あの街の素顔

オーベルジュか日本旅館か あこがれの料理宿に泊まる1泊2日の弾丸熱海旅

ここ5、6年ほど盛り上がりをみせ、活気を取り戻した温泉地・熱海。アンテナに引っかかりつつも「その気になればいつでも行ける」という心理的な理由で先延ばしにしていた私は、ついに旅立ちました。……と思ったら着いちゃった。新幹線「こだま」で東京駅から46分。成田空港へ行くより早いかも。熱海、近い。
(文・写真:江藤詩文、トップ写真は熱海城付近から望む熱海市街)

「ひらまつ」が手がけるリゾートホテル

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「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 熱海」の御影石のバスタブ。熱海温泉のお湯を利用しています

熱海に来たかった理由。それは、熱海という土地だからこそ味わえる美食を打ち出した「美食宿」の存在です。

その一軒が「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 熱海」。2016年10月、「ひらまつ」がこの地にオープンした、ヨーロッパと日本を融合したリゾートホテルです。「ひらまつ」といえば日本各地とフランスのパリで、フレンチレストランを中心にイタリアンレストランやカフェ、ウェディング事業などを手がけるレストラングループ。フランス料理を軸に置くレストランが手がけるホテルとは、どんなものなのでしょうか。

手入れの行き届いた日本庭園を抜けると、伝統的な日本建築が姿を見せました。数寄屋造りのこの建物にレセプション代わりとなるラウンジとダイニング、また、専用の露天風呂の付いた特別室が2室あります。

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本棟は「現代の名工」でもあった故・木下孝一棟梁の手によるもの。こちらはラウンジ

ゲストルームは、ここから海に向かって下りるようなかたちで配置されていて、13室すべてがオーシャンフロントというぜいたくさ。私が滞在したのは「2階ツインルーム」というテラス付き客室で、ドアを開けた瞬間に、洗練されたリビング&ベッドルーム、温泉のお湯をなみなみとたたえた浴槽、テラス、相模灘が一直線に連なって目に飛び込んできます。海外では、ベッドに横たわったままプライベートプールとその先の海を眺めるというシチュエーションを体験したことはありますが、日本にもこんなリゾートホテルがあったなんて。

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「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 熱海」の2階ツインルーム。バススペースには独立したシャワーブースがあり、壁に収納された扉を左右から引き出せばバススペースとリビング&ベッドルームを完全に独立させることも可能

日本と欧州の「いいとこ取り」 客室も料理も

客室も“日本とヨーロッパのいいとこ取り”のデザインですが、その特徴は、料理からも感じることができます。フランス料理というと“重くて苦手”という人もいらっしゃいますが、ここで味わえるのは、相模湾でとれた新鮮な魚介類をはじめ、地元の野菜などもたっぷりと使った、和のテイストも感じる軽やかなフランス料理。熱海の食材が、ヨーロッパと時差のない最先端の技術で美しく調理され登場します。

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ディナーコースの一品から、「伊勢海老とシャラン鴨の燻製(くんせい)のコンポジション フヌイユとマンゴー 海老味噌(みそ)のヴィネグレット」

ここでしか味わえない地元の食材も多く、一方でワインやチーズは世界中から厳選され、豊富な品ぞろえ。食後酒までゆっくり楽しみ、ほろ酔いになっても自室はすぐそこという安心感が心強い。

滞在中、居室では完全なプライベート空間を確保できますが、ディナーと朝食はダイニングでいただくので、ゲスト同士が顔を合わせることになります。訪れる前は「お客さんは世界中の星付き店を食べ歩いているような、富裕層のシニア夫婦が多いだろう」と予想していましたが、この日のゲストはアラサーからアラフォーが中心で思ったより若い。シニアのご夫婦、ミドルエイジのカップル、ひとり旅の女性、女性グループとバランスが取れていて、居心地よく楽しめました。

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朝食は洋食。フォアグラとトリュフが香る卵料理や焼きたてのパン、地元の温野菜やしぼりたてのフレッシュジュースなど。連泊するとメニューは変わります

とびきりおしゃれなリゾートなのに、自室のプライベートな温泉で身体をいたわることもできて、目の前に広がる相模湾の絶景とともに極上のフランス料理を味わえる。年代を問わないので、カップルはもちろん、母娘旅や3世代旅行の旅先にもぴったりです。

女性に大人気の日本旅館「熱海 ふふ」

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「熱海 ふふ」の大浴場は男女入れ替え制で2カ所。内湯、露天風呂、サウナがあります。湯上がりにはミニビールやコーヒー牛乳など冷たいドリンクのサービスも

もう一軒、今度は日本旅館を目指しましょう。高級日本旅館「熱海 ふふ」は女性に大人気のお宿です。熱海駅から車で約10分。來宮(きのみや)神社からも近い観光に便利な立地ながら、車寄せが敷地奥に引き込まれ、初川のせせらぎが外界との境界線になっているかのように、中に入ると外の世界から切り離されたような静寂に包まれます。

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客室「瑞(みず)」。奥がデイベッドのあるテラス、手前にテラスがもうひとつ、室内はソファセットの前にテレビやミニバー、デスクワークができるスペースもあり、各所に電源が設置されています

