台湾一周自転車旅

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

「環島」をご存じですか? 台湾をぐるり一周する旅のことです。とりわけ近年人気の自転車による環島に、ライターの中村洋太さんが挑んだ連載「台湾一周自転車旅」。最終回は花蓮からゴールの台北まで。経路を短縮しようと山道を行ったら、雨に降られて寒さに震えることに。途中立ち寄ったレストランで感激した、思いも寄らぬ人の温かさとは。

【台湾一周自転車旅「環島」 兄の恩人の老夫婦を、18年後に訪ねたら (5)関山〜花蓮】からつづく

落石危険、電車推奨のエリアも

台北にある台湾観光局を出発前に訪れた際、「環島サイクリングマップ」の制作担当者から、「花蓮から蘇澳にかけての道は危険なので、電車を使ってください」と強く言われた。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

台湾観光局の方と

その区間には台湾有数の景勝地である「太魯閣国家公園」があるのだが、しばしば落石が発生するのだという。ぼくが訪れる数カ月前にも、このエリアを走っていた日本人サイクリストが落石に巻き込まれる事故が起きた。安全第一なので、助言には素直に従うことにした。

日本の鉄道に自転車を乗せる場合、基本的には分解して輪行袋に入れる必要がある。しかし台湾の鉄道では、欧米と同じように自転車をそのまま乗せられる。必要なのは追加料金(大人料金の半額分)のみ。わずらわしさがなく、素晴らしい体験だった。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

他の環島挑戦者も、やはりこの区間は鉄道を使っていた

車窓から美しい海岸線の風景を眺め、蘇澳新という駅で降りた。ここまで来れば、落石の心配はない。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

蘇澳では名所の「冷泉」に入った。冷たいのにポカポカ温まるから不思議だ

宜蘭・礁渓エリアの洗練された魅力

蘇澳からしばらく走り、宜蘭に着いた。宜蘭のエリア(隣町の礁渓も含む)はぼくが今回の旅で、ひそかに楽しみにしていた場所だ。

旅の計画時、台湾のガイドブックを読みあさるなかで、気になる1冊を見つけた。『宜蘭+台北 ちょこっと海・温泉・ローカル近郊を楽しむ旅』(パイインターナショナル)という本だ。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

宜蘭のゲストハウスにもその本が飾ってあった

ぼくは海外ツアーを扱う旅行会社で働いていたから、台湾の人気観光スポットは概ね把握していた。しかし宜蘭に宿泊するツアーは他社も含めてほとんど存在しなかったから、その宜蘭エリアだけで1冊のガイドブックが作られていたことに驚きを覚えた。「ここはそんなに魅力的な場所なのだろうか?」と。

この本を開いたときのワクワク感は、今でも覚えている。紹介されているお店はことごとく魅力的に映った。台湾のツウなスポットを紹介したかったぼくにとって、うってつけの情報が集約されていた。

実際に訪れた宜蘭は、1〜2日の滞在ではとても時間が足りないほどに良かった。同じ年の7月、ぼくはアメリカのポートランドを訪れたのだが、宜蘭はどことなくポートランドに似ている印象を受けた。これといって街を代表するような観光スポットがあるわけではないのだが、歩いて巡れるちょうどよい大きさの街の中に、個性的なお店が点在している。

しかも台南で経験したような伝統的な台湾の魅力ではなく、洗練された新しい台湾の魅力があった。こだわりが感じられるオシャレなお店が多いのだ。

お気に入りの「濃い豆乳」

宜蘭市で1泊、翌日は隣町の礁渓(こちらも宜蘭県)で1泊し、このエリアを堪能した。

訪れたお店はどこも素晴らしかったが、個人的に特にユニークだと感じたのは、礁渓で訪れた豆乳専門店「濃い豆乳」。ココア味や抹茶味など、様々な種類の豆乳がオシャレなボトルに入っている。昨今の豆乳ブームもあり、東京に出店してもはやりそうだなと感じた。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

豆乳は濃厚でおいしかった。ここが1号店だが、その後台北や台中にも出店している

また、パニーニの人気店では、出てきたプレートを見て驚いた。なんと日本語で「いらっしゃいませ」と書かれていたのだ。日本人と伝えたわけでもないのに、ぼくの雰囲気を見て感じ取ったのだろうか。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

日本語の書かれたプレートを見て愛着がわいた

ゲストハウスも宜蘭・礁渓ともにスタイリッシュで居心地が良かった。わずか1000〜2000円で泊まれるにもかかわらず、こんなに清潔かつオシャレな宿でいいのか、と思ってしまうくらい。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

宜蘭のゲストハウス「行口文旅」のラウンジ

礁渓は温泉地としても有名で、ここでは水着不要の日本式の温泉に入った。やはり日本人にはこのスタイルが落ち着く。

恐ろしく寒い山道

いよいよ環島の旅、最後の日が訪れた。天気は雨。

本来の環島ルートは海沿いの道なのだが、それだと台北まで100キロ以上走ることになる。だいぶ疲労がたまっていたので、30キロ近くショートカットできる山越えの道を行くことにした。

