永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(43)切なさに満ちた芸術家の台所 永瀬正敏が撮ったマンハッタン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。ニューヨークのマンハッタンでこの写真を撮った時、永瀬さんは何とも切ない気持ちになったそうです。

(43)切なさに満ちた芸術家の台所 永瀬正敏が撮ったマンハッタン

©Masatoshi Nagase

僕の中では、切なさを感じる1枚だ。<強さを凌駕する優しい表情 永瀬正敏が撮ったニューヨークの前衛芸術家>で紹介したニューヨーク・マンハッタンのアーティスト、ジェフリー・ヘンドリクスさん宅の台所である。

同じ階にあるリビングルームでポートレートを撮らせていただき、上の階にある作品を収蔵した部屋に向かおうと、階段を上っていて見かけた。さきほどいただいたお茶をここでいれてくださったんだ、と思い起こしつつシャッターを切っていたら、いろいろな思いがこみ上げてきた。

前衛芸術運動「フルクサス」に参加した世界的アーティストはこの時、80歳を超えて独り暮らしをしておられた。お手伝いさんがいるわけでも、ご家族が同居されているわけでもない。切なさ、強さ、生きること……。光の中から、そういうものが浮かび上がってきた。

アンディー・ウォーホルのように生前から大スターだった人は、アーティストのごく一部。今は有名でもかつては生活が大変だった人は大勢いる。台所というバックステージにあたる光を見つめながら、芸術と生活をめぐるさまざまな思いが僕の中に去来した。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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