ゆったりとした敷地にゲストルームはたった26室。おひとり様もカップルも、どんな年代の人でも好みの部屋でゆったりくつろげるように、すべての客室がデザインの異なるスイートルームになっています。私が滞在したのは、ソファセットとツインベッド、デスクなどがすっきりと配置された「瑞(みず)」、部屋の両側にはウッドデッキテラスが付いていて、一方にはデイベッドも置かれています。テラスを開け放てば豊かな緑を風が吹き抜け、陽光がきらめいて開放感抜群。

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夕食は会席仕立ての日本料理または、カウンターでいただく鉄板焼きのどちらかを選びます。地元の食材はもちろん静岡の名酒もそろっています

驚きのバトラーサービス

「熱海 ふふ」が旅館好きな女性のあいだで一躍名をはせたのには、次の三つの理由があります。ひとつは自家源泉を持ち、豊富な湯量を誇る源泉掛け流しの温泉露天風呂が全室にあること。ふたつめは、季節を反映した美しい料理が、少量多皿でいろいろ味わえること。最後に、バトラーが付き、VIP待遇のサービスをしてくれること。

このバトラーサービスの充実ぶりがすごいのです。「固形石けんは……」「ございます」「低めの枕は……」「ございます」。とどめは「最近けっこう乾燥していますよね」と言ったら「加湿器とナノスチーマーをご用意しておりますが、どちらがよろしいでしょうか」と、驚くような返答が。というのもsisleyやロクシタンといった世界的に有名なブランドの質のいいアメニティーを用意しているほか、枕や寝具、家電、電子機器、ゲームにヨガマットやバランスボールまでそろっているのです。

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朝食、シャキシャキとみずみずしいサラダ、土鍋で丁寧に炊いたご飯、たっぷりだしを含んだ煮物やだし巻き玉子など、ほっこり落ち着くメニューが並びました

ほかにも、寝そべって源泉掛け流しのお湯を楽しめる寝湯のスペースを設けたり、バスルームにもテレビを備えたり、ミニバーがすべて無料だったり、ゲストの「あったらいいな」の声を各バトラーが丁寧に集めた結果、独自のサービスができあがったそうです。

ソファベッドの置かれたバーラウンジ、風が心地いいルーフトップテラス、大浴場といったパブリックスペースもありますが、みなさん客室を満喫しているのか、どこへ行っても混んでいたりにぎやかだったりすることがありません。それでもいつゲストが訪れてもいいように、バーカウンターにはバーテンダーが姿勢を正して待機し、大浴場の脱衣場はいつもピカピカ。

この隅々まで目が行き届いている感じは、日本ならではのおもてなし。海外の高級リゾートを経験された人ほど、ホスピタリティーにしみじみされるかもしれません。ひとり旅でも、気のおけない女友だちとの女子旅でも、もちろんカップルでも。至れり尽くせりのサービスに身を委ねてくつろぐとっておきの時間。

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「熱海 ふふ」のバーは、落ち着いた雰囲気のラウンジ「孝(たか)」と暖炉の火がロマンチックなテラス「月読(つくよみ)」の2カ所。熱海の花火大会の日はこのテラスから花火が見えるそうです

そうそう、総支配人の金丸泰之さんによると、「ふふ」というかわいい名前は、「女性が満足したり幸せを感じたりしたとき、『ふふっ』という幸せな笑みがひとりでにこぼれますよね。このお宿はそんな『ふふっ』をたくさんいただきたいと願って名付けました」とのこと。女性が満足する宿なのです。

眺望抜群、コレクションも充実 MOA美術館

さて、このあたりに行ったら立ち寄りたいのが、2017年2月にリニューアルオープンした「MOA美術館」。相模灘を一望する抜群のロケーションの“海の見える美術館”です。国宝の尾形光琳「紅白梅図屏風」をはじめ、日本美術を中心に国宝3点、重要文化財67点を含む約3500点を所蔵する美術館は見ごたえ満点。スケジュールにゆとりを持ち、しっかり時間を取るのがよさそうです。

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2017年2月にリニューアルオープンしたMOA美術館の設計を手がけた、現代美術作家・杉本博司氏 による映像アート「加速する仏」。三十三間堂の観音像のループする映像は異空間へと誘われるような神秘的な作品です

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MOA美術館が所蔵する重要文化財のひとつ『洋人奏楽図屏風(ようじんそうがくずびょうぶ)』。キリスト教とともにヨーロッパ絵画の題材や技術が日本にも伝わり、この作品は16世紀の桃山時代に日本人によって描かれました(展示は取材時。常設ではありません)

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MOA美術館には老舗オーベルジュ「オー・ミラドー」のテナントもありますが、おすすめは日本庭園のある「和食・甘味 花の茶屋」。立礼式(りゅうれいしき)で抹茶を味わえる茶室や、相模灘を一望するカフェなどもあります

天然記念物のご神木も 來宮神社

熱海郷の地主の神をまつる來宮神社には、国指定天然記念物のご神木『大楠』があります。こちらは午前中の参拝がおすすめです。

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來宮神社は、由緒ある一方で、若い人にも門戸を開いたおもてなしで有名。カップル向きのこんなインスタスポットや自撮り用スマホ置き台、直営のカフェではインスタ映えするスイーツやドリンクも提供しています

■取材協力
ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 熱海
http://www.hiramatsuhotels.com/atami/

熱海 ふふ
https://www.atamifufu.jp

MOA美術館
http://www.moaart.or.jp

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江藤詩文

    トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。

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