京都ゆるり休日さんぽ

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

年の瀬の京都。錦市場や商店街は年迎えの準備にいそしむ人々でにぎわいます。今年最後の記事でご紹介するのは、そんなあわただしい師走(しわす)の街でも、変わらずに時を刻み続ける寺町通の商店街にある喫茶店「スマート珈琲(コーヒー)店」。暮れは大みそかまで、年始は1月3日から営業しているこの店は、年末年始の気ぜわしい心をスッと日常に呼び戻す、京都人の「いつものコーヒー」です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

創業以来、変わらぬ姿を守り続けて

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

階段や焙煎(ばいせん)機周辺に置かれた大きなコーヒー缶。さびて年季の入ったものからピカピカの新品までずらりと並ぶ

コーヒーを片手におしゃべりを楽しむカップルのロゴ、あちこちに置かれた赤いコーヒー缶、木とれんがを基調にした山小屋のような温もりのある内装……。いつ訪れても変わらない、スマート珈琲店の風景です。築150年を超える建物は、補修のため昨年秋に改装。けれど、どこを見渡してもなじみ深い店のたたずまいが残されています。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

ガラス張りのドアからはドイツ製の焙煎機・プロバットがのぞく

「この空間はうちの財産ですから。改装は主に厨房(ちゅうぼう)と老朽化した箇所の補修。内装は極力変えずに、いい形で受け継いでいきたいんです」。そう語るのは、オーナーの元木章さん。祖父が創業したこの店で物心ついたときから焙煎(ばいせん)や雑用を手伝い、24年前に経営を引き継ぎました。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

歴代のマッチ。「完全冷房」と書かれた水色のマッチは、いち早く冷房設備を導入していたことを物語る

洋食レストランとして1932(昭和7)年に創業し、戦後、食料品の入手が困難だったことから喫茶店へと転身。当時から店頭の焙煎機でオーナー自ら焙煎するスタイルだったそうです。朝は焙煎の煙が商店街を抜けて御池通りの方まで漂い、その香りに誘われてやってくるお客様もいるとか。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

外はカリカリ、中はとろけるように柔らかい「フレンチトースト」(700円)。ミルク液に一晩浸し、直前に卵をまとわせ揚げるように焼き上げる。コクと酸味のバランスが良く、すっきりとした後口の「珈琲」(単品550円、セットで50円引き)と

自慢のブレンドも、ネルドリップも、看板メニューの「ホットケーキ」や「タマゴサンドウィッチ」も、喫茶開業時から変わらぬまま。人気の「フレンチトースト」は、お客様の声から生まれました。20年ほど前、店の原点である洋食レストランも再開し、「スマートランチ」として親しまれています。

旅の人も京都人も、いつもの味で“お迎えする”

「午前中は観光のかたがモーニングに来られて、夕方からは常連さんが多くなります。土日はその逆。年末年始は、地元のかたが買い物や初詣の帰りに立ち寄ってくださる。これも毎年の光景。観光客のかたと地元のお客様と、どっちかに偏ってはだめなんです。このバランスが大切だと思います」。そう元木さんは話します。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

スイスの山小屋をイメージして作られたというウッディーな内装

旅の人と京都人が同じ空間で時を過ごす。年々観光客が増える京都で、旅と日常が共存する街の文化を守り続けていられるのは、どんな秘密があるのでしょう。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

焙煎機を動かす元木さん。「豆は生き物。状態を見て、焼き具合や配合を変えることで同じ味を保っています」

「催事などに出店したり新しいことを始めたりするのではなく、いつも通り“お迎えする”という気持ちでやっています。スマートの味を覚えていただいている人を、京都のこの場所でお迎えする。コーヒーもホットケーキも、毎日同じことをやっていても同じ味になりません。素材や気候で状態が変わるので、いつもの味にするためには毎日少しずつ変えるんです」

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

「タマゴサンドウィッチ」(750円)はほんのり塩気のある卵にカラシがどこか懐かしい味わい。20~30秒で一気に焼き上げるのがふんわり食感のコツ

京都を旅する人には歴史と文化を、いつものお客様にはいつもの場所でいつもの味を。変わらない空間と変わらない味を提供するために「変える」手間を惜しまないからこそ、誰にとっても居心地のよい時間がここには流れています。

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

カップルのロゴは初代が発案したもの。照明や木のレリーフも創業時から変わらぬまま

2020年、スマート珈琲店は創業88年を迎えます。いつものように焙煎機を動かしながら、元木さんは笑います。
「やっと100年が見えてきたところです。京都ではまだまだ老舗とは言えませんが、僕が元気で続けて100周年を迎えられたらひと区切りですね」

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

店名の「スマート」には「気の利いたサービスをできる店を目指して」という意味が込められている。付かず離れずの気の利いた接客が居心地のよさを生んでいる

スマート珈琲店
http://www.smartcoffee.jp

BOOK

年の瀬も新年も。いつものコーヒーで迎えてくれる京都の純喫茶「スマート珈琲店」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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