クリックディープ旅

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

カナダの北極海を目指す、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編の最終回。前回は、イヌビクから旅の目的地である北極海に到着し、帰路にある街、フォート・マクファーソンまで来ました。今回はバンクーバーまで向かいます。結局、旅費はいくらになったのでしょう?

前回、再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5はこちら

(文:下川裕治、写真:阿部稔哉)

フォート・マクファーソンからバンクーバーへ

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6

『12万円で世界を歩く』(1990年刊)では、12ルートに挑んでいる。そのなかの北極海をめざす旅を再度進んだ旅も最終回。フォート・マクファーソンからバンクーバーまでを紹介する。

デンプスターハイウェーからクロンダイクハイウェーを戻ってホワイトホースに向かう。同じ道を戻ったが、日程に余裕ができたので、北極圏、そしてユーコン川流域の自然にゆっくりひたりながらの帰路になった。秋も終わりつつあるエリアから、しだいに秋ただなかへと季節を戻っていく。夜も長くなり、気温も少しずつ高くなっていく。そしてバンクーバーのビル群に戸惑うことになる。

今回の旅のデータ

クロンダイクハイウェー、そしてデンプスターハイウェーのネット事情はあまりよくない。僕らは携帯電波をWi-Fiに変換するルーターを持参していたが、車が走っている間はほとんどつながらなかった。もともと住む人が少ないエリアで、携帯電波が届かないところが多い。ただし村や街に入ると、その規模に関係なく、確実に電波を拾う。運転中、グーグルのナビゲーションは使うことができないと思ったほうがいい。レンタカーにカーナビはついていたが、使い勝手が悪く、精度も高くなかった。北極海へのドライブは、ネットやカーナビに頼らず、紙の地図ということだろうか。

長編動画

途中に北極圏の境界を挟み、帰路のデンプスターハイウェーを。未舗装の道は乾燥し、ときおりトラックとすれ違うと砂煙に包まれる道だ。

短編動画

レンタルした車を返す前日の夕方、ペリー・クロッシングのコイン洗車場で車を洗う光景を。こびりついた泥が落ち、ナンバーも見えてくる。こんな色の車だったのか……。

フォート・マクファーソンからバンクーバーへ「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
この日はイーグル・プレインズまで向かう。ホテルの予約も入れてあった。僕らはゆっくりドライブの帰り道だが、対向車はゆっくり走ってくれない。イヌビクまでの道を急ぐトラックが、迫力の走り。すれ違うと乾いた道から視界を遮る砂煙が舞い、小石が飛んでくる。その様子は長編動画でどうぞ。

Scene02

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
北極海をめざしていたとき、「Midway Lake」という表示を見た。気になったが、時間がなく通りすぎた。で、帰路で寄ってみると、毎年8月に開かれる音楽フェスティバルの会場だった。グウィッチンを中心にした先住民や旅行者が集まる。テントやバンガローに泊まり、先住民の音楽にひたる3日間をすごすのだという。誰もいない会場で、グウィッチンの音楽を想像している最中です。

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
このあたりは、朝夕、零下になるようだ。日陰の枯れ草についた氷は解けずに残っていた。秋ももう終わり。厳しい冬は、もう足もとに忍び寄っている感覚になる。いまいるのは、ノースウェスト・テリトリーズ。まもなくユーコン・テリトリーとの境界。北極圏エリアから遠のく感覚が、少し寂しい。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
ノースウェスト・テリトリーズとユーコン・テリトリーの境界に出た。周囲にはいくつもの地図があり、先住民のグウィッチンの居住区が示されていた。約30年前、北極海沿岸では油田開発が盛んだった。ゴルフ場まであった。しかしグウィッチンを中心にした先住民が反対し、いまは開発が止まっている。

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
イーグル・プレインズに着いた。約30年前、訪ねたのは6月で、蚊の大群に肌がぼこぼこになるまで刺されてしまった。途中の店で買った日本製の蚊とり線香が威力を発揮した。そこで今回、蚊とり線香を持参したのだが、1回も使うことはなかった。北極海ルートは9月がベスト。途中で会った中国人ツアーのガイドの言葉を思いだした。

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
僕らにとっては、イーグル・プレインズのホテルはオアシスだった。ここに泊まるトラックの運転手のように。しかしここまでやってくる観光客には別の目的がある。オーロラだ。このホテルは丘の頂にあり、空が広い。オーロラ鑑賞に都合がいい。僕はこれまで3回、北極圏に入っている。オーロラを見た? すべてふられている。今回も?

