する近代都市

2019年6月25日、午前中に国立ジュネバ博物館の試飲でしたたかに酔い、風車の見晴らし台で高さへの恐怖から我に返った私は、車で一路ロッテルダムへ向かいます(もちろん、自分では運転していません)。30分ほどでたどりつくと、そこは高層ビルやモダンな建築が林立する大都会でした。

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ビルが林立するモダンな大都市・ロッテルダム

午後1時すぎ、ロッテルダム中央駅の前で、当地の観光オフィス「ロッテルダム・パートナーズ」のジュリア・デン・オーターさんと待ち合わせです。欧州を襲う熱波は勢いを増し、直射日光が体にこたえます。高所恐怖症の私を風車に突撃させたジュネバの酔いもこの暑さで抜け、代わりに疲れが襲ってきます。

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先鋭的なデザインのロッテルダム中央駅。2014年にリニューアルされた。オランダの著名建築家が共同で設計した

屋上農園のあるレストランで地産地消ランチ

ジュリアさんの案内で、地産地消の野菜メニューのレストラン「Op het Dak」(オプ・ヘト・ダク=屋根の上)で昼食です。ロッテルダムの中心街にあり、オランダ初とされるビルの屋上農園を備えているのです。「え、この暑いのに屋外で食事?」と心配になりましたが、席は屋内に用意されていて、ちょっと安心。

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屋上農園の脇にはテラスが

これまで巡ってきたベルギーの街もオランダの街も、古い建物や伝統的な風景を残した場所でした。ところがロッテルダムは、見渡す限りモダンなビルばかり。「タイムトンネルを抜けて現代に戻ってきた気がします」とジュリアさんに話すと、「古い建物は第2次世界大戦の時、ナチスドイツの空爆で破壊されたのです」とのこと。復興の際も、古きよき街並みの再現ではなく、まったく新しい街を作り直したため、近代的な外観の街になりました。

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ビルのエレベーターホール。レストランへは、ここからエレベーターと階段で向かう

料理が次々に運ばれてきます。どろっとしたベリーとパイナップルのスムージーで渇きをいやし、酸味のきいたビーツの冷製スープが、ほてった体をさましてくれます。ソラマメやアスパラガスを炒めた温サラダは食べ応えたっぷり。インドネシアの納豆と呼ばれるテンペをあしらっているのは、旧植民地の食材で身近なのでしょう。

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テンペを用いた温野菜メニュー

スペイン風の卵と野菜とチーズは、ピリ辛トマトソース味。暑さに負けそうな体に活を入れてくれました。

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スペイン風の卵と野菜とチーズ。アヒージョのようなスープのような食べ物

世界初! 海上の牧場「Floating Farm」

食事を済ませて外に出ると、気温は32度まで上昇していました。車に乗り込み、海辺へ。行き先は、世界で唯一という海の上に浮かんだ牧場「Floating Farm」です。ロッテルダムへたどりつくまでの間、農村部のあちこちで牧場を見かけましたが、土地が足りなくて困っている、というふうでもなさそうでした。いったいなぜ、海の上に牧場を造るなどということを考えついたのか。興味津々で訪ねました。

運営会社のピーター・ファン・ウィンゲルデンさんから、事務所でレクチャーを受けます。
「昨日アムステルダムで聞いた話では、今後150年間で世界の海面は5メートル上昇するそうです。そうなったら、(国土の4分の1が海面下にある)オランダ人はドイツに引っ越さなければいけませんね」。ジョークも交えた説明が続きます。「この施設は、気候変動に左右されずに都市部で良質の食糧を確保する試みです。同時に、水を使った新しい景観を生み出すことで、都市の魅力を高めることにもつながります」

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海上に造られた「Floating Farm」。牧場は最上層に、下層には乳製品の生産施設がある

「Floating Farm」に牛が搬入されたのは2019年の5月。40頭を飼育しています。牛の飼料は、ビール工場から出るしぼりかすや食品工場から出たイモの皮など、ロッテルダム市内の食品廃棄物を転用し、生産する牛乳や乳製品はロッテルダム市内で販売する。つまり、食の生産から消費までを市内で循環させる「地産地消」の仕組み作りでもあるのです。

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「Floating Farm」を案内しながら、牛にエサを食べさせるピーター・ファン・ウィンゲルデンさん

海面の水位に応じて、施設も上下するとのこと。とすると、牛が船酔いのようになって生産性に影響が出ることはないのでしょうか。ピーターさんに質問すると「地上で育てるのと違いはありません」とのこと。近い将来、鶏舎を、次いで野菜農園を作る予定とも言います。あれ、野菜、鶏舎、牛と進めるほうが自然なのでは? 「最も難しい大型動物の水上飼育から試してみたかったのです」と、ピーターさんは話していました。

