永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

時間をめぐる不思議な感覚 永瀬正敏が撮ったニューヨークの地下鉄

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。ニューヨークの地下鉄でこの光景を見かけた永瀬さんは、時間をめぐる不思議な感覚にとらわれてシャッターを押したというのです。

時間をめぐる不思議な感覚 永瀬正敏が撮ったニューヨークの地下鉄

©Masatoshi Nagase

まるで映画のフィルムのコマの中に収まったかのような、ニューヨークの地下鉄の駅。
黒く見える柱と明るい部分とが、陰と陽をなしている。でも、この時僕がこの写真を撮ったのは、視覚的効果のおもしろさからだけではなかった。

ホームに着いた電車から降りてきた人たちは、出口へ向かいどんどん進んでその車両を追い越して行く。家族連れもいれば、1人で歩いている人もいる。でも、そのうちあっという間にその人たちは、この電車に追い抜かれてしまう……。
もちろん走り出した地下鉄の車両は、この写真には収まっていないが、僕にはこの時さまざまな想像や思いが、なぜか浮かんでいた。何げない日常の、何げない一瞬から。

流れる同じ時間が、人により、場所により、モノにより、違うように感じられてきて、向かい側のホームに立っていた僕はそれがいいな、と思ったのだ。
時の観念というか……それが一つのフレームの中に収まればと、シャッターを切った。

この写真のちょうど真ん中ぐらいに、窓から顔を出している方がいる。この人がいなければもっと冷めた感じの写真になったかもしれない。僕の正面にこの人がいたのはもちろん偶然だ。でも、ファインダーをのぞいていたら、こういう写真を撮らせてもらえた、ということが、往々にしてあるのだ。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(40)この光景を、撮らざるを得ない自分がいた マンハッタンの永瀬正敏

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