クリックディープ旅

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

カナダの北極海を目指す、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編の4回目。前回は、ドーソン・シティーからレンタカーで約400キロ北上し、最初のガソリンスタンドがあるイーグル・プレインズまで来ました。今回はいよいよ北極圏に入り、イヌビクへ向かいます。

前回、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編3はこちら

(文:下川裕治、写真:阿部稔哉)

イーグル・プレインズからイヌビクへ

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

北極海をめざしてひたすら北上する旅。1990年に刊行された『12万円で世界を歩く』のひとつのコースだ。そのルートを約30年後のいま、なぞるように進む。前回は、北極海に至るデンプスターハイウェーのほぼ中間地点にあるイーグル・プレインズまでを紹介した。今回はそこから北極圏に入り、イヌビクをめざすことになる。永久凍土のツンドラ地帯に突入し、そこを流れるピール川やマッケンジー川のデルタ(三角州)エリアを進む。悪路の旅になった。

今回の旅のデータ

北極圏のホテルは、イーグル・プレインズ以北では、イヌビク、トゥクトヤクトゥクなどにあるが、かなり高い。イヌビクで泊まったホテルはツイン1泊240.45カナダドル、イーグル・プレインズのホテルは178カナダドル。ツインで2万円前後と考えていたほうがいい。どのホテルも現金の支払いは不可。クレジットカードでの支払いになる。デンプスターハイウェーの道中はネットがほとんどつながらない。途中でホテルをネット予約するのは難しいと思ったほうがいい。

長編動画

北極圏に突入。その表示から約1時間のデンプスターハイウェーを。永久凍土のツンドラ地帯に入っていく。この時期は表面が解け、道はだんだん硬さを失っていく。

短編動画

犬ぞり時代からの伝統なのか、飼い犬をよく見かける。人をコントロールするかのような態度をとる犬が多い。この犬も。ピール川のフェリー乗り場で。その感覚、伝わります?

イーグル・プレインズからイヌビクへ「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

イーグル・プレインズを出発すると、不思議な雲が。地上30メートルほどのところに帯状の雲が発生し、まったく動かない。前回のシーン11の霧の理由がわかってきた。丘陵の頂付近に道がさしかかるとこの雲に突入し、そこからくだると視界が開ける。北極圏に近づくと、日本ではあまり目にしない雲の世界に放り込まれる。

Scene02

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

イーグル・プレインズから北に約36キロ。北極圏の境界に到達した。北緯66度33分。そこに標識もあった。約30年前の写真を見てみる。緯度が変わったわけではないが、標識は変わっていた。このとき、僕は日本でスマホを紛失。娘のiPadを借りてカナダに向かった。自分用に記念撮影。iPadが風を受けて揺れ、うまく撮れなかった。

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

デンプスターハイウェーを北へ、北へと進んでいく。緩いくだり坂が延々と続く。永久凍土のツンドラ地帯を流れるピール川やマッケンジー川がつくったデルタへとくだっていく道だ。凍っていた地面が解け、軟らかくなってくるのが感覚でわかる。やがて前方に1本の川が見えてきた。地図で確認するとピール川だった。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

ピール川を小さなフェリーで越えた。そこからマッケンジー川のフェリー乗り場まで約69キロ。その間の道の解けぐあいが激しく、いちばんぬかるんでいた。「車の轍(わだち)からそれると、グッとハンドルをとられます」と阿部カメラマン。途中で車を止め、降りてみると、靴が5センチ近く沈み、危うく転ぶところだった。

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

マッケンジー川のフェリー乗り場に着いた。フェリーを運転する、人のよさそうな先住民と僕らも立ち話。11月下旬から4月までは、マッケンジー川が凍結し、車はフェリーなしで渡ることができるようになる。その間、この人は失業? そんなことを考えてしまった。

