永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(39)地下鉄の階段を上ったら 永瀬正敏が撮ったブルックリン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。ニューヨークのブルックリンでこの写真を撮った永瀬さんは、あることに驚いたというのです。

(39)地下鉄の階段を上ったら 永瀬正敏が撮ったブルックリン

©Masatoshi Nagase

解放された瞬間の混沌(こんとん)。そんなものを撮った1枚だ。ニューヨークのマンハッタンから、地下鉄というある種の閉鎖的な空間で移動してきて、ブルックリンで地下鉄の駅から階段を上って地上に出て、すぐ目にした風景だった。

階段脇の壁は、落書き、破れたポスター、また落書きと、もともとの壁がどこにあるかわからない。階段を上ってくる人、降りていこうとする人、街行く人、スマホを見ている人……。整然としていない、そのコントラストが面白くて。

この写真を撮る前にニューヨークに行ったのは、二十数年前。スマホもない時代だ。そのころブルックリンやハーレム、ブロンクスは、カメラを取り出すこと自体が恐ろしくて、写真を撮りたくても撮れないような場所だった。でもこの時は、まったく違う雰囲気に変わっていた。

同じニューヨークでも、マンハッタンの中心部は、機械的というのか、どこか東京と似たリズム感がある。それに比べるとブルックリンは、もうちょっと自由な感じがする。僕の知っているブルックリンが、僕の知らない自由に満ちていた、そのことに驚いたのかもしれない。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(38)軒先にぽつりと置かれた新聞 永瀬正敏が撮ったマンハッタン

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(40)この光景を、撮らざるを得ない自分がいた マンハッタンの永瀬正敏

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