京都ゆるり休日さんぽ

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

おせちやお雑煮など、正月料理に欠かせない漆のうつわ。高価な伝統工芸品というイメージのある漆器ですが、最近では、作家ものながらふだん使いしやすい手頃な品も増えてきています。今回訪ねた「ギャラリーやなせ」は、そんな暮らしに寄り添う漆器に出合える、漆専門のギャラリーです。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

敬愛する作家との出会いが人生を変えた

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

西陣織の工房付き町家の工房部分をギャラリーに改築。職住一体の昔ながらの西陣の暮らしを再現する改築は建築家の中村好文さんが手がけた

柔らかな陽光が降り注ぐモダンな空間に、つややかな光沢をたたえたお椀(わん)やボウル、カトラリーなどが並びます。ひと口に漆と言っても、その表情は実にさまざま。こっくりと深い朱色もあれば、マットで凛(りん)とした黒、木地の木目がうっすらと透けるぬくもりを宿したブラウンやグレーなど、「漆器=赤・黒」というイメージをくつがえす、豊かで多様な色彩に驚きます。

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

お椀や酒器のほか、カトラリーやプレートなどさまざま。「こういうものを」とリクエストに応じてストックからも見立ててもらえる

「扱っている作家の漆器は、どれも私自身が毎日の暮らしで使って良さを実感したものばかりです。漆器は落としても割れにくく、使うほどにツヤが増して育っていくもの。万が一割れたり欠けたりしても修理することができます。一度買うと長く付き合っていけるんですよ」

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ドットなど模様入りの漆器を得意とする加藤那美子さんが、柳瀬さんの愛猫・銀吉を描いてくださった私物のお椀。イラスト、名入れのオーダーは個展の際のみ

そう話すのは、店主の柳瀬佳代さん。輪島の塗師(ぬし)・赤木明登さんのものづくりに魅せられ、さまざまな作家の個展に通ううちに漆器の魅力にのめり込んでいきました。

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柳の葉が描かれた漆器は赤木明登さんが「やなせ」のために作ったもの。やなせ文様正法寺椀(17,000円~・税別)

ギャラリーを開く前は、大手広告代理店で忙しい日々を送っていたという柳瀬さん。会社員から作家を志した赤木さんと親交を深めるなかで「自分が心から良いと思うものを手渡していきたい」という思いから、会社を早期退職し、京都でギャラリーオーナーの道を歩みはじめます。一人の作家のうつわとの出合いから、人生の新しい一歩を踏み出した経験でした。

誰かの暮らしに寄り添い、幸せにするうつわ

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会津若松の作り手・冨樫孝男さんの作品は、シンプルな造形から、朱磨(しゅみがき ※写真手前2点)と呼ばれる蒔絵(まきえ)、玉虫塗というヴェネツィアングラスのような赤い色彩などさまざま

常設で取り扱う作家は20人ほど。気負わずに使って欲しいから、産地や作家の年齢を問わず、手に取りやすい価格のものをそろえています。「楽しい気持ちで買い物してほしいから」と、悩むお客様に強引にすすめることはしません。その代わりに、使うシーンやよく作る料理、サイズ感や家族の人数など、お客様と一緒に考えることを大切にしています。

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毎日のごはんとおみそ汁ならこんなベーシックな形を。右:福田敏雄・作「汁椀朱」(11,000円)。左:仁城逸景・作「椀」(7,000円)。トレー:川地遥・作「栗角盆 小」(15,500円)。いずれも税別

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ハレの場はもちろん、割れにくいので子ども用にも良い愛らしい漆器。水玉模様のお椀:加藤那美子・作 「ボウルM」(9,000円・税別)など

「人にも、ものにも“居場所”があり、あるべき場所にたどり着くと幸せになれると私は思います。選んでいただいたうつわが大切にされる居場所を得て、その人の暮らしを一層楽しくする。私はギャラリーという自分の居場所で、そのお手伝いをするのが仕事だと、日々感じています」

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

長方形の重箱は多用途に使えて一生もの「長手姫重(三段)」(福田敏雄・作 85,000円)。マットなシルバーの片口(小林慎二・作 18,000円)、金銀彩の酒器(安西淳・作 10,000円)と組み合わせて晴れやかに。いずれも税別

柳瀬さんの言う“居場所”の数に呼応するように、現代の漆器の姿は多様です。例えば、正方形ではなく長方形の小さめの重箱。3段重ねればおせちやお花見など華やかな場面に、1段だけ使えば日々のお弁当箱にと活躍します。高台のないボウルは、和食の汁物だけでなくごはんやスープにも、カフェオレボウルやデザートカップとしても使えるマルチなうつわ。初めての漆器にもおすすめです。

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シルバーのプレートは洋食にも(永守紋子・作 19,800円)。口当たりが柔らかく繊細な漆のカトラリーと

新しい年のよき日のためにつややかな漆器を迎え入れたら、どうぞお正月だけでなくふだんの食卓にも登場させてみてください。使い方次第で和洋中、ハレの日にもケの食卓にもなじむ、漆器の懐の深さに気づくはずです。居場所を得たうつわは暮らしの一部となり、一緒に年を重ねていく相棒になることでしょう。

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

織の町・西陣の入り組んだ路地にある。2カ月に約1度のペースで個展を開催

ギャラリーやなせ
https://www.facebook.com/murasakino6128/
京都市北区紫野南舟岡町61-28
12:00~18:00
火・水・木、毎月28日以降定休(展覧会前後不定休あり)

BOOK

新しい年とその日々に。京都で長く使える漆器に出合う「ギャラリーやなせ」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

身近なアートへの扉。京都、絵本とうつわの町家ギャラリー「nowaki」

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