ちょっと冒険ひとり旅

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

アメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストンに拠点を置いたぶらり旅を紹介しています。前回は「ボストン茶会事件」を追体験しました。今回はボストン近郊の「魔女の町」セーレムまで足を延ばします。

■何回目かのひとり旅、異文化体験にもオロオロしなくなってきたら、ちょっとだけ冒険をしてみたい。といっても、道なき道を進むような山奥や孤島、極地などの本格的な秘境への冒険はまた別の話。連載「ちょっと冒険ひとり旅」は、京都で旅館の運営をしながら、旅行ライターとしても活躍する山田静さんが、飛行機やバスを乗り継いで比較的簡単に行ける、旅しがいのあるスポットをご紹介していきます。バックナンバーはこちら

「魔女の町」セーレムへ

ボストンから日帰りで行ける場所はいくつもある。たとえば、独立戦争の舞台レキシントン、開拓の歴史を学べるプリマス・プランテーション、ノーマン・ロックウェル美術館……。ほかにも、早起きすればナイアガラの滝くらいは行けそうだ。

興味があるスポットをはじからグーグルマップにポイントしてみて、特に心ひかれたのが「セーレム」。ホラー小説や映画ファンなら「セーレムの魔女裁判」の舞台、と言えばピンとくるかもしれない。1692年、セーレム村で200名ほどの村人が告発され魔女裁判にかけられ、うち19名が処刑された、という悲惨な事件で、いくつもの物語の題材にもなった。事件当時の「セーレム村」は現在のセーレムから少し離れた村だが、魔女裁判は現在のセーレムがある土地でも行われたという。

あまり自慢できる歴史ではないだろうが、セーレムは逆にこの事件にあやかった「魔女の町」として人気を集めているという。ホラー好きとしては、ちょっと行ってみたい。

ぶらりと歩く、のんびり明るい魔女の町

ボストンからセーレムまでは鉄道で約30分。セーレム駅で家族連れがどっと下車したので後ろから付いていくと、カントリーミュージックが流れる広場に到着した。会場を埋めるのはジェラート、ケバブ、ホットドッグ、ハンバーガーなどの食べ物を売るトラック。今日は年に数回行われる「フード・トラック・フェスティバル」だそうで、大道芸人やストリートミュージシャンもあちこちに登場して会場を盛り上げている。

どこからどう見ても、のどかで明るいアメリカの地方都市。「魔女の町」というイメージとはずいぶん違う。

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

公園が多く、歩行者天国もいっぱい。のんびり歩ける

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

日本でもここ数年盛んなフード・フェスティバル。アメリカでは週末によく見かけるイベントだ

ホットドッグで腹ごしらえをしたあと、広場横のビジターセンターで教えてもらった主な見どころを歩くことにした。通りかかるお店のディスプレーには魔女や魔物が飾られているが、どれも怖いというよりは陽気な感じ。

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「それっぽい」ディスプレーがそこかしこにある。魔女裁判が暗い歴史なだけに、「え、いいんですか、こんなに明るくて」という気にもなる

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

花屋やインテリアショップにはハロウィーンの準備用品

これはもしかして期待外れかな? などと思いながら、「セーレム魔女博物館」に入ってみた。

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「セーレム魔女博物館」の看板

おどろおどろしい音声と音楽を背景に、人形で魔女裁判の様子を再現している展示は分かりやすいが、正直作りが大ざっぱだしあまり面白いものではない。だが、最後の展示室でドキッとさせられた。

文字で埋め尽くされた小さな展示室のいちばん上には大きな字で、こう記されている。

「魔女狩りはいつの時代にもある」
「’恐れ’と’引き金’があれば」

その下には、「恐れ」と「引き金」が「魔女狩り」につながった実例として、いくつか単語が記されている。中に、こんな単語を見つけた。

「JAPAN」「PEARL HARBOR」、その横に「JAPANESE-AMERICAN」。

真珠湾攻撃のあと、多くの日系アメリカ人が強制収容されたことを指しているのだ。

最近は「自由と平等の国」というキャッチフレーズも疑わしくなってきたアメリカだが、こういうことを普通に書けるのが、アメリカのすごさだと思う。そして、ネットや報道だけ眺めていても感じられないこういう小さな「すごさ」に現場で触れられるのが、旅の良さだな、なんて思う。

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

17世紀当時の家を再現した「魔女の家」。魔女が住んでいたわけではないが、それっぽい感じの演出はある

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「魔女の家」の展示物。当時の薬草

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

「魔女の家」の展示物。この人形が壁に埋まっていたのが見つかり、魔女認定された女性がいた。村人は互いに疑心暗鬼になり、密告で次々と無実の女性が牢に入れられたという

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

そんな怖い展示も多い「魔女の家」だが、お土産はかわいい。クリスマスオーナメント

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

魔女裁判で犠牲になった人々の墓所。墓石の名前や年代をひとつひとつじっくり眺める見学者が多かった

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

セーレム出身の作家ナサニエル・ホーソーンの代表作のひとつ『七破風の家』。舞台となった屋敷はセーレムに実在しており、迷路のような館内を見学できる

町なかには17世紀当時の歴史に触れられる場所がいくつもあり、のんびりと1日歩いて、夕方には再び鉄道でボストンへ。街角の掲示板によると、ハロウィーンの当日は夜通しイベントが行われ、大盛り上がりらしい。魔女の町、今度は10月31日に来てみよう。

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

雑貨店や書店も、魔女や植民地時代のアメリカに関連したアイテムを扱う店が多い。この『The Marble Faun』はビクトリア時代のイギリス、アメリカをテーマにした本や雑貨がそろう、かわいらしいお店

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

路上ではハロウィーンのコスプレ衣装が売られていた

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02

訪れたのは10月2日。10月31日のハロウィーンを待ちかねている雰囲気が町にあふれていた

さて次回は船に乗って、もうちょっと遠出をしてみたい。

>>連載一覧へ

BOOK

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02
京都で町家旅館はじめました(双葉社)

京都に開業した町家旅館のマネージャーをつとめることになった著者が、開業準備から実際の運営に至るまでのドタバタとドキドキ、そして京都のお気に入りスポットなどを綴ったエッセイガイド。1540円(税込)。

 

「魔女の町」セーレムへ、ボストンを拠点にぶらり旅#02
旅の賢人たちがつくった
女子ひとり海外旅行最強ナビ(辰巳出版)

連載「ちょっと冒険ひとり旅」著者の山田静さんが、海外ひとり旅に行きたいすべての人にお届けする、旅のノウハウをぎゅっと詰め込んだ1冊。行き先の選びかた、航空券やホテルをお得に効率よく予約する方法、荷物選びと荷造りのコツ、現地での歩きかたのツボ、モデルルート、遭遇しがちなトラブルとその回避法など、準備から帰国までまるっとカバーしました。旅の達人によるコラム記事やアンケートも満載で、ひとり旅の準備はまずこの1冊から。1650円(税込)。

PROFILE

山田静

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『旅の賢人たちがつくったヨーロッパ旅行最強ナビ』(辰巳出版)、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。2016年6月中旬、京都に開業した小さな旅館「京町家 楽遊」の運営も担当。

名物クラムチャウダーを食べ、茶会事件を追体験。ボストンを拠点にぶらり旅#01

一覧へ戻る

はじっこにある清教徒上陸の半島ヘ、ボストンを拠点にぶらり旅#03

RECOMMENDおすすめの記事