永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(42)アダム・ドライバーとの距離が刻まれてた 永瀬正敏が撮ったパターソン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。米ニュージャージー州で撮ったこの写真は、出演映画「パターソン」のロケ地の一つ。無意識のうちに、主役のアダム・ドライバーさんとの距離感を刻み込んでいました。

(42)アダム・ドライバーとの距離が刻まれてた 永瀬正敏が撮ったパターソン

©Masatoshi Nagase

アメリカ・ニュージャージー州パターソンにある、バス保管庫のような施設だ。ジム・ジャームッシュ監督の映画「パターソン」の撮影でこの街に来た時に撮った。主人公のバス運転手・パターソンを演じるアダム・ドライバーさんが、ここへ出勤してバスに乗って出発する、という設定だった。

撮った時は、外の明るさと中の暗さ、建物のドライな感じと、暗い中にライトがついたバスがあるウェットな艶(つや)感がいいと思ったのだろう。僕が演じた日本から来た詩人は、この場所で撮るシーンには出演しないけれど、役と同じような感覚で、街をぶらぶら歩いていて、偶然ここに来た。

映画の中で詩人は、パターソンが運転するバスには乗らない。水辺のそばで彼と偶然会い、同じベンチに座ってしばし会話し、去っていく。彼がバス運転手だということも、話す中で初めて知る。

改めてこの写真を見ると、詩人の距離感で撮っているな、と思う。格好いい建物だったので、旅行者の気分だったら全景を入れただろう。さりとて、建物の中まで入っていくほど親しいわけでもない。パターソンとの距離は、映画撮影で彼に会った時初めて縮めたいと、無意識に感じていたのかもしれない。

バックナンバー

>>連載一覧へ

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(41)時間をめぐる不思議な感覚 永瀬正敏が撮ったニューヨークの地下鉄

一覧へ戻る

(43)切なさに満ちた芸術家の台所 永瀬正敏が撮ったマンハッタン

RECOMMENDおすすめの記事