京都ゆるり休日さんぽ

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

クリスマスや年末年始、子どもたちへのプレゼントやおみやげに絵本を選ぶ人も多いのではないでしょうか? 今回訪ねたのは、三条大橋近くのひっそりとした路地にたたずむ絵本とうつわのギャラリー「nowaki(のわき)」。絵本作家の原画展などを開催しながら選(え)りすぐりの絵本が並ぶこの店は、大人も夢中になる物語の世界への入り口です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

心落ち着く町家の空間で、一番身近な美術を

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

町家らしい黒い格子戸に小さな看板。デザインは絵本作家・100%ORANGEが手がけた

たくさんの人が行き交う三条大橋のにぎわいとはうって変わって、鴨川東岸から一筋路地へと入った「nowaki」周辺は、道端で近所の子どもたちが遊んでいるような穏やかな空気が流れています。引き戸をガラガラと開けたら、靴を脱いで「おじゃまします」。格子戸から差し込む柔らかな光と足にふれる畳の感触が、心落ち着く空間です。

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

靴を脱いで座敷に上がり、小さな本棚や食器棚に並んだ品々を眺めていると、友人の家に遊びにきたような安心感がある

「静かな通りで店を開きたいと思っていたんです。一度靴を脱ぐからか、みなさんゆっくりと作品や本と向き合ってくれるんですよ」。そう語るのは、店主の菊池美奈さん。東京で古書店に勤めながら、絵本作家の作品を展示するギャラリーや陶器の産地などを訪ねることが好きだったと話します。拠点を京都に移した翌年の2011年、自身の好きなものを集めた絵本とうつわのギャラリー「nowaki」をオープンしました。

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

うつわは菊池さんがよく足を運んでいた益子の作り手の作品を中心に、民芸やプロダクトものも並ぶ

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

人気がある、熊本の小代瑞穂窯・福田るいさんのうつわ。民芸の素朴さとフォルムや絵柄の愛らしさとのバランスが魅力

「絵本は、一番気軽で年齢を選ばない美術への入り口だと思うんです。当時、京都では絵本作家の原画を展示するギャラリーが少なかったことから、絵や工芸を身近に感じられる場所になればと思って」と菊池さん。月に約1度のペースで、絵や工芸の展覧会を開催。描き手の生き生きとした筆致や色彩、一つひとつ違う手仕事の品の風合いを、見てふれて味わうことができます。

「今」を生きる描き手、作り手の作品と出合える醍醐(だいご)味

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

クリスマスや年末年始におすすめの絵本。朱色の装丁が愛らしい『もみじのてがみ』(きくちちき・作)、十二支に選ばれた動物と選ばれなかった動物たちの戦いをユーモラスに描いた『えとえとがっせん』(石黒亜矢子・作)、『ねこのねかた』(ミロコマチコ・作)は同作家の絵本の中に登場する絵本を実現したもので、nowakiより発行

絵本というと、何世代にもわたって読み継がれている名作も多いもの。けれど、「nowaki」ではベストセラーと呼ばれているような名作絵本は少なく、「今、生きている」同時代の作家の作品たちを紹介することが多いそう。その理由を、菊池さんはこう語ります。

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

この日は、植田真さん・nakabanさんの二人展が開催されていた。絵本の原画は展示のみだが、その他の絵は購入できる

「学生時代に、美術館で博物館学芸員の実習を受けたとき、現代美術って今を生きている人々が楽しむものなんだ、と実感したんです。同じ時代を生きているからこそわかることがあるし、自由に楽しんでいい。それまで“美術=教科書に載っているもの”という思い込みがあった自分にとって、とても大きな発見でした」

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

絵本のほか、部数限定の特装本や私家版など、大型書店では手に入りにくい本も並ぶ

暮らしや、社会や、表現する素材や技術が「今」とかけ離れていないからこそ、共感しやすく、想像がふくらむ。「わからない」と感じることさえ自由である。難解なイメージがつきまとう現代美術もそう考えてみると、これほど親近感のあるアートはないのかもしれません。絵本という媒体を通して、ここでは大人や子どもの区別なく、今を生きる作家の絵と出あうことができるのです。

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

親交のある作家に愛猫家が多いこと、菊池さん自身も猫と暮らしていることから、猫をモチーフにしたうつわが豊富。毎年9月の動物愛護週間に企画展を開催している

「好きな絵やうつわが部屋にあると、家に帰るのがうれしくなるし、落ち込んだときになぐさめられます。まずは原画を見る機会を持ってもらい、より生活に取り入れやすいうつわのお気に入りを見つけて、美術や工芸で暮らしが少し豊かになることを知ってもらえたらうれしいです」

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

帰宅した時、お気に入りの絵が迎えてくれたら……。そんな想像をしながら、自分の心にぴたりと合う1枚に出あいたい

今この時代を生きている作家の絵本やうつわは、私たちの暮らしに最も身近な美術工芸。作り手に会うことができるのも、新作を楽しみに待つことができるのも、同時代を生きる私たちの特権です。まずは絵本を1冊、うつわを一つ、心動かされる作り手の作品を見つけてみてください。

nowaki
https://nowaki-kyoto.net

BOOK

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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