ぶらり ぬい撮り ひとり旅

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

ライター熊山准さんのアバターぬいぐるみ「ミニくまちゃん」の旅をお届けする連載「ぶらり ぬい撮り ひとり旅」。今回は新潟県・粟島(あわしま)の後編をお送りします。日本海側には無数の夕焼けスポットがありますが、粟島の仏崎展望台もそのひとつ。しかし! 仏崎展望台は集落から遠く離れています。交通手段が乏しい名勝にどうやってたどり着くのか?  そう、徒歩です。前編はこちら

【動画】仏崎展望台からの絶景を上から撮ったよ

人口339人、周囲わずか23kmのコンパクトな島・粟島……と言ってもそれはバスや自転車で巡ればの話。歩きとなれば話は別です。しかも決して平らではなくけっこう起伏の多い地形。なおかつミニくまちゃんが気になる、島イチオシの夕焼けスポット「仏崎展望台」は集落から遠く離れています。夕日を見ることを考えると、日が沈む午後5時を過ぎればバスの運行もほぼ無くなり、レンタサイクルの貸し出し時間も終わってしまいます。宿を取った島の南西部に位置する釜谷からは往復すると10km超。「これ、どうすんのよ……」と自問しつつ、答えは即座に出ていました。「歩くしかねえ」

まずはコミュニティーバスで下見へ

お目当ての夕日を見る前に、日中はコミュニティーバスに乗り込み偵察しておきましょう。コミュニティーバスには「県道ルート」と、主に島の北半分の観光スポットを巡ってくれる「北回り観光ルート」の2種類あります。先ほど乗り込んだ「北回りルート」は1日に釜谷発、そして島の中心部で、釜谷から見て島の反対側に位置する内浦発がそれぞれ1本ずつ(2019年)。出発15分前までに予約が必要です。なおかつゴールデンウィーク前後から10月31日までの期間しか運行していませんのでご注意ください。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

釜谷集落から出発して最初の停留所は「釜谷キャンプ場・海水浴場」。ここは作家の椎名誠が『わしらは怪しい探険隊』で野営したという「聖地」ではありませんか。基本的に岩がゴロゴロしてて、今どきのオートキャンプ場とはかなり様相が異なるようです。

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美しくも荒々しい海岸線が連続します。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

バスだと20分程度でバス停「仏崎展望台」に到着。ちなみに北回りルートは観光目的で設定されているため、運転手さんの細やかなガイド付き。なおかつ見どころは停車したり、ゆっくり走行したりとサービス満点です。

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もうひとつの名勝・八ツ鉢展望台。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

あっという間に内浦地区に到着。晴れていれば遠くに秋田・山形にまたがる鳥海山(ちょうかいさん)も望めます。あのふもとの象潟(きさかた)には夏でも食べられる生ガキがウジャウジャしてるのよね〜。

これが午前中のお話。終点の内浦(島の中心部)で、観光や食事を楽しみつつ日没時刻を待ちます。

歴史を感じる内浦の観光スポット

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

前編では内浦のグルメスポットをご紹介したので、後編では内浦の観光スポットを。こちらはフェリー切符売場すぐ裏にある弁天岩。池のようですが実は海です。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

内浦地区に残る、美しいなまこ壁。

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「信仰の島」とも呼ばれる粟島。海上交通や情報伝達が今ほど発達していなかった時代、島民は災害が起きれば祈りを捧げることしかできませんでした。そのため今なお「海の神様」「風の神様」「山の神様」などあらゆる事象を神様とあがめているそう。大風が吹くと、島民が船の安全を祈るために訪れるという「風の三郎様」もそのひとつ。

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島の女性が妊娠すると、乳が多く出るように祈りに訪れるという乳入観音。

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粟島の氏神・八所神社。

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昔から本土側から粟島に向かって沈む夕日がたいへん美しいため、極楽浄土の入り口と考えられたそう。そのため生前に徳を積んで極楽浄土に行くべく、粟島に梵字(ぼんじ)を彫った板碑(いたび)が数多く建立されたとか。特に内浦地区には140基以上の板碑が密集していて、1989(平成元)年に県の登録有形文化財に指定されました。観音寺周辺には板碑が数多く集まり、神秘的な雰囲気です。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