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
イーグル・プレインズのホテルのレストランには、壁からムースなどのはく製がぬっとつき出ている。周辺を切り開いた男たちが誇らしげに飾ったのだろうが、向きによっては、なんとなく目が合うような気になって落ち着かない。メニューを見ながら、ふっと見あげると……そこにムース。落ち着かないレストランです。

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
レストランに入った。翌日はきっと、クロンダイクハイウェーの途中にあるモーテル風宿に泊まる。そこではレストランは望めなかったからだ。クラシカルチキンバーガーを頼んだが、大量のフライドポテトに胸焼けする。カナダ人が大好きなバランス。これで14.5カナダドル、約1407円。レストランだからチップを加えると1600円ほどになる。ちょっとうなだれる。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
イーグル・プレインズの朝。気温が低く、霧も濃い。そのなかをピックアップトラックが出発していった。デンプスターハイウェーで、車を運転している男たちの大半は作業着姿。蛍光色のラインがついた作業着も多い。多くが道路の修復や橋建設などの土木作業に携わっているようだ。北極圏の道を維持することは大変なことだ。

Scene10

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
出発しようとホテルを出ると、僕らの車も霜に覆われていた。たった3日前にここを通過したが、それよりぐっと気温が下がっている。冬の気配が漂いはじめている。この宿は通年営業。マイナス30度にもなる冬、どんな状態になっているのか想像もできない。ここを頼りにするドライバーの割合はもっと増えるはずだ。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
デンプスターハイウェーからクロンダイクハイウェーに入った。途中のグラベル湖畔で、澄んだ水を眺めながら、いつも通りの貧相な昼食。湖手前から雨が降りはじめた。パンを頰張っていると小雨に。車に戻りながら、僕らが暮らす世界のエリアに入ってきたと感じた。北極圏エリアでは、雨というものの存在を忘れていた。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
前方にペリー・クロッシングの村が見えてきた。実は北極海に向かう途中、給油した村。ペリー川に沿った静かな村だ。スーパーが1軒だけあり、その横に洗車場もあった。聞くと、宿はスーパーの裏。同じ建物だった。ここに1泊することに。レジで宿代を払うと鍵をくれた。洗車場もスーパーのもの。つまりすべてをスーパーが受けもっていた。

Scene13

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
ペリー・クロッシングの宿の部屋を出ると、スーパー前のベンチしか行くところがない。村に暮らす男がやってきた。「タッチョーネ」だといった。先住民の一部族だ。仕事は森林管理。環境を守っているという。昔はサケをいくらでも取ることができたと懐かしがる。山で狩りをする銃声がした。彼の体がピクリと動いた。狩猟民族の血だと思った。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
ホワイトホースに戻った。空港前の駐車場に車を返した。洗車場で泥はきれいにとったつもりだ。レンタカーのオフィスは空港ターミナル内。鍵を返すと、走行距離を聞かれた。それで終わり。車はチェックしないの? なんだか肩透かしをくらったような気分だった。泥がついたまま戻してもいいとは思えないのだが。

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
ホワイトホースから飛行機でバンクーバーに。安いホテルを探したが、ツインで254カナダドル、約2万4638円が最低。高い。翌朝はサブウェイのサンドイッチをテイクアウトし、公園で食べた。屋外で食べたほうが落ち着く体になっていた。帰国までの総費用は24万7683円もかかってしまった。ホテル代の高さが響いた。

【次号予告】次回(1月15日配信予定)から中国。長江を船でさかのぼる旅がはじまります。
※取材期間:2019年9月15日~18日
※価格等はすべて取材時のものです。

■ 再び「12万円で世界を歩く」バックナンバーはこちら
■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら
■「玄奘三蔵の旅」バックナンバーはこちら

BOOK

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編6
12万円で世界を歩くリターンズ
[タイ・北極圏・長江・サハリン編] (朝日文庫)

リターンズ第二弾では、タイと隣国の国境をめぐり、北極圏を北上し、長江をさかのぼる旅へ、予算12万円で約30年前に旅したルートをたどる。さらに「12万円でサハリンに暮らす」ことにも挑戦。旅は、世界はどう変わったか?

朝日文庫
3月6日発売
価格未定

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【タイ・北極圏・長江・サハリン編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」カナダ北極圏編5

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再び「12万円で世界を歩く」中国・長江編1

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