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建築天国ロッテルダムを自転車でぐるり ベルギー・オランダ紀行(6)

ベルギー・フランダース地方とオランダの食とアートを巡る旅にこの夏出かけた&TRAVEL副編集長。旅の終わりを飾るオランダ・ロッテルダムの後編です。奇抜な建築物に度肝を抜かれ、サイクリング王国オランダらしく、自転車で街を巡ってみたら……。

(文・写真:&TRAVEL副編集長・星野学、トップ写真はキューブハウス)

<世界初の水上牧場 欧州一の港町ロッテルダム ベルギー・オランダ紀行(5)>から続く

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町歩きにうってつけの涼しい朝

2019年6月26日。熱波にさいなまれた前日とはうってかわり、午前9時30分の気温は18度と、涼しい朝を迎えました。見上げれば低く垂れ込めた灰色の雲。お天気はいま一つですが、暑さに閉口することはなさそうです。

この日はまず、ロッテルダム名物の一つ、モダンで個性的な建築群を見に行きます。ホテル最寄りのウィルヘルミーナプレイン駅から地下鉄に乗り、市の中心部へ向かいます。

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地下鉄ウィルヘルミーナプレイン駅

駅構内からして近未来風。旅のわくわく感が高まります。

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ホームへ向かう通路は宇宙ステーションのよう


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チケットをピンクの部分にあてると、自動改札機の扉が開く

奇抜な建物が織りなす「太陽系」

ふたつ先のビュールス駅で降りて、15分ほど歩くと、隣のブラーク駅に着きます。この駅前にある広場をぐるりと、実に個性的な建物が取り囲んでいるのです。

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ブラーク駅。丸い構造物の下に、地下へのエスカレーターがある

UFOのような駅の構造物を背にして右に、トップ写真でも紹介したキューブハウスがあります。オランダ人建築家ピエト・ブロムの作品で、1984年にできました。斜めに45度傾いた、ずらりと並ぶ立方体は、なんと住宅。洗濯物を干してある部屋もあり、人が住んでいるようです。中はどうなっているのか? 公開されている部屋もあると聞いて探したのですが、見つけられませんでした。

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キューブハウス

右斜め前にある建物は、船のような、工場のような……。どちらでもありません。ロッテルダム中央図書館です。

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ロッテルダム中央図書館

極めつきは、左斜め前にある、巨大なカマボコのような、これ。2014年にオープンした「Markthal」(マルクトハル=市場ホール)です。地元の人は「えんぴつ削り」と呼んでいるとか。

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「Markthal」。ホール内外を仕切るガラスに、向かいの建物が映っている

馬のひづめのような断面を持つこの建物は、長さ120メートル、幅70メートル、高さ40メートル。食品市場、フードコートと、分譲、賃貸合わせて約230戸の住宅が同居する建物です。

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「Markthal」の内部。食品市場や飲食店がずらり並ぶ空間を、壁の巨大な絵画が彩る

「Markthal」の隣には、巨大な観覧車も。

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観覧車

まるっきり個性の違う建物が、よくもこんなに集中したものだと思います。でも、この広場に立っていると、ある種の不思議な統一感を感じるのです。何でだろう……と、あたりを見回して考えていると、14世紀に建設が始まり1646年に完成した、聖ローレンス教会に目がとまりました。

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聖ローレンス教会(奥)

ゴシック様式の重厚な建物は空襲で破壊された後再建された、数少ない建物の一つ。中世のロッテルダムでは、教会の塔を建設するために3000個の石を寄付することで市民権が獲得できたそうです。長きにわたって人々の心のよりどころであり続けた教会は、見た目もどっしりと落ち着き、揺るぎない。デザインの粋を尽くした現代建築は、個性を主張しながらも、どこかこの教会に敬意を払っているようにたたずんでいるのです。聖ローレンス教会という太陽の周囲を、現代建築という惑星が周回しているような、ある種の小宇宙のように。

クラウドファンディングで造った「空中運河」

さて、ロッテルダム中央駅のレンタル自転車店を目指して、15分ほど歩きます。途中、こんな橋がありました。

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再開発の一環として建設された木製歩道橋「Luchtsingel」

