京都ゆるり休日さんぽ

あったかぜんざいといちご大福で、早春の甘味を味わう京都「茶房一倫」

今年は暖冬ではありますが、1、2月の京都はやはり底冷えのする時期。一方で、花の便りや料理の一品に、少しずつ春の気配が漂う季節でもあります。今回訪ねたのは、吉田山の裏手にたたずむ甘味処「茶房一倫(いちりん)」。温かい甘味と春を告げる和菓子でひと休みしたい一軒です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

豆がホクホク、後口すっきりの“澄んだ”ぜんざい

京都「茶房一倫」。茶室をイメージした座敷には季節の花が生けられている

茶室をイメージした座敷には季節の花が生けられている

節分から立春にかけて、京都の2月の風物詩でもある節分祭でにぎわう吉田神社。その吉田山裏手に位置し、哲学の道銀閣寺へもほど近い住宅街の一角に「茶房一倫」はあります。茶釜の湯で抹茶を点(た)て、季節に合わせた香りや意匠をまとった甘味でもてなす茶房ながら、この店に流れているのはアットホームでリラックスした空気。喫茶店感覚でひと休みする人や手土産を買いに立ち寄る人の姿から、地元客に愛されていることがうかがえます。

京都「茶房一倫」。抹茶は「宇治茶 祇園辻利」のものを使用。ドリンクはすべて茶釜の湯を使って入れてくれる

抹茶は「宇治茶 祇園辻利」のものを使用。ドリンクはすべて茶釜の湯を使って入れてくれる

そんな一倫の冬の人気者は、冷えた体をぽかぽかと温めてくれるぜんざい。初めてオーダーする人は、その“澄んだ”ぜんざいの見た目に驚きます。透明な汁の下に、大粒のあずきが形をくずさずぎっしりと並ぶ福々しさ。香ばしく焼けた餅が、お椀(わん)の真ん中にぷっくりと鎮座します。

京都「茶房一倫」。「焼き餅ぜんざい」(単品730円)。ドリンクセットは1080円(抹茶は+100円)

「焼き餅ぜんざい」(単品730円)。ドリンクセットは1080円(抹茶は+100円)。いずれも税込み

「ぜんざいがにごるのは、あずきを炊いている途中で豆がつぶれるから。鍋に網をセットし落としぶたをして、できるだけ豆を動かさずにコトコト炊くことで、澄んだぜんざいができあがるんです」

京都「茶房一倫」店主の藤田倫子さん。一倫のある地域は自身の地元でもあり、なじみのお客様も多い

店主の藤田倫子さん。一倫のある地域は自身の地元でもあり、なじみのお客様も多い

そう話すのは、店主の藤田倫子さん。洋菓子と和菓子両方を学びながらも、シンプルな材料で作り手の思いや季節を表現する和菓子の世界に引かれ、和菓子店や甘味処などでの修行を経て、4年前にこの店をオープンしました。澄んだぜんざいは、敬愛する京都の甘味処のスタイルを研究し、自分らしくアレンジを加えたもの。澄んだ汁はすっきりとした口当たりで、豆丸ごとの食感や風味がいっそう引き立ちます。

和菓子の楽しみを広げる、フルーツ×あんこ

「洋菓子は“足す”ことで美しい見た目や味わいの層を作っていく一方で、和菓子は“引き算”でどこまで表現できるかという世界だったので、自分に合っているように感じて。けれど、和菓子作りを続けてきて、自分と同じく若手や女性の和菓子職人から刺激をもらう中で、今は遊びを“足す”面白さもわかってきました」

京都「茶房一倫」。ソファ席では常連客が喫茶店感覚で抹茶や甘味を楽しむ

ソファ席では常連客が喫茶店感覚で抹茶や甘味を楽しむ

例えば、定番の焼き餅・白玉ぜんざいのほかに、紅茶風味の白玉と輪切りのレモンを合わせた「レモンティーぜんざい」。6月の京都の定番和菓子「水無月(みなづき)」には、アンズやイチジクを合わせて。自慢のあんこと季節のフルーツを合わせた「あんフルーツトースト」はランチタイムの人気メニューです。

「いちご大福を考えた人ってホンマにすごいなって。フルーツとあんこって合うんですよね。そこからヒントを得て、新しい組み合わせを発見するとうれしいです」

京都「茶房一倫」。「いちご大福」(1個250円)。店内でドリンクと一緒にいただくことも、持ち帰りも可能

「いちご大福」(1個250円)。店内でドリンクと一緒にいただくことも、持ち帰りも可能

今ではすっかり定番の和菓子となったいちご大福も、最初は和菓子職人の遊び心から生まれたのかもしれません。そんな一倫の「いちご大福」は、白あんと餅でいちごを一粒丸ごと包んだ正統派。きめ細かな餅にほんのりといちごの赤が透け、ほおばると絹のように繊細な食感と上品な甘酸っぱさが調和する。藤田さんの定番の和菓子へのリスペクトが感じられます。

京都「茶房一倫」。店の奥は小さな坪庭から光が差し込む

店の奥は小さな坪庭から光が差し込む

「小さい店で、若手の職人がちょっと変わったことをやってもおもしろがってもらえる。それが京都のいいところかもしれませんね」と藤田さんは笑います。

冷えた体をほっと温めたり、一粒に春を感じたり、時には新鮮な組み合わせを楽しんだり。暮らしや季節に寄り添いながら、作り手の小さな工夫や遊び心が京都の和菓子を進化させてきたのでしょう。節分祭の道すがらや東山散歩の途中に、小さな茶房でぜひ一服してみてください。

京都「茶房一倫」。近隣の吉田神社では、2月2日~4日、風物詩である節分祭が開催。行き帰りの一服に立ち寄りたい

近隣の吉田神社では、2月2日~4日、風物詩である節分祭が開催。行き帰りの一服に立ち寄りたい

茶房一倫
https://www.instagram.com/ichirin1119

BOOK

あったかぜんざいといちご大福で、早春の甘味を味わう京都「茶房一倫」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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