地図で確かめてみて、日本の日光にある「いろは坂」のような地形からキツい山道だとは容易に想像できたが、峠さえ越えればあとは台北市街まで下るだけだし、最後にしんどい思いをした方がゴールした時に達成感を得られそうな気もした。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

台北まで69キロ。泣いても笑っても最後の走りだ

しかし、山道の途中からまた豪雨となり、台東を目指していた数日前の悪夢がよみがえってきた。おまけに気温が低く、寒くてたまらない。少し前には熱帯地域にいたのに、すごい気温差だ。とにかく雨でスリップしないことだけを考え、ブルブルと震えながらも慎重に走った。

かなり標高の高くなったところに小さな町があり、通りがかったレストランで休息を取ることにした。

思いも寄らぬ「厚意」に感激

「温かいお茶をください」と言って出てきたお茶があまりにもおいしかったので、店内を見渡してようやくハッとした。ここはお茶屋が経営するレストランだったのだ。

たまたま訪れた坪林は、お茶の産地として有名な場所だった。何を飲んだのかは覚えていないのだが、お茶の味で感動した経験はなかなかない。

全身びしょぬれになり、寒さに震えながらお茶をすすっていると、店員さんがドライヤーを持ってきてくれ、驚いてお茶を吹き出しそうになった。でもその厚意は本当にありがたく、料理が来るまで必死に服や髪を乾かし、温風で少しでも暖を取ろうとした。

さらに出発前には、同じ店員さんが新品の簡易レインコートをプレゼントしてくれた。最後の最後まで、温かさを感じる旅になった。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

レインコートをくれたレストラン「東木河茶莊」の店員さん

店員さんの「峠まで、あと18キロだよ。頑張って!」の声に送り出され、ひたすら走る。

峠を越えれば、あとはこっちのものだった。台北市の標識を見て、最後の力を振り絞った。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

戻ってきた「台北市」の文字を感慨深く眺めた

さっきまで1人で山道を走っていたのだが、坂を下り切って街に入るとどんどん交通量が増えてきた。前後左右を走るバイクをまた、旅の初日と同じように「仲間」に見立てて交ぜてもらい、喧騒(けんそう)に包まれる市内中心地へ向かった。

自転車を借りたお店をゴール地点とし、ついに台湾一周を果たした。2週間で、約900キロを走った。お店のスタッフが「おめでとう」と祝福してくれ、靴下をプレゼントしてくれた。達成感と充実感に包まれた。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

「騎車」(サイクリングの意)と書かれた靴下をいただいた

またきっと触れられる「ぬくもり」

飛行機が離陸し、台北の街が眼下に広がった。出会った人たちの顔を思い出し、様々な感情が湧き起こる。

東京で過ごしていると、良くも悪くも、他人からあまり干渉されない。例えば目の前の知らない人に対して、何か助けになれることがあったとしても、見て見ぬ振りをしてしまったり、されてしまったりと、そんなことは日常茶飯事だ。

だが台湾の人々は違った。優しさや親切心から、いつもぼくの懐にグイっと踏み込んできた。「普段こんなに笑っていたっけ?」と思うほど、台湾でのぼくは笑顔でいる時間が多かった。

台湾一周自転車旅「環島」 レストランで出されて驚いたもの (6)花蓮~台北 

眼下に広がる台北の街を眺めた

嘉義のカフェの店主夫妻には、ぼくが泊まる宿さえも半ば勝手に決められ、そこまでするのかと驚いた。しかしそのおせっかいさえも、恋しく感じる。

「親日家が多い」と言われることも、体感できた。特に鳳林でのおじいさんとの対面を通して、戦前・戦後の歴史に起因する日本への計り知れない情念を感じた。おじいさんの表情、言葉、そして何よりもあの涙が、多くを物語っていた。

ヨーロッパのような街並みの美しさ、アメリカのような大迫力の自然に比べたら、台湾の風景はずっと素朴だったが、実に心温まる日々を過ごした。いつの間にか、台湾が大好きになっていた。

台東の宿では、環島にチャレンジする70代の日本人男性と出会った。ぼくも彼のように、数十年後に環島に再チャレンジしてみたい。

そのとき、出会う人々が今回の旅とは異なっても、ぼくはまた同じ「温かさ」に台湾各地で触れることになるだろう。旅先で起きることは予測できなくても、その時に感じる人々のぬくもりは思い浮かべられる。

(完)

バックナンバー

>> 連載一覧へ

PROFILE

中村洋太

1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年1月よりフリーランスのライターとして活動。これまでに自転車で世界1万キロ以上を旅しており、西日本一周(2009)、西ヨーロッパ12カ国一周(2010)、アメリカ西海岸縦断(2017)、台湾一周(2017)のほか、徒歩で東京から大阪へ「東海道五十三次600kmの旅」(2017)も。

台湾一周自転車旅「環島」 兄の恩人の老夫婦を、18年後に訪ねたら (5)関山〜花蓮

一覧へ戻る

RECOMMENDおすすめの記事