ちなみに今宵(こよい)訪れる「仏崎展望台」の由来は、岬の海底から観音像が発見されたから。ヤスで突いてあがった仏像「ヤス突観音」が奉納されているのがこちら観音寺なのです。

夕日に向けて、さあ出発

そうこうするうち、時刻は夕方。ふたたび釜谷に向かうコミュニティーバスに乗り込みます。しかし、午前中に乗車した「北回り観光ルート」はこの時間だと既に運行が終わっているので、釜谷から内浦をほぼ直線で結ぶ「県道ルート」に乗るしかありません。この「県道ルート」では、「遊歩道入口」バス停が最も仏崎展望台に近いので、そちらにて下車。

道順自体は昼間訪れていれば一目瞭然。スマホの地図で確認しながら歩けばまず間違えようがありません。もっとも展望台まではアップダウンもあるつづら折りの山道。途中から日本海も見下ろせるため気分よく歩けるものの、海岸線に沿ってくねくね曲がるためなかなか展望台にたどり着けません。がっつりウォーキングする気持ちとお足元で臨まないと心が折れます。

またリタイアしたくなっても、夕暮れ時ともなると車はまず走っていないので、簡単に助けを呼ぶこともできません。体力に自信のない方は要注意!

普段登山をたしなんでいるミニくまちゃんとはいえ、舗装された道の硬さゆえ思いのほか足にきました。海水浴シーズンなんかは、昼間海で泳いで夕方歩くとなるとマジでぐったりすること請け合いです。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

「遊歩道入り口」バス停からつづら折りの山道を3.2km、40分ほど歩き、ようやく展望台にたどり着きました。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

昼間とはまた違った表情を見せる仏崎の夕映え。島民のドライブや、宿の送迎でもない限り独り占め!

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

極楽浄土の夕焼けやで〜。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

ふと南西を見やれば淡いグラデーションに浮かぶ佐渡島。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

ありがたやありがたや。ここまで頑張って歩いてきたからこそ感慨もひとしお!

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

問題はこの後です。来た道を帰るだけですがミニくまちゃんが泊まっている釜谷まで5.5km、多くの人が宿を取る内浦にいたっては7.5kmもあるようです。しかも街灯はなし。なるべく日没後の薄明るい時間帯に出発しつつ、ライトも持参しておきましょう。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

日が暮れると夏でもひんやりするので酒でも飲みながらのんびり帰るとしますか。

極楽浄土の夕焼けを見たくて、計10キロ歩いてえんやこら 新潟県・粟島(後編)

帰りが遅いので民宿から電話が入る始末。でもおかげできれいな星空も見られました。

島一番の夕焼けスポットなのに、夕日を見られる時間帯にはアクセス手段は徒歩のみというハードな環境ですが、それだけに忘れがたい思い出にもなり、また高確率で夕焼けを独り占めできる粟島の仏崎展望台。個人的にはここを観光資源にして送迎&お弁当付きのツアーにしちゃえばいいのにと提案したいほどです。

さて前後編2回でお送りしてきた粟島旅。小さい島ゆえ飲食店や宿、交通手段が整っているとは言い切れませんが、それだけに観光地化されていない素朴な島旅が楽しめます。実際、ミニくまちゃんはリピートする所存。それもこれも二夜にわたって素晴らしい夕焼けを見せてくれたから。極楽浄土に歓迎されているのかも?

■粟島観光協会
https://awa-isle.jp/

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PROFILE

熊山准

ライター/アーティスト
1974年、徳島県生まれ。北海道・沖縄の大学生活からリクルートを経て、2004年「R25」のライターとして独立。IT、ガジェット、恋愛、旅、インタビューなどさまざまな分野・媒体での執筆のほか、自らのアバターぬいぐるみを用いたアート活動を行う。第1回妖怪そっくりコンテスト境港市観光協会長賞、2015年マレーシア・サバ州観光大賞メディア部門・最優秀海外記事賞。ライフワークは夕焼け鑑賞。

誰にも邪魔されない夕焼けスポットを目指せ! 新潟県・粟島(前編)

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