カメラと静岡さとがえり

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第8回は、静岡市の宿泊可能な喫茶店「ヒトヤ堂」を紹介します。ゲストハウスといえば、偶然居合わせた他の旅人たちとワイワイ……というイメージがありますが、ここヒトヤ堂は1人ひとりが好きな時間を過ごせるようにとの思いが込められています。日本のほぼ真ん中・静岡市で、ノスタルジックな空間に浸るのんびり旅はいかがですか?(トップ写真はヒトヤ堂のカウンターに座る村松佐友紀さん)

フォトギャラリーはこちら

喫茶店とゲストハウスを一緒に

静岡駅から歩いて10分足らず、ヒトヤ堂の扉を開くと、カウンターには外国人とおぼしき若い女性と、近所のおじいちゃんが隣り合って座り思い思いに過ごしていた。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

喫茶店のみの利用も可能だ。モーニングセットはドリンクとトーストセットで500円から

テーブルには純喫茶のモーニングらしいコーヒーと厚切りトースト。コポコポと音を立てるサイホンからは、芳醇(ほうじゅん)なコーヒーの香りが漂う。「この間はフランス人のゲストと近所の方が片言ながらも楽しくおしゃべりしていましたよ」。この日喫茶店のカウンターに立っていたスタッフの小島有加さん(27)が教えてくれた。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

コーヒーの淹れ方は以前の喫茶店店主から教わった

ここヒトヤ堂は、喫茶店を併設したゲストハウスだ。切り盛りするのは3人の女性。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

右から村松佐友紀さん、小島有加さん、そして新しく仲間に加わった富永由希野さん(後述)。「地元の方にも居心地良い場所にしたい」と話す3人

発案者は村松佐友紀さん(27)。東京に住んでいた大学時代、海外旅行の際はゲストハウスを利用していた。そんな自身の経験から自分でゲストハウスをやってみたいと思っていたと言う。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

「村松は人との距離感をはかるのが上手」と小島さん

当時同級生だった小島さんと進路について話していた時、初めて打ち明けてみたそうだ。小島さんも面白いアイデアだなと興味は持ちつつも、最終的にはそれぞれ別の道へ就職した。2人とも会社員として数年経験を積んだのち、近況を報告しあうという目的で再会。そこで様々なタイミングがバッチリとあい、ずっと胸に抱いていたゲストハウス開業のプロジェクトが動きだした。

理想の物件、静岡で出合った

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

外観もみんなで手がけた

開業するのは、何でもそろう東京ではない場所がよかった。様々な場所を訪ね歩いた2人は、村松さんの出身である静岡市で心惹(ひ)かれる物件に巡り合う。純喫茶「珈琲舎・茜」だ。当時の店主は引退を考えていた。旅行者も地域の人も集える空間を作りたかった村松さんたちにとって、直感的にここだ!と感じた。小島さんは東京から静岡へと移り住んだ。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

「珈琲舎・茜」から受け継いだ鳩時計は現役です

「茜」の店主から店舗を譲り受け、「ヒトヤ堂」への改築・増築が始まった。純喫茶の雰囲気は残したまま、2階に男女共用のドミトリー12ベッド、個室1室の宿泊施設を、半分は自分たちで作り上げた。

喫茶店の店内

ふと喫茶店のお客さんが途切れた静寂の時間

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

ドミトリースペース。掃除が行き届いている

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

3人まで泊まれる個室

さて開業してみたものの、懸念があった。そもそも静岡県は富士山は有するものの、大都会「東京」と一大観光地「京都」に挟まれている。果たして需要はあるのだろうか……。

それが、あった。実は旅行の通過地点として訪れる人が多いというのだ。京都でお寺や日本文化を満喫した後に、大都会東京のスピード感を体感した後に、小休憩も兼ねて静岡へ降り立つ。「前知識なくいらっしゃるみたいで。だからちょっとした出来事も大きな満足感につながるようです」と村松さんたちは笑う。

朝の喫茶店

ゆったりした時間が流れる朝

心がけるのは、ゲストに合わせたサービス提供

静岡駅前はにぎやかで徒歩でも回れる程よい大きさ。老舗や個人商店も多いことがさらに街歩きを楽しくさせる。飾らない日々の暮らしがそこにはあって、外国人はもちろん、ふとしたきっかけで立ち寄った日本人でさえも魅了するようだ。

