あの街の素顔

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」

四国といえばお遍路さんが有名だが、実は香川県の小豆島にも空海が修行や祈念を行ったとされる「小豆島八十八カ所」がある。四国に比べればすごい密度で霊場が存在していることになる。しかも、さすがは離島、札所のほとんどがオーシャンビューだというのだ。一体どんなところなんだろう?
(文・写真 矢口あやは トップ写真は碁石山)

絶景中の絶景、碁石山へ

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」

高松港から小豆島・土庄港までは高速艇で30分あまり。あっという間だ

小豆島八十八カ所の中でも、絶景の呼び声が高い第二番札所「碁石山」を訪れた。

仏教の霊場なのに、入り口にはなぜか神道の鳥居が。江戸時代以前の、仏教と神道が混ざりあっていた「神仏習合」の名残だという。まるでタイムカプセルのように残された景色に出会えるから離島めぐりはやめられない!

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」

「碁石山」の入り口

碁石山を登ること10分。標高300メートルの地点で、いかめしいお顔で炎を背負った「浪切(なみきり)不動明王」が穏やかな瀬戸内海を見守っていた。浪切不動明王は、“波を切る”海上安全の仏さまだ。

「実は小豆島には険しい地形が多く、岩場や切り立った崖がたくさんあります。それが山岳修行に向いていたため、弘法大師・空海も立ち寄って修行された、というところから霊場が始まりました」とは、碁石山の堂守を務める大林慈空(おおばやしじくう)さん。

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小豆島霊場第二番「碁石山」で堂守を、第八番札所「常光寺」では副住職も務める大林慈空さん

このお不動さんは、空海が密教の勉強をするために遣唐使の船で中国へ向かっていた時の伝説に由来する。嵐に見舞われ、船が沈没しそうになった時、空海は自分で彫った不動明王像を掲げた。すると大波がまっぷたつ! おかげで無事に日本に帰り着き……と、聖書のような伝説をお持ちなのであった。

「空海は讃岐国の故郷と平安京を行き来する中で、小豆島に立ち寄って修行された、といわれています。八十八カ所を巡礼する現在のような形ができあがったのは江戸時代のこと。四国霊場とほぼ同じ時期にできた兄弟のような霊場なのです」(大林さん)

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小豆島はアートや美食、映画のロケ地などで知られる風光明媚な場所かと思いきや、意外に険しくストイックな歴史があった

一方で、座禅や瞑想など、動かずに行う修行もある。石段を下りて、本堂に向かうと、本堂はなんと岩の中にめり込んでいた……否、天然の洞窟に寄り添うように建てられていた。

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御本尊たる浪切不動明王が奉られた岩屋の本堂(鳳凰窟=ほうおうくつ)。崖の内側は天然の洞窟になっている


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岩は堂内にも

堂内にも壁からニョッキリと岩が突き出ている。洞窟の形に建築を寄り添わせた、昔の人の謙虚な気持ちがいとおしい。

天然の洞窟で焚く宇宙的な護摩修行

鳳凰窟の内部は広かった。受付所をはさみ、左右にはお地蔵さんたちがまつられる場がある。

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」

鳳凰窟の祈祷の場(中央)

暗い洞窟の壁にピカピカ光る星のようなものがあると思ったら、参拝者がくっつけていった硬貨だった。柔らかい地質の岩で、金属を押し付けるとめり込むのだ。

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こんなふうに硬貨がめり込んでいる

不動明王といえば、護摩(ごま)祈祷だ。煩悩(ぼんのう)の象徴である護摩木をさまざまな供物とともに燃やし、不動明王に大願成就をお願いする真言密教の修法である。

「昔は仏さまと一対一で向かい合って自由に祈祷ができるような場所はたくさんありましたが、全国的に見てももうあまり残っていないようです。古くからの祈祷の習慣が今も残るのは離島だからこそかもしれませんね」(大林さん)

祈祷所としての役割を色濃く残すこの寺では、毎日、護摩祈祷を行うという。東京都内では月一という寺も多いから、毎日という頻度はそれだけでも珍しい。洞窟の中は周りに燃えるものがないから火の始末が楽なのだそうだ。

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」

護摩祈祷では、「就職成就」や「安産成就」などさまざまな願いが書かれた護摩木の中から1つを選び、年齢と名前を書いて納める。これを聖なる火にくべてもらうのだ

とはいえ、目が慣れてくると見上げた洞窟の天井はススで一面真っ黒だ。数百年分のススだという。こんなところで火を焚(た)いて、一酸化炭素中毒は大丈夫なのだろうか?と思ううちに、「では、目を閉じて、手を合わせ、願いごとを胸のうちで唱えてくださいね。始めます」と声がかかる。

前には仏壇、後ろには祈祷台。真言密教の読経がろうろうと岩壁に響く。ほの暗い真言の宇宙に飲み込まれ、うっとりと聞きほれていたら、バチバチバチ! 背後で護摩木がはぜはじめた。うっ、背中が熱い。大変だ、かちかち山の気分だ。

絶景を堪能し、護摩祈梼の神秘に触れる 香川・小豆島の「碁石山」


災いを焼き払い、願いを成就させるお不動さんの聖なる炎が燃え、闇の中に火の粉が舞う

最後に、結界として区切られたひもの下に手を差し入れ、炎にかざしてもう1度お参りして護摩祈祷は終わった。どこからか、うっすらと風が吹いてくる。火を焚くと、いつもこうして風が吹き、新鮮な空気と入れ替わるという。

振り返ると、洞窟にまっすぐに差し込んでくる光が煙の中に浮かび上がっていた。まるで夜明けを迎えるような凛(りん)とした気配。今や数少ない山岳霊場の神秘的な一面がそこにあった。

小豆島霊場 第二番札所「碁石山」公式サイト
http://goishizan.com/

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PROFILE

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    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 矢口あやは

    ライター
    1983年大阪生まれ。旅行誌やカルチャー誌を中心に、国内外の歴史、文化、自然科学などのジャンルで活動。生物と山歩きが好きで2013年に狩猟免許を取得。今年の目標はヨットで相模湾横断。

「ヨーロッパでベスト」の評価も エストニア・タリンのクリスマスマーケット

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