Luchtsingel」(ルフトシンゲル=空中運河)と呼ばれる、長さ390メートルの木製歩道橋です。クラウドファンディングで資金を集め、寄付者の名前は橋のパーツである厚板(一つ15ユーロ)に刻まれる仕組みです。中央駅付近の寂れていた地区の活性化事業だったようです。

この黄色、どこかで見たな……と思っていたら、前日に昼食をとったレストラン「Op het Dak」(オプ・ヘト・ダク=屋根の上)の、エレベーターホールが真っ黄色だったビルに、橋がつながっていました。

「自転車もぐもぐ」ツアー 右側通行は大変

ロッテルダム中央駅のレンタル自転車ショップで、日本人ガイドの馬渕雅子さんと待ち合わせて、いよいよサイクリングです。随所を巡りながらB級グルメもつまむという「Bike & Bite」(バイク・アンド・バイト=自転車でもぐもぐ)、約3時間のツアーへ。

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借りた自転車。水筒に入れた水がついていた

オランダ全体におよそ3万キロの自転車専用道が張り巡らされ、人口1670万人より多い1800万台の自転車があるオランダ。文字どおりの自転車大国を体感しようと、張り切って出かけましたが……。

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オランダでは車両右側通行。日本と逆なので、肝を冷やした

うわ、車両右側通行だった! 日本とは逆なので、最初は怖いです。とくに道路を横切るとき、日本なら右からの車にまず注意を払いますが、オランダでは左側を見ないと危険です。歩くだけならまだしも、自転車を走らせることがこんなに難しいとは……。

レモネード飲みながらコロッケ

おっかなびっくりの運転に慣れてきた約15分後、最初の「もぐもぐ」に立ち寄りです。カフェ「Tante Nel」(タンテ・ネル=ネルおばさん) です。

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「Tante Nel」

いただいたトリュフ入りコロッケは、揚げたてでほくほく、味はスパイシー。

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名物のトリュフ入りコロッケ

一緒にいただいたレモネードを飲み、渇きも癒やされます。一息ついて、次の目的地へ出発!

たこ焼き? いえポフチェスです

午前中に建築物を見て歩いたブラーク駅前へ、今度は自転車で来ました。「Markthal」の向かいに、オランダの名物菓子「ポフチェス」の老舗、「Poffertjes Salon Seth」(ポフチェスサロン・セス)がありました。ポフチェスはフランスからオランダに伝来した菓子ですが、いつの間にかこちらが本家になったそうです。

菓子の名前だけは聞いていましたが、食べたことはありません。どんなものかと店先をのぞいてみると……。

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ポフチェスを焼く様子は、まるでたこ焼きのよう

見た目はまるっきりたこ焼き。この店員さん、140個のポフチェスを1分足らずで反転させる鮮やかなお手並みです。

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できあがったポフチェス

ポフチェスを買ってきて、屋外のテーブルでいただきます。たこ焼きよろしくソース味……のはずもなく、たっぷりかけた粉砂糖の優しい甘みが印象的。ただ、ポフチェス自体に甘みはなく、パンケーキともちょっと違う、「おやき」に近い素朴な味わいです。

お騒がせなサンタ像

ブラーク駅前を出発して約10分、大きなオブジェのある広場に着きました。

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ポール・マッカーシーのブロンズ像「サンタクロース」

アメリカ人アーティスト、ポール・マッカーシーさんの「サンタクロース」です。高さ6メートルのこのブロンズ像は、ロッテルダム市がマッカーシーさんに制作を依頼し、2001年に完成しました。当初は、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地「デ・ドーレン」の近くに置かれる予定でしたが、サンタが手にするツリーがアダルトグッズを想起させると反対の声が市民からあがり、取りやめに。ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の中庭に数年間「仮住まい」をした後、現在の場所に置かれることになりました。

ワーグナーの「さまよえるオランダ人」ではありませんが、オランダをさまよったサンタを、複雑な思いで眺めました。

巡礼始祖船出の地で、歴史とつながる

出発して約2時間。市西部のデルフスハーフェンへ入ります。17世紀の雰囲気を残す古きよき街並みで知られる地区です。

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デルフスハーフェンの運河沿い

ここにあるビアハウス「STADSBROUWERIJ DE PELGRIM」(スタッズブルワリー・デ・ペルグリム)で一息つきます。ペルグリムって、英国からアメリカ大陸に渡った巡礼始祖(ピルグリム・ファーザーズ)のアレだよなあ……と考えながら、メニューに見つけた巡礼始祖の船の「メイフラワー」という名のビールを頼みます。アテはこの街ですっかり食べ慣れたコロッケです。