暑さにやられ、ビヤホールでぐったり

ロッテルダムの西のはずれにある「Floating Farm」から中心部に戻るには、水上タクシーを使います。水際に立ち並ぶ個性的な建物を眺めながら乗り場に向かいますが、夏の日差しがじりじりと体を痛めつけてきます。何か視野が狭くなってきた気がする……。めまいも。ついに、暑さにやられたようです。

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水上タクシーがやってきた

ようやく水上タクシーの船に乗ると、この運転が猛烈。波一つない凪(な)いだ運河を進んでいるはずなのに、嵐の海に乗り出したかのような激しいアップダウンです。元気なら楽しめたでしょうが、私の体調不良はますます加速します。15分ほどでようやく下船場に上陸し、次の目的地である倉庫をリノベした市場とフードコート「Fenix Food Factory」(フェニックス・フード・ファクトリー)にたどりつくと、力尽きました。

ビヤホールの椅子に腰掛けて目をつむり、体調回復を静かに待ちます。いちおう、自慢のクラフトビールも頼んではみましたが、とても口にはできません。

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「Fenix Food Factory」の内部。天井の高い元倉庫に飲食店や食料品店が同居している

30分ほどで、ようやく歩けるほどには回復したので、この日の宿へ向かいます。

おしゃれなホテルで元気回復

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ロッテルダムで滞在したホテル「Room Mate Bruno」

宿泊したのは、オランダ東インド会社の紅茶倉庫だった建物を改装した「Room Mate Bruno」(ルーム・メイト・ブルーノ)です。入り口をくぐってまず驚くのは、きらびやかなフロントデスク。

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「Room Mate Bruno」のフロント。キラキラしたパステル調

ロビーのインテリアも絶妙な色彩感覚で、気分が華やいできます。

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おしゃれなロビー。右側の扉奥にある黄色いものは、上のフロアへの階段

あとでわかったことですが、私の部屋はフロントから向かうと、長方形の対角に近い、遠い場所にありました。途中、廊下にはさまざまな色の中扉があって、まるで生身でダンジョンゲームをしているかのよう。ポップな色彩と遊び心ある造りにすっかり魅せられてしまいます。

泊まった部屋の色調は黄緑と赤と派手な組み合わせなのですが(フォトギャラリーをご覧ください)、不思議と落ち着くのです。よくみると古い配管がそこかしこに残るレトロな建物の風合いと派手な色が、互いを引き立てているのだな、と感じました。ベッドにごろんとして1時間ほど仮眠すると、ずいぶん元気を取り戻しました。

ディナーはさわやかな風に吹かれて

歩いて10分ほどの場所にあるレストラン「De Matroos en het Meisje」(デ・マトロース・エン・ヘット・メイシェ=船乗りと少女)へ向かいます。食欲はあまりなく、ディナーは食べられるかどうかわからないけれど、行くだけ行ってみよう。

デルフト焼きで知られるデルフトブルーの内装が有名な店と聞いていましたが、この日は屋外のテーブルでディナーコースをいただきました。

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屋外のテーブルでいただくディナーも、またおつなもの

湿り気のない屋外に腰掛けるのは、心地よいものです。料理が食べられるかな……という心配は、1品目を口にした瞬間に、吹き飛びました。肉のタルタル、あぶったマグロ、シメジなどの組み合わせ。すべての素材の歯ごたえも、味わいも違う、多国籍料理の極みのような味。むむむ……これは……。乾杯用のスパークリングワインはもちろんのこと、勢いに乗って頼んだ軽めの白ワインのグラスも、あっというまに空いてしまいます。

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肉のタルタルやマグロを組み合わせた1品目

エディブルフラワーが彩るアスパラガスのソテー、小ダラとコンビーフの魚料理のために、重めの白ワインをグラスで追加、ラム肉とじゃがいもの料理には重めの赤ワインをグラスで合わせて、しっかり完食。さきほどまでのヘタれた自分はどこに行ったのかと、あきれるほどです。

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ラムと野菜の料理

昼間の恐ろしい暑さも和らぎ、さわやかな風に吹かれて、宿へとゆっくり歩いていきます。梅雨真っ最中の東京で働く同僚への、ちょっとした罪悪感を抱えつつ。

ふと顔をあげると、ロッテルダムのランドマーク、エラスムス橋が、夜のとばりに包まれていきます。

スマートフォンを取り出して写真を撮り、大切な人にLINEで送ります。

「天使の竪琴です」というメッセージを添えて。

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夕闇に包まれていくエラスムス橋

(つづく)

【次回】建築天国ロッテルダムを自転車でぐるり ベルギー・オランダ紀行(6)

【取材協力】
オランダ政府観光局/ベルギー・フランダース政府観光局
https://www.hollandflanders.jp/

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