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1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

スイスで5つ星ホテルを泊まり歩き、鉄道の1等車で国をぐるり1周する――。&TRAVEL副編集長が2019年8月から9月にかけて、そんな旅をしました。思わず口走った妄想がタナボタのように実現してしまった結果なのですが、字面は夢のようなこの旅も、出かけてみれば山あり谷あり。写真家の猪俣博史さんと二人三脚で巡った9日間の珍道中記、初回はチューリヒ空港からポントレジーナまでです。
(文・動画:&TRAVEL副編集長・星野学 写真・猪俣博史、トップ写真はスイスに近づく搭乗機)

【動画】チューリヒ空港内を移動するための「スカイメトロ」

第2回<世界遺産の360°ループ>はこちら。
第3回<揺れる車内で酒を注ぐ神業>はこちら。
第4回<涙して見上げたマッターホルン>はこちら。
第5回<フレディ・マーキュリーの部屋に?!>はこちら。
第6回<絶景ワインヤードでクラクラ>はこちら

実現してしまった夢の旅

旅のきっかけは2019年の4月にさかのぼります。私がスイス政府観光局のメディアマネジャー・押尾雅代さんを訪問した際の会話でした。「スイスといえば絶景鉄道が有名ですね。1等車に乗って景色をさかなに酒をのみ、最高級ホテルをハシゴしてうまいもの尽くし。そんな取材旅のコーディネートをお願いできたら夢のようです」。スイスへ行ったことのない私は、行ったらしてみたいことを思いつく限り並べたててしまいました。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

2日後。押尾さんからメールが届きました。5つ星ホテルの名前や特急のルートまで記入された、航空機での往復も含めて9日間のスイス旅企画書です。うおおお、マジ?! スイスの威信をかけたかのような内容に私は奮い立ち、「これは後には引けない」と、小田実さんばりの「何でも見てやろう」精神が頭をもたげてきました。

渡航時期は8月末に決定。英語での取材が軸になりそうだったので、英語が話せる写真家・猪俣博史さんに同行をお願いし、8月24日午前10時10分成田発のチューリヒ行き「スイス インターナショナル エアラインズ」機で、いざ出発!

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

成田空港で両替して手に入れたスイスフランの新札。小ぶりのお札で、しかも縦、というのが新鮮

約12時間後、現地時間の15時半すぎ、チューリヒ空港に到着。到着ゲートのある建物から自動交通システム「スカイメトロ」に乗って、鉄道駅のある建物「エアサイドセンター」へ向かいます。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

スカイメトロに乗る私(右端)。ほかのお客さんが乗り終わるまで、脇に寄って待っていた

鉄道乗り換えは楽々、わかりやすい掲示板

出口を抜けると、スイストラベルシステムのアンドレアス・ネフさんが迎えてくれました。「チューリヒ空港は機能的にできていて、わかりやすいですよ」とネフさん。確かに、列車のアイコンを頼りに歩き、エスカレーターを降りると、そこはもう鉄道のプラットホームでした。私たちは日本から1等車乗り放題の「スイストラベルパス」を持参していたので、途中階で切符を買う必要もありません。乗るべきは、16時18分発の都市間特急インターシティー(IC)です。座席指定はないので、1等車が止まる場所さえわかればいいのですが、ホームの電光掲示板が、実にわかりやすい。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

「1等車と2等車がホームのどこに止まるか一目でわかります」と教えてくれるネフさん(右)

よっこらしょ、と、荷物を持ち上げて乗った1等車は、モダンな内装の清潔でゆったりした空間で、いすのクッションは快適でした。インターシティーでの移動は、約10分後にチューリヒ中央駅で乗り換え、途中のクール駅まで、1時間半あまり。このいすなら、おしりが痛くなる心配はなさそうです。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

インターシティーの1等車

列車が走り出すと、ネフさんが、「はい、これ」と、二つのものを差し出してくれました。金属製の水筒に入った水と、スイス産のチョコレート。「水筒に入っているのはスイスの水道水です。飲めますので安心してください。チョコレートがスイス名物なのはご存じですね」。確かに、乾燥した飛行機内で半日過ごした後だったので、のどはからから。甘いチョコレートを食べれば元気も出そうです。ネフさんの心遣いがうれしく、ぐびぐび水を飲みながら、減量中にもかかわらずチョコをあっという間に完食しました。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

ネフさんにいただいた水入りの水筒とチョコレート

山と湖が織りなす絶景

12時間ものフライトの後とあって、当初、この日は「移動日」と割り切って、景観に注意を払っていませんでした。ところがどうでしょう。チューリヒ中央駅を出て間もなく、進行方向左手の車窓いっぱいに、湖が見えるではありませんか。チューリヒ湖です。山の緑と湖の碧(みどり)があやなす自然の美に、思わず、「おお」と声がもれます。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

美しいチューリヒ湖

【動画】車窓から眺めるチューリヒ湖

私も猪俣さんもスイス初体験ということで、ネフさんがレクチャーをしてくれました。スイスの面積は九州よりやや小さい、ということは知っていましたが、「人口800万人あまりのスイスに公用語は四つあります。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語です」。国民の63%がドイツ語を話し、フランス語は23%、イタリア語は8%、ロマンシュ語は0.5%とか。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