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ビールを運んできた店員さん。笑顔がすてき

それにしても、なんでこの命名? ガイドの馬渕さんが教えてくれました。イギリスからオランダに逃れたピルグリム・ファーザーズの中には、ここデルフスハーフェンを出発してアメリカ大陸へ渡った人がいたのだそうです。

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コロッケとビール「メイフラワー」

いい気になってビールを飲んでいる自分が、突然400年前の歴史につながりました。何かを追体験したわけでもないのですが、30年以上前の高校時代に知識だけ身につけたものが、当地の風に吹かれて、ほんのわずかながら血肉化した心持ちです。

サイクリングの最後の30分ほどは、日差しも出て気温が上がってきましたが、この日は夏バテもなく、快適に自転車旅を終えました。
ロッテルダム中央駅へ戻り、馬渕さんと少し話しました。ロッテルダムに住んで12年になるそうです。

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サイクリングのガイドをしてくれた馬渕雅子さん

「日本からロッテルダムに来る方は、やはり建築に興味のある方が多いです」と馬渕さん。そうですよね。私もすっかり魅せられてしまいました。「ここは地下鉄も路面電車もバスもあり移動しやすい街です。10年前は、気の利いたカフェもかわいい服を売っている店もあまりなかったのですが、最近は増え、サービスも向上していますね」

最後の夜はゴージャスなコースで

ロッテルダムで最先端と言われる多国籍料理のレストラン「HÉROINE」(ヘロイネ)で夕飯です。コース料理をいただきます。ワインの品ぞろえも工夫がありそうです。調度はモダンで、気後れするほど高級でもなければ、くだけすぎでもない、絶妙な雰囲気です。

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「HÉROINE」のおしゃれな内装

アミューズ3品に続き、4品のコースが登場します。特に印象に残ったのは、まず1品目のサラダ。ホワイトアスパラガス、緑のイチゴ、フェタチーズをあしらう酸味のきいたソースと、素材のほのかな苦みが、プロバンス地方の白ワインとのよきマリアージュを醸します。

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1品目のサラダ

それから、4品目の肉料理。ラム肉にくせのある野菜をのせた、個性と個性の対決のような1品で、ガルナッチャ種主体のスペインの赤ワインと組み合わせると、実にコクのあるうまみが口に広がりました。

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4品目の肉料理

白ワイン2種のグラス、赤ワイン1種のグラスに加えて、デザートワインまで飲んで、すっかりご機嫌な私。減量中であることは完全に忘れています。タクシーに乗って、すっかり千鳥足で宿にたどりつきました。

最後の夜を、飲み干して

普通なら、そのまま部屋に入って倒れ込むところなのですが、グラッパやブランデーのような強い蒸留酒を飲んでいないせいか、「うーん、もう一杯!」な気分です。ホテルのバーカウンターでドライジン「ボンベイ・サファイア」のオンザロックを注文し、グラス片手にラウンジに腰掛けました。

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ホテル「Room Mate Bruno」のラウンジ

独特の香りを鼻で感じながら、ぐいとグラスを傾けると、濃度の高いアルコールでのどの奥がやけつくようです。ふう、と一息つき、明日は帰国だなあと、右手に持ったグラスを眺めていると、突然、目の前が潤んで、まぶたから熱いものがこぼれ落ちました。

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「ボンベイ・サファイア」は、甘く危険な香り

ブリューゲルのフグ、小便小僧、12キロのゴーダチーズ、水上牧場……。泥酔しているわけでも、いまわのきわでもないのに、頭の中をぐるぐる巡る旅の体験を反芻(はんすう)しながら、心の中でつぶやきます。

「私は今、生きている」

(終わり)

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【取材協力】
オランダ政府観光局/ベルギー・フランダース政府観光局
https://www.hollandflanders.jp/

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