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

マッケンジー川をフェリーで越えてから約128キロ。ようやく、今日の目的地、イヌビクに着いた。午後8時半。夜……といいたいところだが、この明るさ。北緯68度19分の9月である。ドーソン・シティーから約736キロ。13時間半もの長い道のりを走り抜いた。お祝い? いや、その前に給油です。

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

イヌビクはマッケンジーデルタのなかでいちばん大きな街。中心である。とはいっても人口は3000人強。車でひとまわりすると街の雰囲気はつかめてしまう。日本でいったら村の趣だ。メイン通りで目にした看板。この道なのか、街全体なのかわからないが、バイク、スノーモービル、バギーの乗り入れは禁止。ちょっと厳しすぎない?

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

ドーソン・シティーを出て以来、やっと携帯のネットが通じた。ホテルを検索すると、4軒だけだった。しかしどこも高い。ツイン1泊が2万円前後。安い部屋はないかとすべてのホテルをまわったが、結局、この斬新なマークのマッケンジーホテルに。1泊240.45カナダドル、約2万3323円。痛い出費だが、選択肢はなかった。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

車をホテルの駐車場に止めた。降りて車を眺めると、まるで泥の塊だった。背後から見ると、泥の壁のようにも見える。もちろんナンバーはどこにあるのかもわからない。バックミラーにはなにも映らなくなってしまったため、泥をこそげ落とそうとしたが、途中で諦めた。明日も走ればこうなるはずだ。

Scene10

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

「ズボンの後ろに泥が……」と阿部カメラマンから指摘された。体をよじってみると、こうなっていた。靴も泥まみれ。これではホテルに入れない……と落ちていた木片で泥を落としたが限界がある。翌朝、見ると、乾いたズボンや靴から大量の泥が床に。一応、掃除はしたが……ごめんなさい。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

イヌビクは北極圏の街というだけで、見どころはなにもない。それでも夏の最盛期には、北極圏をめざす観光客がそこそこいるという。皆、行くところがなく、しかたなく訪ねるのが“イグルー教会”。正式名は違うが、イヌイットが冬、氷上につくる氷の家、イグルーに形が似ているため、こう呼ばれるようになったとか。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

イヌビクにはスーパーが1軒、酒屋が1軒、雑貨屋風食料品店が2軒ある。これが僕らの滞在を支えてくれた。スーパーは食料品以外に、衣料品やスノーモービルも販売。街の需要を一手に引き受けていた。スノーモービルは1台100万円以上。次回で紹介する北極海への道で、壊れて捨てられたスノーモービルを何台か見た。北極圏の暮らしは、金がかかる?

Scene13

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

せっかくここまできたんだから、マッケンジー川で取れたサケや北極海の魚でしょ……とスーパーのなかを歩きまわったが……ない。魚類がまったくない。見つけたのはツナ缶とサケ缶だけ。北極圏まできて缶詰というのも、と悩んで、いつもの貧しい夕食に落ち着いてしまう。それは次の写真で。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

9月なのに、夜は息が白くなるほど冷え込む。食パンにサラミやチーズを挟んだ夕食は避けたい、と7.49カナダドル、約727円の冷凍ピザ。幸い、ホテルには電子レンジがあった。充実していたのは街1軒の酒屋。日本酒まであった。イヌビクには先住民が多く暮らしている。彼らが日本酒を飲むのだろうか?

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4

ホテルの裏にバス停があった……いや、違います。喫煙所。カナダは喫煙ルールが厳しい国。屋内は完全に禁煙だ。しかしイヌビクの屋外は、厳冬期にはマイナス30度を下まわるほど。北極圏の冬は、タバコを吸うことも大変なことなのだ。で、小屋型喫煙所ということらしい。

【次号予告】次回はイヌビクから北極海。そして帰路のフォート・マクファーソンへ

※取材期間:2019年9月13日
※価格等はすべて取材時のものです。

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BOOK

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編4
12万円で世界を歩くリターンズ
[赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編3

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