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

小島さんお手製静岡ガイド

「満足度のためにサービスを増やそうとしても私たちではできることに限界がある。だから周りの飲食店やちょっとした散策におすすめの場所を紹介するんです。そうすると、ゲストが出会える人も出来事も増える。私たちは居心地がよくて清潔な寝床を提供する。それが一番ゲストの満足度が高く、静岡の街にとってもいいことなんだとだんだんとわかってきました」と村松さんは語る。それぞれのプロが、訪れた人たちをおもてなしすることで、リピーターになってくれたり、口コミを書き込んでくれたりして新たな人の流れが生まれる。

口コミをチェックする

「宿泊業は口コミがとても重要」と語る村松さん

でも気をつけていることもある。「ゲストハウスだからって無理に人との距離感を詰めなくたっていい。疲れている人もいるし、話したくない日もある。だから何か求められれば答えますが、こちらからここがいいですよ、あれを食べに行って下さいとは決して言いません」。ゲストハウスの間取りを考える際も、人が集えるのはもちろん、1人になりたい人が安心できるスペースを作るよう心がけた。すべては村松さん自身がゲストハウスを使って海外を旅した体験から来ている。

ラウンジ

宿泊者のためのラウンジには、本棚や1人の時間を過ごすのにちょうどいいカウンター席もある

予想外の面白さがある街の、泊まれる喫茶店・ヒトヤ堂

ゆったりしたスペースがとられた洗面所

歩いて気づく、身近な街の新たな面白さ

ヒトヤ堂の周りを散策してみた。老舗のお茶屋では抹茶の濃さが7段階選べるジェラートが売られていた。「世界一濃い抹茶ジェラート!」といううたい文句に、どれだけ苦いんだ?と挑み心がうずく。

ななや外観

老舗のお茶屋が運営する、抹茶ジェラートが有名な「ななや」

取材に訪れたのは2019年の7月。歩いていける駿府城公園では夏らしい緑のもみじが揺れていた。昔ながらの商店街、駒形通りは地元の人の台所。地元ならではの食があふれ、素顔の人々の暮らしがある。訪れた海外からのゲストは「こんな日本知らなかった!」と興奮気味に帰ってくることもあるそうだ。近くには静岡おでんで有名なおでん街、ハシゴできるほどクラフトビール専門店もふえている。

クラフトビール店

「クラフトビール初心者も楽しんでいただけるよう心がけています」とクラフトビール専門店「HUGHOP」店長の鈴木さん

「これは楽しい……」。浜松で生まれた私でさえもそう思った。

そんな2人に新しい戦力が2020年の始めに加わった。かつて村松さんの同僚だった富永由希野さん(29)だ。ヒトヤ堂のあるすぐそばで生まれ育った富永さん。プロジェクトが動き始めた頃から手伝っていた。「自分の生まれた街、静岡市が好きなんです」。富永さんは言う。「住むにはいい街って実は観光にも楽しい街なんだって気づきました。この街の魅力や文化を守りたいし、発信していきたい」

スタッフ

スタッフ3人の個性のバランスがとても良いそうだ

3人の女性が試行錯誤しながら作り上げているゲストハウス・ヒトヤ堂。純喫茶に魅せられた写真好き女子学生から、コーヒー片手に熱心に御朱印帳を眺めるおじいちゃん、お茶を愛する外国人がふと訪れる。誰に対してもつかず離れずの接客が心地よい。かつて東海道の宿場町だったこの界隈(かいわい)に、今宵(こよい)もヒトヤ堂の明かりがともる。

フォトギャラリーはこちら

ヒトヤ堂
https://hitoyado.com/

抹茶のお店「ななや」
https://nanaya-matcha.com/

クラフトビール HUGHOP
https://hughop-shizuoka.owst.jp/

泰平 HPなし
静岡県静岡市葵区両替町2丁目3−11
15:30-21:00

■バックナンバーはこちら

PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

浜松に「幸楽」あり!  至福のとんかつ

一覧へ戻る

魚好きを大満足させるまち 焼津市

RECOMMENDおすすめの記事