移動中の車内でネフさんからレクチャーを受ける私

そして、鉄道網の充実。「スイスでは毎日100万人が鉄道を利用しています。鉄道こそがスイスを旅する手段なのです」とネフさんは語ります。アルプスを縦断する全長57キロの世界一長いゴッタルドトンネルが2016年に開通したことで、チューリヒからイタリアのミラノまでは従来の4時間から3時間弱に短縮されるなど、ますます便利になった、とのことです。

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インターシティーに連結されているキッズルーム付き車両

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

自転車も積めます。なかなか豪快

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

車窓からの眺めは、まるで一幅の絵のよう

チューリヒ湖に続いてヴァレーン湖の脇を抜けて、インターシティーは予定通り17時52分に、クールに到着しました。外国を旅するときに悩ましいのは、鉄道など移動手段が必ずしも時間通りに運行してくれないこと。でも、これなら苦労はなさそうだと、ほっと一息です。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

アンドレアス・ネフさん

「スイスの鉄道運行は正確ですよ」と、ネフさんも鼻高々。ここまではスイス連邦鉄道(SBB)の路線で、ここからポントレジーナまでは私鉄に乗り換えます。ネフさんとは、ここでお別れです。

乗り換えた列車が、突然……

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

クール駅で列車を乗り換える私

窓の外を見ると、ネフさんが手を振っています。私たちも手を振り返すと、列車が静かに動き出しました。ああ、お別れだな……とちょっと切ない気分になっていたのもつかの間、突然、ガクッと音を立てて列車が止まり、客室の照明も消えてしまいました。

「???」

車内アナウンスも特にないので、何が起きたのかわかりません。信号待ちではなく車両の調子が悪いんだろう、と見当はつくのですが……。数分後、照明がついて動き出したものの、間もなくガタッと停車。スイスの鉄道は正確だ、と喜んでいたのがウソのように、不安でいっぱいになります。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

クールで乗り換えた列車の中

ネフさんが私たちの席に来てくれました。鉄道スタッフに状況を聞いてくれたようで、「エンジンの調子が悪いみたいだ。でも大丈夫。すぐに動き出すと思う」と伝えて、また列車を降りていきました。え、でも、エンジントラブルってそんな簡単に直るの? しばらくして、また動き出して、ガクッ。そしてもう一度動き出すと、今度はすーっとスピードが上がりました。結局、9分遅れてのクール駅出発となりました。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

不安をよそに、窓の外はまたしても一幅の絵のよう

ただ、スイスをぐるり1周するこの旅で、1分以上列車の運行が遅れたのはこの時だけ。帰路、空港に着いたときにそのことに気づいて、立派なものだなあ、と、思い直したのでした。

最後の乗り換えはできるのか?

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

サメーダンまでは、牧歌的な風景が続いた

さて、無事に走り出したものの、一つ懸念がありました。この列車は当夜の目的地、ポントレジーナ駅までは行きません。途中のサメーダン駅でもう1度乗り換えねばならないのです。この列車がサメーダンに着いてから、ポントレジーナに行く列車が出発するまで7分。すでに9分遅れですから、乗り換えるはずの列車は、おそらくホームにいないでしょう。

ネフさんは「困ったらホテルに電話したらいいよ」と言っていましたが、さて……。猪俣さんと相談して、ともかく、サメーダン駅まで行ってみて、乗るべき列車が行ってしまっていたらその時考えよう、ということになりました。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

険しい山が迫り来るよう

私たちが乗っている列車は、後日乗る予定の絶景列車「グレッシャー・エクスプレス」と同じ路線を走っています。ポントレジーナまでは撮影の下見をするつもりだったのですが、それどころではありません。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

慌ただしい中にも、しっかり見どころを撮影してくれていた猪俣さん

どこに何があるかもろくに確認できないまま、サメーダンに着くと、何と、乗るべき列車はまだホームに止まっていました。翌日同行してくれたガイドさんが「15分くらいの遅れなら列車は待っててくれますよ」と教えてくれたのですが、見知らぬ土地でトラブルのただ中にいた我々には、そのローカル線がなんと神々しく見えたことか。

トランクを引きずりながら小走りで乗り込むと、1分ほどで列車は出発しました。我々のような乗り換え客を待っていたようです。20時過ぎにポントレジーナ駅に着き、ホームへ降りると、宿泊するホテル「Grand Hotel Kronenhof」(グランドホテル・クローネンホフ)のスタッフが迷わず我々の所に来て、「ようこそ」と、お迎えのBMWに案内してくれました。よくわかったなと見渡してみれば、東洋人の乗客は我々ふたりだけ。なるほど。

1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1) チューリヒ空港~ポントレジーナ

猪俣さんが宿泊した部屋。私の部屋は、これと対照的な造りだった

駅からホテルまでは車で2分ほどでしたが、かなり急勾配の坂道なので、荷物を引きずって登るのはつらいところ。予期せぬトラブルの後だっただけに、本当に助かりました。チェックインを済ませたら、バーで飲みながら軽食を食べて、倒れ込むように眠りました。ホテルの紹介は、また次回に。(つづく)

次回<世界遺産の360°ループ 1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅(2) サン・モリッツ~ティラーノ>

【取材協力】
スイス政府観光局

スイス インターナショナル エアラインズ

スイストラベルシステム

スイス・デラックス・ホテルズ

スイス1周鉄道旅

PROFILE

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国内で、海外で。&編集部員が話題の旅先の新たな魅力を「発見」し最新情報をリポートします。

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